欧州連合(EU)の機能が集中するベルギーのブリュッセルは、欧州の中枢といえる。その街が連続テロの標的となった。

 空港と地下鉄で相次いだ爆発で多数の人々が犠牲になった。公共交通の場で無差別殺傷を狙った許せない蛮行である。

 中東に拠点をおく過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。欧州の民主社会を揺さぶり、自分たちの存在を誇示する狙いとみられる。

 欧州ではイスラム過激派によるとされるテロが続いている。昨年11月には、フランスのパリで同時多発テロが起き、130人もの命が奪われた。

 わずか半年の間に大規模な都市型テロが続いたことで、欧州が警戒を強めるのは当然だ。

 ただ一方で、社会の動揺が深まれば、それこそ過激派の思惑どおりになってしまう。欧州の関係当局は効果的な対策を粛々と進めてほしい。

 欧州は、移動の自由やプライバシーの尊重など人権の価値観を定着させてきた地域だ。統治の論理が個人の権利を侵すことが多い新興国や発展途上国の現状を考えると、欧州の理念はいっそう重みを増している。

 求められるのは、市民の自由と治安維持のバランスを保ちつつ捜査やテロ予防を進める難しい対応だろう。

 昨秋のパリ同時多発テロの容疑者の多くは、ブリュッセル近郊の出身だった。現場から逃走し、先週拘束された容疑者も、同じ地区に隠れていた。過激派のネットワークが地下に広く根を張っていると考えられる。

 その摘発がなぜ徹底できないのか。詳細に検証する必要がある。その反省のもとに、今後の対策も進められるべきだ。

 かぎを握るのは、欧州各国が結束できるかどうかだ。最近のEUは、難民問題などで立場の食い違いが目立つ。今回を機に協力態勢を築き直したい。

 例えば、欧州の過激派や犯罪組織に流れる銃の規制を強める枠組みをつくろうと、EUは以前から試みている。この努力を強化し、各国が持つ情報の共有を広げられないか。

 過激派に加わる若者は、移民の家庭出身であることが多い現実をふまえ、欧州社会のなかで移民の統合を改善する手立てもオープンに議論したい。

 今回のような事件に乗じて、移民の排斥や反イスラムを叫ぶ言動にも十分注意すべきだ。

 市民の自由と尊厳を見失わない落ち着いた振るまいこそ、欧州の価値観に合致する。テロに対してもできるだけ冷静に、決然とした態度を貫いてほしい。