前回に続いて、大正時代の創業者たちについて。
大正3年〜7年まで、第一次世界大戦による好景気が日本に訪れました。
鉄成金や船成金と呼ばれる、にわか富裕層も一握りですが、登場しました。
しかし、第一次大戦が終わるとともに、景気は下り始めました。
不況の上に、関東大震災が大正12年9月1日に発生しました。
この自然災害が日本経済に与えた影響は深刻で、昭和金融恐慌や昭和恐慌の原因にもなってしまいました。
こうした経済状況のなかにあって、起業する企業家たちがいました。
現在も営業を続ける企業もあり、それらの創業者たちに共通する理念は、目先の利益でなく、社会に貢献するということであったようです。
■ 江崎グリコ
創業者の江崎利一は、明治15年に佐賀県に生まれました。
両親は薬種業を商い、近在近郷を一軒ずつめぐり歩き、医療の相談相手もつとめていた。
暮らしは貧しかったそうです。
大正8年、江崎は漁師が牡蠣を煮ているところに出くわしました。
「グリコーゲンは日本の貝類、とくに牡蠣に多く含まれる」という記事を思い出しました。
江崎は、漁師から牡蠣の煮汁を分けてもらい、グリコーゲンの抽出に成功しました。
翌年、チフスにかかった息子に研究中のグリコーゲンエキスを与えたところ、病状が回復しました。
そうして江崎は、多くの子供たちにグリコーゲンを取って欲しいという願いから、キャラメルとして売り出しました。
大正10年に合名会社江崎商店を設立。
大正11年2月11日、大坂三越百貨店にてキャラメル、グリコを発売しました。
この日を「江崎グリコ創立記念日」とすることになったそうです。
昭和2年には、おまけ付きグリコを発売し、日本発の食玩が登場し大ヒットしました。
「ビスコ」が発売されるのは、昭和8年のことでした。
■ コマツ(株式会社小松製作所)
創業者の竹内明太郎は、土佐藩士竹内綱の長男として生まれました。
明太郎は父親とともに、石川県能美郡国府村(現・小松市)で銅山を経営していました。
明治33年のパリ万博の視察で、欧州の先進技術に圧倒されたそうです。
帰国した明太郎は、自家用機械生産のため、小松町の小松駅近くに小松鉄工所を開設しました。
鉱山事業から、機械工業へと乗り出すことになりました。
太平洋戦争中、日本海軍が米軍のブルドーザーを鹵獲、日本でも生産可能にするため小松鉄工所に送られてきました。
実用化のための研究が始まりましたが、これがコマツとブルドーザーのかかわりの始まりなのだそうです。
1921年5月13日に小松鉄工所が竹内鉱業から分離独立し、小松製作所が発足しました。
当初は不況の煽りを受け細々と経営していましたが、満州事変を境に業績が好転。
各種工作機械をはじめ、トラクターやブルドーザーの国産化にも成功したそうです。
■ 中島飛行機株式会社
中島飛行機の創業者である、中島知久平は海軍機関将校でした。
軍人としての中島は、誰よりも早く航空機の可能性を見出していましたが、海軍自体が航空機開発に消極的でした。
そのため、海軍をやめ郷里の群馬に飛行機研究所を開設しました。
中島飛行機株式会社は、エンジンや機体の開発を独自に行う能力と、自社での一貫生産を可能とする高い技術力を備えていました。
第二次世界大戦終戦までは東洋最大、世界有数の航空機メーカーであった。
堀越二郎のいた三菱内燃機製造(現在の三菱重工業)とは、ライバル関係にありました。
中島飛行機からは、九七式戦闘機や一式戦闘機「隼」、四式戦闘機「疾風」などの多くの名機が生み出されました。
終戦までに計29925機の航空機を生産しました。
三菱が設計した零戦の全体の約2/3も中島飛行機が生産していたそうです。
ちなみに、夜間戦闘機「月光」の設計者は、のちに新幹線の設計もおこなったそうです。
太平洋戦争後は、財閥解体によって航空機の生産はもとより研究も禁止され、二度と軍需産業に進出できないよう12社に解体されました。
技術者の多くは自動車産業へ転進し、日本の自動車産業の発展に大きな貢献を残しました。
解体された12社のなかには、富士重工業(スバル)、イワフジ工業、富士精密工業など現在も操業を続けています。
富士精密工業は、プリンス自動車工業となり、のちに日産自動車に合併されました。
車好きの知り合いに聞いたところ、プリンス自動車工業の車は、デザインがとても斬新なのだそうです。
グロリア、スカイラインはプリンス自動車のブランドであったそうです。
この時代、他にも魅力的な企業が数多く設立されています。
大正時代から昭和の初めにかけての経済状況は、昭和末から平成にかけての時代と似ているかもしれません。
これまで紹介した創業者たちに共通する理念は、目先の利益だけでなく、「社会のため」「誰かのため」など社会貢献が根底にあったような気がします。
2013年10月26日
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