ガラパゴス諸島周辺に、新たに禁漁区が設けられた。多彩な海洋生物が暮らし、サメの数は知られている中で世界で最も多い。
エクアドルのラファエル・コレア大統領は21日、海洋禁漁区の創設を発表した。火山群島周辺に散在する21の小規模な保護区と合わせると、4万7000平方キロ以上が保護対象となり、全体ではエクアドルが管理するガラパゴス諸島周辺海域の約3分の1に達する。新たな禁漁区だけでも4万平方キロと広く、ガラパゴス諸島北端のダーウィン島、ウォルフ島周辺にまで及んでいる。(参考記事:「南米チリ、巨大な海洋保護区を新設」)
他に類を見ない生物多様性を誇り、チャールズ・ダーウィンに進化論の着想を与えたことで世界遺産に登録されているガラパゴス諸島。島々の陸地のうち97%はすでに国立公園として保護されている。しかし周辺海域のうち、完全に保護されているのは1%未満だった。「その結果、ここ数年は合法あるいは非合法の漁によって野生生物が打撃を受け、その被害が増え続けていました」と語るのは、ナショナル ジオグラフィック協会付きエクスプローラーのエンリック・サラ氏だ。同氏は2015年12月、「原始の海プロジェクト(Pristine Sea project)」の一環で、この海域の調査を主導した。(参考記事:「“原始の海”を守る、エンリック・サラ」)
だが現在、「世界で最も貴重な海域のひとつを守ることで、エクアドルは大変なリーダーシップを発揮しています」とサラ氏は評価する。彼が率いる「原始の海プロジェクト」は、手つかずの海域を調査し、保護を支援するものだ。
新設された禁漁区では今後、伝統的な漁業も禁じられる。近年はこの海域に産業面からの関心はなかったものの、採鉱や石油採掘も認められない。(参考記事:「キリバス、海洋保護区の漁業全面禁止へ」)
禁漁区の創設に関し、コレア大統領は次のように述べた。「ガラパゴス諸島は、まれに見る生態学的・経済的価値を誇ります。私たちの子や孫の世代にまでこの遺産を引き継ぐため、エクアドル政府は海洋禁漁区の創設を支援します。ここはできるだけ多くの種が、未来の世代の楽しみや学びのために保護されている素晴らしい世界です」(参考記事:「米政府、世界最大の海洋保護区を計画」)
圧倒的な豊かさ
サラ氏によれば、ガラパゴス諸島を取り巻く海には飛び抜けて豊かな生態系があるという。4つの主要な海流がぶつかりあい、栄養分の豊富な深いところの海水が湧き上がっているからだ。特にダーウィン島とウォルフ島は、回遊性のシュモクザメからメジロザメ属まで、サメの種類が非常に豊富だ。
チャールズ・ダーウィン研究所のペラヨ・サリナス氏やサラ氏らによる最近の研究によれば、この海域の魚類バイオマスは1ヘクタール当たり平均17.5トンにもなるという。これは、科学調査が行われた中では第2位のココ島国立公園(コスタリカ)の約2倍にも及ぶ豊かさだ。(参考記事:「ココ島沖の海景色」)
とはいえ、依然としてガラパゴスの多様性は安泰ではない。サメのヒレをアジアの闇市場でたびたび売る違法な漁業者が後を絶たないからだ。ガラパゴス諸島の一部海域ではサメが減少しているほか、同じく標的にされているハタやナマコも数を減らしている。
しかし、自然資源を守る姿勢を明らかにしたことで「エクアドルは経済の強力な原動力も守ることになります」とサラ氏は言う。
これは数字を見れば明らかだ。ナショナル ジオグラフィック協会の「原始の海プロジェクト」と米カリフォルニア大学サンタバーバラ校がこのほど行った調査で、ガラパゴス諸島近海のサメが生涯に生み出す利益は、ダイビングと観光産業の隆盛により、1匹あたり約540万ドルに上ることが分かった。一方、サメを捕まえて売ったら1匹につき200ドルが漁師に入るだけだ。海の観光はガラパゴス諸島の雇用の3分の1以上を支えており、年間1億7800万ドルをもたらしている。
しかも、今回設定された大規模な禁漁区は、禁漁区以外での漁が認められている漁民にとっても恩恵があるとサラ氏は言う。「これまでの事例から、禁漁が厳格に守られる区域があることで魚が増えて禁漁区外にまであふれ、結果的に漁民の収入も増えることが分かっています」
したがって、新たな禁漁区は人と自然にとって「ウィン・ウィン」の結果をもたらすだろうとサラ氏は語った。(参考記事:「海を守る法律と、国際的な取り組み」)