ソフトバンク怒濤の8年間の「正史」
帯にはこう書かれている。『孫正義の参謀』は元民主党議員の著者がソフトバンク社長室長として内側からみてきた、孫正義という個人、ソフトバンクという企業のリアルを描いた貴重な一冊だ。
《目次》
嶋聡
2005年9月11日。小泉純一郎の断行した郵政解散総選挙で私は三期九年間務めた衆議院議員の議席を失った。
民主党議員の半数が落選したこの選挙で、著者の嶋聡も落選した。すでに決めていたのだろう、落選の4日後には「イギリスでは落選した場合、政治家の経験をビジネス界で活かします」とソフトバンクを訪ねた。
以来約3000日間、8年間をソフトバンク社長室長として過ごした。
ソフトバンク4つの非凡さ
本著を読んだ限りだが、ソフトバンクが他の企業と違って非凡な点を4つにまとめる。
政治を重視
すでに気づいた人もいるのではないだろうか。社長室長に元民主党議員を置いて8年間、というのは明らかに行政対応を重視した采配である。
本著には光回線をひくため、当時の鳩山首相、原口総務大臣と交渉していく過程が書かれている。これだけでなく、「元民主党議員」しかも「代表の知恵袋」ともいわれた嶋さんを経営を実働させるポジションに登用した、その好影響は計り知れない。
電波を使わせてもらう事業は政治、行政との仲が重要だということを、ボーダフォン買収前の2005年から孫さんは考えていたということだ。
有言実行
「NTTドコモさんを抜く」など大言壮語を吐くが、結局は実現する(もちろん実現できずにホラを吹く結果になることもあるが)。規模の大きいものから、規模の小さいものまで。トップの有言実行は社員をモチベートする。
ツイッターも駆使して「やりましょう」と言っては、実際にやる。そして、この「やりましょう」の進捗をソフトバンクは社としてまとめているというのもセンスが良い。
孫正義 @masason 「やりましょう」進捗状況 | SoftBank
イノベーションの連続
- 新しい財貨の清算
- 新しい生産方法の導入
- 新しい市場の開拓
- 原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
- 新しい組織の実現(カルテルによる独占の形成やその打破)
ヨーゼフ・シュンペーター『経済発展の理論』から本著に引用されたイノベーションの5つの形だ。
このうち5番目の「独占の打破」に在任中に力を入れたと著者は語る。光回線はNTTという独占事業者との戦いで、自然エネルギー業界への参入も地域独占の電力事業者に挑むものだったと。
iPhonenに関して孫さんは、プロダクトができあがる2年前にジョブズのもとに訪問して、「こんなのをつくってくれないか?」とスケッチを持ち来んだ。そしてジョブズから「まだ誰にも話していないのに、君が最初に会いにきた。だから君にあげよう」と言わせた。
驚くべきことに、これもキャリアであるボーダフォン買収前のことである。
大胆に借金
カエサルも孫社長と同じく借金王であった。「借金が少額のうちは債権者が強者で債務者は弱者だが、額が増大するやこの関係は逆転するという点をカエサルは突いた」
孫社長がそれを意識しているかどうかはわからない。ただ、カエサルの場合は破滅されては大変、と最大の債権者クラックスがカエサルを全力で支えたという。
イノベーションを連続しておこすためには大胆な投資が必要である。投資が大胆ということは、借金が大胆。米スプリント買収の約220億ドル(当時約2兆5800億円)は多くの国民の度肝を抜いた。
ソフトバンクのこの先
「5年以内(2020年まで)に10億人、アライアンスを含めて20億人のマーケットを作ります」
大胆に借金して海外進出し、イノベーションを重ねて、行政も味方にして、有言実行を果たすことができるのか。ソフトバンクのこの先に注目せざるを得ない。