情報通信研究機構(以下NICT)、NTT千葉支店、神崎町社会福祉協議会は、次世代無線通信規格『Wi-SUN』(Wireless Smart Utility Network)を用いた高齢者見守りシステムの捜索模擬訓練を3月27日、千葉県香取郡神崎町において実施すると発表しました。
高齢者、特に認知症高齢者の見守りを想定し、地域住民の声かけ体験と、捜索支援システムの実証実験を連携させた模擬訓練。徘徊し行方不明になった高齢者役を、早期に発見できるかどうかの検証を行います。
Wi-SUNは、NICTが普及を進めている次世代通信規格。米国電気電子学会(IEEE)においても『IEEE 802.15.4g』(物理層)として標準化されています。900MHz前後の周波数帯の電波で通信を行う帯域であり、日本においては免許不要で利用できる帯域(いわゆるISMバンド。このほか2.4GHz帯が有名)として920MHz帯が割り当てられました。
主な特徴は、複数の端末でバケツリレーのように電波を中継できる『マルチホッピング』に対応することと、消費電力の低さ、そして端末同士で500m前後の距離を通信できる点です。ただし通信速度は数百kbpsとそれほど速くはありません。現在は、スマートメーター用の近距離無線通信として東京電力などが採用しています。
今回の模擬訓練では、Wi-SUNネットワークをベースとしたポジショントラッキングおよびアラート機能を備えた端末と、データ収集クラウドシステムを使用。
まず高齢者役が所持するデバイスから発信されるビーコンが、町中に設置されたWi-SUNルーターで検知されます。アプリケーションサーバーは、クラウドに蓄積されたWi-SUNビーコン情報と捜索対象者の対応付けを行い、行方不明届けが出ている捜索対象者の行動経路や現在位置の推定結果を参照できるように視覚化する仕組み。このとき、高齢者役と遭遇する可能性の高い捜索協力者役を自動的に抽出し、協力者役が所持するスマートフォンに捜索協力依頼を通知します。
捜索協力者役の端末では高齢者役の位置情報を把握できるほか、高齢者役が数十m以内に接近した場合は、別途通知を行なう機能も装備しています。
NICTでは今回の訓練結果や参加者との意見交換内容をもとにして、機能面や使いやすさの向上を図るほか、高齢者見守りの実態とニーズの把握を重ねて、ソリューションサービスの実現可能性を検討するとの展望を発表しています。
NICTによれば、認知症を患う高齢者は2020年には全国で700万人を超えると予想しており、"徘徊による行方不明"は現在でも年間1万件を超えるといいます。ICTによる対策を考慮したとき、端末の電源持続時間や携帯しやすい小型・軽量化、価格・料金の低廉化などが課題になるとのことです。
IoTを利用した高齢者の見守りに関しては、現在でも様々な企業や団体が取り組み、市場に対する提案が継続的に行われています。この分野でWi-SUN規格を採用するメリットは、単体で比較的長距離の通信ができる点と、消費電力が低く抑えられる点でしょう。実際にこの規格が使われるようになるかは分かりませんが、親世代の高齢化、そしてそれに伴う病について向き合わなくてはならなくなったとき、それを助ける仕組みづくりがなされているかどうかは、介護に関する心身の負担を考える上で非常に重要です。