副業のやつの追記(長文注意)

昨日書いた「副業とは己の力を問うものだけを指す」の記事に関する界隈の反応を見たところ、じゃっかんの追記が必要かしらと思った。

しかしこれはこれで長くなりそうなので、新しい記事という形で、反応をいくつかピックアップしつつ進める。

※なお僕は労働基準法の専門家ではないので、実務的にどうなのか等の詳細については労働基準監督署なり社労士さんなり何なりに確認してください。

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副業がある場合における時間外割増の支払いについて。迷惑がかかるつーても理解したうえで雇用契約結んでるなら問題ないのでは
[副業がある場合における時間外割増の支払いについて。迷惑がかかるつーても理解したうえで雇用契約結んでるなら問題ないのでは – tick2tack のコメント / はてなブックマークより]

契約内容がどうであれ、つまりそれ単体では違法性が認められない労働契約であったとしても、第38条第1項で複数の勤務先の労働時間は通算すると定められている以上、実態として主業(または先に労働契約を締結した会社)での労働時間と通算して法定労働時間を超えるような労働時間となるのであれば、第13条によりその契約の労働時間に関わる部分が無効となる。

(この法律違反の契約)
第十三条  この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。
[労働基準法より]

さらに実際に労働させてしまうと、第32条で定められる1日あたり8時間、1週間あたり40時間までという労働時間を超えて労働させているということになる。

(労働時間)
第三十二条  使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
○2  使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
[労働基準法より]

第32条違反の使用者には第119条により懲役6か月または30万円以下の罰金が科せられる。

第百十九条  次の各号の一に該当する者は、これを六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
一  第三条、第四条、第七条、第十六条、第十七条、第十八条第一項、第十九条、第二十条、第二十二条第四項、第三十二条、第三十四条、第三十五条、第三十六条第一項ただし書、第三十七条、第三十九条、第六十一条、第六十二条、第六十四条の三から第六十七条まで、第七十二条、第七十五条から第七十七条まで、第七十九条、第八十条、第九十四条第二項、第九十六条又は第百四条第二項の規定に違反した者
[労働基準法より]

労働基準法は強行的効力をもっていて、たとえ、時間外労働になってしまうことを労働者側が納得していたとしても(同意書のようなものに捺印させられていたとしても)強制的に適用され、しかも使用者側には刑事罰まで付いてくるという強力な法律である。

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普通副業ってフリーランス形態でやるもんじゃないのか。
[普通副業ってフリーランス形態でやるもんじゃないのか。 – KoshianX のコメント / はてなブックマークより]

副業の意味は「本業のほかの職務」みたいな意味であって、それ以上の厳密な定義があるわけではない。フリーランス形態の副業もあるだろうし、日中はサラリーマンだけど夜や週末などの空き時間を使ってどこかでアルバイトしようというような労働者としての副業もあるだろうし、株式投資など資産運用だと副業というより副収入のものもあるだろう。ブログに貼ってたバナーの報酬がたまって振り込まれた的な不労所得のようなものも、これも副収入として成立しているのであれば副業といえなくもない。

ここで第38条第1項を改めて見てみる。

(時間計算)
第三十八条  労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
[労働基準法より]

労働基準法的には労働時間の通算ということとなるため、主業が会社員(労働者)の場合に副業がまた労働者(当然ながらパートやアルバイト等を含む)である時に、この第38条第1項が使用者側にとって運用上の障害となりうるから云々かんぬんというのは前記事にて書いたが、36協定について言及していなかったのでここで追記したい。

法定労働時間を超える労働時間は時間外労働(いわゆる残業)であり、労働者へは割増賃金が支払わられなければならないのだが、これは使用者が割増賃金を支払えば時間外労働をさせてもよいということではない。時間外労働を可能にするには36協定(サブロクきょうてい)を結んでいることが大前提であり、36協定なしに時間外労働が発生していること自体が違法だということも、これまた、企業の副業禁止のひとつの要因たりえるんじゃないかと考えている。

36協定とは、第36条にある、使用者と労働組合とで結ぶ労使協定のことだ。これにより法定労働時間の範囲から解放され、時間外や休日の労働が可能となる。ようするに、たとえば決算期になると経理部門はやたら忙しくて残業しなくてはならない……ということが毎年恒例のごとく安定してわかっているのであれば、経理部門に関してはそうした時期はこれだけの残業をしてもらいます的なことを明文化しておき、さらに労基署にも提出してこういうことなのでよろしくねということにしておくというものだ。これにより使用者は第32条の違反を免除されるが、36協定を結んでいないのに残業をさせていたら、割増賃金の有無以前にそのまま直ちに労働基準法違反となる。

(時間外及び休日の労働)
第三十六条  使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
[労働基準法より]

実務的には、割増賃金が支払われていれば穏便というか、労基署に訴えられることもないのだろうが、そもそもの話として労働者が(あるいは使用者さえ)36協定のことを知らない可能性もある。実際「36協定が無い中小企業の半数以上が違法残業 厚生労働省の調査で」ということらしいので(タイトルがちょっとわかりにくいが、ようするに2013年4月1日時点で中小企業の56.6%が36協定を結んでおらず、その半数以上が実際には時間外労働をさせており違法状態であるという内容のニュース)、義務教育などで詳細を学ぶわけでもない労働基準法なだけに、36協定の無い会社がそれだけあるのであれば、労働者が36協定のことを知らなくてもおかしくないと思われる(どんな会社にも労働組合があるわけでもないし。36協定自体は労働組合の有無にかかわらず結ばなければならないが、それ自体を知るという観点では労働組合が存在するかどうかは影響がありそう)。

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時間外や休日の労働についてはさまざまなケースがあり(1年の間において転職した時に前職で記録された労働時間が転職先の36協定の限度時間に匹敵している場合はどうするのか、とか、翌日が休日の場合に残業が徹夜になって翌朝帰宅した場合の休日の扱いについてとか、まあいろいろ)、そのそれぞれにおいてなかなか興味深いのでどんどん追記していきたい気持ちがなくもないけど、なんかそういう趣旨のブログでもないし労務の専門家でもないのでってことでひとまずこの辺にしておこう。あと、就業規定で勤務時間が定められてないような場合でも労働者である以上は労働時間の限度があるので(会社の就業規定よりも労働基準法のほうが強い)、裁量労働制の届出書が提出されているかとかが鍵となるだろう。また、労働者でない副業(もしくは主業が非労働者で副業が労働者)であっても、労働時間の通算が発生しなくなるだけで、人間が人間らしく生きるためにというか休息は必要なのであり、非労働者としての業務時間がものすごい長いことをわかっていながら労働契約を結ぶ会社が長時間の勤務をさせる場合は、使用者には労働者の健康保護の観点からの配慮が求められ、内容によっては違法となることもありえる。

……そんなこんなで労働基準法まわりのことは、法律自体も概説書もケーススタディも判例もどれも読みごたえもあるし勉強になるし、何より覚えていて何ら損をするものでもないので、気になる人はいろいろ調べたらいいと思う。

使用者にとってはわずらわしいとでも思うのかもしれないが、そもそも労働基準法は労働者を守る法律であるからして、国民の大半が労働者であろう実態を鑑みるに、義務教育の中に含めても良いのではないだろうか。