ベルギーテロ たび重なる非道を憎む
毎日新聞
欧州連合(EU)本部のあるベルギーの首都ブリュッセルで同時爆弾テロがあり、30人以上が死亡した。負傷者は計200人以上に上り、日本人2人も巻き込まれた。
欧州では昨年11月にも過激派組織「イスラム国」(IS)に影響された若者がパリの劇場やカフェなどを襲撃し、130人が死亡する事件があったばかりだ。たび重なる卑劣な暴力に強い憤りを覚える。
今回もISがインターネット上で犯行声明を出した。シリアなどで対IS空爆を続ける米欧主導の有志国連合を「十字軍」に見立て、その本拠地を狙ったと主張している。だがどんな理由でもテロを正当化することはできない。米欧や日本の首脳が厳しく非難したのは当然だ。
疑問なのは、昨年のパリの事件以降、厳戒態勢が敷かれていたはずの国際空港や地下鉄駅でなぜテロを防げなかったのか、ということだ。
利用客の便を考えれば、監視に限界があるという事情も理解できる。しかし、ブリュッセルは昨年11月のパリ同時多発テロで襲撃犯グループの出撃拠点だった。今回の同時テロのわずか4日前には、逃走していたパリの実行犯の1人が逮捕された。潜伏先の捜索から、ブリュッセルでテロが計画されていることがわかっていたともいう。捜査当局間の情報共有や警備態勢に問題はなかったのか、再点検が必要だ。
昨年の同時多発テロを受けて、フランスやベルギーの捜査当局には強い権限が与えられ、行き過ぎた強制捜査に対する批判の声も上がっている。これが市民の不信感を生み、捜査への協力を妨げているのだとすれば再考すべき点もあるだろう。新たな警備機器の導入を含めた対応策は世界的な検討課題だ。
日本でも5月に三重県で主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が予定されている。改めてテロ対策への入念な取り組みを望みたい。
懸念されるのは、テロへの不安から欧州で移民や難民に対する不寛容の機運が醸成されることだ。
ドイツの地方選では反移民を掲げる右派政党が台頭した。フランスや英国でも極右政党が勢いづいている。疎外感を強めたイスラム系住民がテロ予備軍になるという負のスパイラルが生まれれば欧州の政治危機は深まる。失業や差別など構造的な社会問題にテロリストがつけ込もうとしていることを直視し、各国は冷静に粘り強く対策を進めてほしい。
テロの呼び水になっているISの脅威に対抗するためには国際社会の結束が最も重要だ。IS台頭の原因となったシリア内戦の解決に向け、米欧やロシアなど関係国はさらに努力を重ねてほしい。