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【社説】

高校生と政治 届け出なら違憲の疑い

 高校生の政治への関心をなえさせるだけでなく、表現や内心の自由を侵しかねない。校外での政治活動を届け出るよう求める学校の動きである。文部科学省は届け出制容認の見解を改めるべきだ。

 十八歳以上への選挙権年齢の引き下げを前に、愛媛県の全県立高校が校則を変え、校外での政治活動に参加する生徒に、前もって学校に届け出る義務を課すという。

 この校則の変更について、中村時広知事は「公選法違反事件に巻き込まれる可能性がある。今の段階では未成年を守るのは大事だと思う」と語り、理解を示した。教育行政の権限をやたらと広く解釈していないか。

 主権者としての権利を自らの責任で適切に行使できるよう、生徒を教え、導くことまでが、学校の権限であり、責任である。生徒を疑い、恐れるあまり、校外での個人的な活動まで管理下に置くのは、越権行為というほかない。

 届け出制にすれば、どんな政治集団に関わり、どんな信条や主張を持っているのかを、おのずと学校に把握されてしまう。就職や大学受験に響くのではないかと不安や不信を抱くかもしれない。

 政治活動は憲法上の表現の自由に根ざす権利である。それは思想や良心の発露だったり、幸福追求や学問としての取り組みだったりもするだろう。子どもの権利条約も同様の権利を保障している。

 生徒が制約を感じたり、戸惑ったり、また自主的な活動を控えたりすれば、そうした基本的人権の侵害にも等しいといえる。

 全国の高校は、事前と事後とを問わず、憲法違反の疑いもある届け出を強いるべきではない。生徒たち、親たちもよく考えたい。

 愛媛県での動きは、教育委員会が昨年十二月、校則の変更例を学校側に示したことが発端となった。今年に入り、文科省が届け出制を認める見解を打ち出したことも、背中を押したに違いない。

 文科省は昨年十月、校外での生徒の選挙運動や政治活動を解禁した。ただし、違法なものや暴力的なもの、学業や生活に支障を来す場合などには制限、禁止しうるとの条件をつけた。これが届け出制の出発点となっている。

 個人的な政治的信条の是非を問わないよう、文科省は学校に配慮を促している。だが、生徒の内心に踏み込むことに変わりはない。

 高校生か否かによって、同年代の若者たちの間で、政治活動の自由と権利をめぐる格差も生じている。これも重大な問題である。

 

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