体育中の事故、地震や津波の災害、不審者の侵入……。

 授業や登下校中の事件、事故をめぐり、学校や自治体の対応を定めた指針案を、文部科学省の有識者会議がまとめた。今月中にも全国の学校に通知する。

 子どもの死やけがの事実をつかみ、原因を探り、再発防止に生かす。その一歩にしたい。

 指針案は、子どもが亡くなった場合、家族の要望を受け、教育委員会などが第三者調査委員会を立ち上げることを初めてルール化した。委員を職能団体や学会の推薦で選ぶなど、公平で中立的な人選を求めている。

 発生3日以内に関係する全教職員から聞き取り調査をし、1週間以内に保護者に最初の説明をすることも盛り込んだ。

 学校での事件や事故をめぐっては、家族と学校の対立の構図が繰り返されてきた。

 保護者から責任を追及されたくないと、経緯をなかなか明らかにしない学校。事実がわからず学校に不信をつのらせ、裁判に訴えるしか手のない家族。

 両者の間の壁を越えるには、子どもの命を守りたいと願う出発点を確かめ合い、対話を重ねるしかない。

 関係者は、その原点を胸に、指針に息を吹き込んでほしい。

 指針案には課題も多い。

 学校と遺族の関係がこじれる恐れのある場合、教委などがコーディネーターを派遣することを提案した。自治体の職員が役目を果たすことを想定しているが、保護者はどこまで中立的な立場と受け止めるだろうか。

 役割を果たせる人材はまだ少ないのが実情だ。教委は学識経験者らも含め、日頃から幅広く人選しておく必要がある。

 指針案には、報道など外部への対応のため、窓口を一本化することも盛り込んだ。

 混乱を避けるためというが、情報が絞り込まれ、学校に不都合な話が隠される恐れもはらむ。教職員らの口封じにならないよう注意してほしい。

 発生防止のカギを握るのは、国だ。各地の学校の事件や事故について報告を受けて事例を蓄積し、他の自治体や学校に知らせる役割を果たす。原因を分析し、対策を発信するには、専門の部門を設ける必要があろう。

 子どもの死をめぐっては、自殺の背景調査の指針や、保育施設での事故後の対応のガイドラインなどが、文科省や厚生労働省で相次いで生まれている。

 省庁の縦割りを越え、それらをまとめて、子どものすべての悔やまれる顛末(てんまつ)を真剣に検証する。そんな仕組みづくりを始める時期に来ている。