公示地価 8年ぶり上昇の明と暗
毎日新聞
国土交通省が発表した1月1日時点の公示地価は、全国の住宅地と商業地、工業地の全用途平均が8年ぶりの上昇に転じた。ただし大都市と地方、地方でも中枢都市とそれ以外の差は大きい。また、上昇の要因が、景気の回復傾向の反映とは言いにくい部分もあって気がかりだ。
地価上昇は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏よりも札幌、仙台、広島、福岡の地方中枢都市で目立つ。地方中枢都市の上昇率は住宅地2・3%、商業地5・7%と3年連続で3大都市圏を上回った。
地価の上昇が、着実な景気回復に支えられ土地の利用価値が高まった結果ならば、経済の好循環を示すものとして歓迎できる。資産価値が上がることで、デフレ懸念を後退させ、企業の設備投資や家庭の消費を促す効果もあるだろう。
緩やかな上昇か、下落幅の縮小となった住宅地について、国交省は「全国的な雇用情勢の改善や住宅ローン減税の影響」とみている。安定した雇用は、先行き不安の解消につながり、マイホーム需要を掘り起こしているようだ。商業地も石川県が24年ぶり、広島県が25年ぶりに上昇するなど総じて堅調だ。
だが、部分的にはいびつとも言える上昇が見受けられる。
住宅地の上昇率全国1位は北海道倶知安( くっちゃん )町の約20%だった。ニセコリゾートに近く、外国人が別荘地として注目する。世界的な金余りによる富裕層の投資熱が背景にある。
商業地では大阪市の心斎橋で約45%も上昇した。全国一高い東京・銀座の山野楽器前は、バブル期の地価を上回った。訪日客の急増によって、周辺での免税店出店やホテル建設などの意欲が高いためとの分析だが、実需を超えた投機的な動きがないか、注意が必要だ。
一方、地方圏をみると、中枢都市が約80%の地点で値上がりしたのに、それ以外の地方の上昇地点は約15%にとどまった。秋田県と島根県では1カ所の上昇もなかった。
下げ止まらない地価は、地方の衰退を映す。一つの打開例として群馬県太田市があげられる。県内の商業地で唯一、上昇に転じたのは、中学生まで医療費無料など子育て支援に力を入れ、人口増も実現したことが影響しているようだ。
また、都市機能を中心部に集積させる「コンパクトシティー」を進める富山市も住宅地、商業地とも2年連続でプラスになった。
太田市には自動車産業の好調があり、富山市は北陸新幹線の開業もある。そうした下支えや外部要因を住みやすさや活性化につなげ、地価の底堅さを生むには、独自の施策や工夫が不可欠だということだろう。