
「博士の愛した数式」に韻が似てる気もするし、いまどき「男爵」はないよね…。なんて思いながら手に取った本だったけど、ところがどっこい!
「男爵」って響きのおかげか、ひと通り読み終わると、この本を抱きしめてしまいたくなるような感覚が残る本だった。
いや、こんなにこの本がいとおしく思えたのは、「男爵」って言葉なんか関係なく、こんな風にコレクションした人がいたこと、そしてこうしてめぐりめぐって、いち飛行機ファンの元に届けらるに至ったことへの感謝とありがたさだ。
「男爵」っていうと、鹿鳴館のような住まいに階級バッジを胸にたくさん身につけた、いわゆる「バロン」的な大正ロマンの男爵を思ってしまったけれど、案外我々にも身近だった。さて、どんな方でしょう?
はい、間を置かずに答えちゃいますけど、かの有名な「鳥人間コンテスト」(読売テレビ)の初代大会委員長として、開会のピストルをバチコーンッ! と撃ってるお方でありました(笑)
その「男爵」である故・宮原旭(みやはら・あさひ)氏は、学習院初等科から高等科を卒業後、イギリスのグラスゴー大学で航空工学を専攻し、飛行機制作に熱中したらしい。帰国後は三菱航空機に入社し、九十七式二号艦攻、九九式襲撃/軍偵察機などの設計に関わる。この辺、竜子には良くわからなかったのだけど、以前、武田一男さんから報知号についてのコメントを寄せていただいたけれど、その報知号の太平洋横断飛行計画に参加した、吉原清治操縦士の開設した会社でグライダー制作などをし、終戦までに370機ものグライダーを制作したという。
宮原氏は1983年に79歳で亡くなられたけど、氏の残した写真は翌年に日本自作航空機連盟に寄贈され、2004年に航空遺産の収集と保護、調査の目的で設立された「航空遺産継承基金」を契機に、3500枚に及ぶコレクションのデジタルデータ化が進められ、本冊子となって登場したのです。写真の多くは、まだ写真機自体が一般的でなかった1920年〜30年代にかけて撮影されたもの。
これらの写真の何が凄いって…。当時の機体はもちろん、飛行機乗りの姿や家族などが、ハッキリと鮮明に写っていることだ! 昭和ひとケタの当時の様子が、えらいきれいに刻されているのだ! おもったほどスマートじゃないパイロットの表情(漁師みたい!)、奥さんの肉づきの良い体格、おかっぱ頭のおしゃまな少女、袴をはいたはな垂れ小僧、映画にでも出てきそうな鬼軍曹みたいな人や、宮原氏と接した外国人…。大衆の様子がこんなに鮮明に見れることってあるんだろうか。なんだか、想像している昭和ひとケタのイメージってもっとぼやけた感じだったんだけど、それってもしかしたら今まで目にした写真がぼやけてたからじゃないか? とまで思っちゃったよ(笑)
写真のキャプションに名前が書いてあるが、ハッキリいって、それが誰なのか竜子にはぜんっぜん分からない。それに、軍用機に興味すら持たなかったわけで、どんな価値のある機体なのか良くわからなかったりする。報知号なんかはこのブログでも話題にのぼったことがあったのを機に、親しみをもって他の本を読めるようになった。報知号もこの本にも出てくるけど、半年前と今じゃ、楽しみの深さが少しだけ違う。それと同じで、今は分からないけど、ここに乗ってる人や事が、今はどんな歴史上の人物なのか分かんないことが多いけどそのうちなんかでつながっていくのだと思う。
それからね、この写真は宮原氏が亡くなった後に寄贈されたものなので、裏書きのないものなんかは、映ってる人が誰か分からなかったりするんだ。こういう資料が世の中に出ることで、他の写真や日記なんかも引き寄せられるように集まれば、もう少し研究が進められて、いずれ明らかになるのかもしれない。そんなときにまた新しい歴史の扉が開いたりして、どんどん広がっていけばすっごい面白いだろなって思う。
本屋さんで「男爵の愛した翼たち」ってタイトルを手にしたとき、最初はケチつけちゃったけど、なんだかこの本を世に送ってくれた作り手たちの、宮原男爵に対する敬意なのかな、って思えてきたよ。
竜子にとってもこの2冊の本は、生涯楽しめる資料になるんだと思った。値段は本や写真集にしたら、少し高いように感じるかもしれないけれど、これだけの内容が詰まって、長い間にまたがって楽しめる資料なのだから、とてもお値打ちだと思う!
9月中頃に本屋で購入しましたが、Amazonだと、予約受付中になっているようです。確かに歴史的な価値のある本だと思いますので、今のうちに。
↓宮原男爵に感謝♪
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■執筆:藤原洋 藤田俊夫
■監修:
独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所
■発行:
財団法人日本航空協会 航空遺産継承基金
■発売:
オフィスHANS
■価格:[上巻]2,940円 [下巻]3,150円
■Amazonでも取扱いあり(三樹書房でも並売なのか?…わたしのは、オフィスHANS(自費出版?)になってるけど)
男爵の愛した翼たち 上(三樹書房)
男爵の愛した翼たち 下(三樹書房)