新しいスタートアップの領域として注目されている「宇宙」市場。先日、史上初めてRocketが衛星軌道に突入し、地球に引き返して垂直軟着陸を成功させたイーロン・マスク氏のSpaceXや、Amazonのジェフ・ベゾス氏が設立したBlue Originがロケットを打ち上げて宇宙を準軌道飛行した後に地上に着陸させるなど、昨年から今年にかけて色々なニュースが飛び込んできていて、一気に宇宙が私たちの身近なものとして次第に見え始めてきました。
もちろん、日本勢も負けていません。先日には、宇宙ゴミを掃除するスタートアップの「Astroscale」やGoogleの宇宙レースで世界初の民間月面探査として挑む 「HAKUTO」など、さまざまなプレイヤーが活躍しています。
そんななか、ここ九州・福岡からも人工衛星で活躍するチームがいます。そのチームは、70代のベテラン科学者と20代の若き研究者がタッグを組んだ宇宙開発ベンチャー「QPS研究所」。「九州発の小型人工衛星を作ろう」を合言葉に、任意団体として活動を続けてきた大学らによるQPS研究会を経て、九州大学の教授であった八坂哲雄さん、櫻井晃さん、船越國弘さん、久能和夫さんが中心となって2005年に設立しました。
当初は、70歳代の研究者たちが中心となっていたなか、九州大学大学院の研究室で人工衛星をつくっていた大西俊輔さんは、人工衛星開発を九州に根付かせたいという思いからQPSに入社。試用期間も兼ねて半年ほど働いた後、エンジニアとしての能力や次世代の衛星開発に対する考え方などが認められ、20代にして社長に就任という抜擢に。20代の社長と70代の研究者たちという異色のチーム構成となりました。
数メートル四方で重さが1トンもある高性能な大型の人工衛星は、開発・制作から打ち上げまでの費用が200〜300億円かかるため、予算も規模も大きな国や国際機関のプロジェクトが中心。一方、小型衛星のサイズは約50センチ四方、重さは50キロ程度。大学研究で制作するものだと1キロ程度と、更に小さいものもあります。
小型衛星の場合、制作から打ち上げまで、すべて含めても約10億円程度で開発できるため、数多く打ち上げることができます。回数を重ねることで観測頻度も上がり、大型衛星よりもデータが取りやすくなる利点があるため主に地球観測に使用されています。
とはいえ、一つの小型衛星を打ち上げるごとに10億円もかけていては、大量に打ち上げるのは容易ではありません。打ち上げのための基地局の予約も約2年待ち、電波法による周波数帯の割り当てにも時間がかかります。衛星はロケットで打ち上げなければならないので、最近では打ち上げ施設やロケット開発を進めているベンチャーや民間企業が増えています。
小型衛星の開発コストが下がり、制作期間も短くなれば、受注生産も見込めるようになるため、QPSもこうした小型衛星開発の需要に呼応するように開発を進めています。
「つくる」から「使う」へ、新たな使い道を模索
人工衛星への注目が集まるなか、新たな衛星の使い道も考えなければいけません。これまでは、「人工衛星を制作し打ち上げるまで」が目的で、その後の「活用」は注目されていませんでした。しかし、次第に打ち上げることが当たり前になってくるなか、衛星をどう「使う」かというアイデアが問われてくるようになってきました。
「さまざまな分野の企業などが次第に人工衛星分野に参入するようになり、本格的に人工衛星の使い道を考えようという段階に入ってきました。現在は、小型衛星でどのようなデータが取れるのかという情報をオープンにしながら、使い道について考える場を設けたり、使い方の提案やマッチングをしたりしているところです」(大西さん)
「これからは、小型衛星の大きな使い道を最初に見つけたところが、かなり伸びるだろう」と大西さんは言います。QPS研究所でも、衛星に興味はあるけれどつくったことがない人、異業種のものづくりの経験がある人、ITやデータ解析ができる人などの視点を取り入れたいと、リクルーティングを進めています。また、エンジニア中心の会社なので経営ができる人も募集中しています。
今後は人工衛星の製品としての完成度を高めながら、衛星を使った新たなサービスやデータを積極的に開発していきたいと大西さん。人類が初めて宇宙に行った時代から、誰もが宇宙に行けるかもしれない時代になりつつある現在、福岡から新たな宇宙開発ビジネスが生まれる可能性があるかもしれません。
まさに「男のロマン」といえる宇宙開発に挑むベンチャー。デザイナー、エンジニア、データアナリスト、建築家などが入ることで、いままでにない動きが起きそうです。