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編集長の視点|松永 和紀

どんなコラム?
職業は科学ライターだけど、毎日お買い物をし、家族の食事を作る生活者、消費者でもあります。多角的な視点で食の課題に迫ります
プロフィール
京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、新聞記者勤務10年を経て2000年からフリーランスの科学ライターとして活動

バランスの良い適量の食事はやっぱり、死亡リスクを大きく下げる

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2016年3月25日

 「食事バランスガイド」を守っているほど、死亡リスクが下がる……。国立がん研究センターなどが中心となり進められている「多目的コホート研究」(JPHCスタディ)の結果が、論文としてまとめられ、プレスリリースも出されました。国内外で報道されています。

 国の定めた食事バランスガイドが、日本の一般の人たちに浸透しているとは言いがたく、どんな内容なのか言えない人も大勢いるであろう現状で、「ガイドを守っている」をどう判断したのだろう? ニュースを聞いた当初は不思議でしたが、論文を読んでわかりました。ガイドを積極的に意識し守っているかどうか、ではなく、食生活調査の結果が食事バランスガイドに沿ったものかどうか、調査した側がスコア化し、そのスコアと死亡率の関連を調べたものでした。なるほど。

 研究の対象は、岩手から沖縄まで11保健所管内の住民です。1990年と93年に分けて行われた1回目の調査で食事について答えてもらい、さらに各5年後、2回目としてアンケートを実施し、より詳しい食事と生活習慣について答えてもらっています。その後、1回目と2回目の両方で循環器疾患やがん等にかかっていなかった人を平均して15年間追跡して、死亡リスクと食事の関係をみています。
 
 1回目の調査段階では14万人あまりが対象でしたが、2回目の調査で10万人あまりとなり、極端に摂取量が多かったり少なかったりという人を対象外とするなど科学的根拠に基づきデータを整理し、残った45歳から75歳までの男性3万6624人、女性4万2970人のデータを解析しました。非常に大規模で綿密な研究です。

 その結果、総死亡、循環器疾患死亡、脳血管疾患死亡においては、食事バランスガイドに沿う食生活をし、点数が高かった人ほどリスクが低い、というきれいな結果が出てきました。
 点数により4グループに分けて比較すると、総死亡リスクでは、もっとも低い点数のグループを1.0とした時、もっとも高いグループは0.85。リスクが15%も下がっています。脳血管疾患死亡は、もっとも点数が低いグループを1.0とした時、もっとも点数が高いグループは0.78。22%の減少です。

 具体的には、野菜と果物を多めにとり、肉と魚などのいわゆる主菜を適度にとるのが、循環器疾患、とくに脳血管疾患のリスクを大きく下げているようです。これは、他国で行われた先行研究とも一致しています。

 バランスの良い適量の食事が、これほど大きな効果を持つのか。私は驚きました。多くの人は、当たり前と感じるのかもしれませんが、この低下の程度は実に大きい。ちまたでは健康食品の広告宣伝が氾濫していますが、血圧が、とか血糖値が、などと局所的な改善のアピールでしかありません。死亡リスクというのは、さまざまな健康影響を網羅した究極のもの。食事バランスガイドほど顕著な効果を示し強いエビデンスを持つ健康製品は、ありません。

 さらにあえて踏み込めば、脳血管疾患死亡リスクが大きく下がっている意味が重大。日本人は長らく、脳卒中などの脳血管疾患リスクに苦しみ、死亡だけでなく後遺症も深刻でした。食事バランスガイドに沿った食事を心掛けるだけで、ピンピンコロリに大きく近づく、と考えれば、ほら、食事バランスガイドがぐっと身近に感じられることでしょう。

 これらは年齢や性別、BMIの違いや喫煙しているかどうか、緑茶の摂取量、さまざまな病気にかかっているかどうかなど、死亡率にかかわる可能性のある多くの項目の影響をできるだけ取り除くようにして解析されています。
 がん死亡と心疾患死亡は、統計学的な有意差はなかったものの、点数が高いほどリスクが低くなる傾向は同じです。

 日本人の食生活というと「肉よりも魚の方をよく食べるから、よいのだ」とよく言われます。とくに、循環器疾患のリスクにおける魚のn-3系脂肪酸が注目されています。今回の解析でも、より細分化した検討も行っており、レッドミート(牛肉や豚肉、羊の肉、ハムやソーセージなど)とホワイトミート(魚や鶏肉など)の摂取の比率もスコア化して調べていますが、違いは出ませんでした。これについて論文は、欧米人と比較して日本人はホワイトミートを多く摂りレッドミートは少なく、そのバランスが適切に維持されているからだろう、と考察しています。
 
 この論文でちょっと興味深いのは、2回目の食事調査の段階(ベースライン)で、食事バランスガイドに沿った食生活を送っている人とそうではない人の傾向の違いを示していること。各人に点数をつけて4グループに分け、グループの特徴を表で示しています。それを見ると、男性は食事バランスガイドに沿う食生活を送っている人が少なく、もっとも低い点数のグループの8割以上の人数を占めています。一方、女性は一番高い点数のグループの約9割に上っています。

 それに、点数が高いグループほど、年齢も高い傾向にあります。喫煙者の割合は、点数が低いグループほど顕著に多く、点数が上がるほど少なくなります。アルコールを週に1日以上飲む人の割合も、点数が上がるほど下がります。

 食事をきちんと摂れないことと、喫煙やアルコール摂取などほかの生活習慣はやっぱりリンクしていそうな感じ。健康に気をつけていないから、食事は不摂生、タバコも酒も、ということになるのでしょうか。今後はそうした男性への働きかけが重要だ、ということを、この調査は如実に示しているようです。

 いずれにせよ、バランスのよい適度な量の食事の優位性は非常に大きなもので、ピンピンコロリに一歩近づく、ということが、明確な根拠を持って示されました。食事バランスガイドを見直しましょう。主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物をほどほどにとり、とくに野菜や果物は多めに……。安価で最強の健康アドバイスです。

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