山口組抗争 封じ込めて市民を守れ
毎日新聞
市民が暴力団抗争の巻き添えにならないよう、安全確保に全力を尽くすことが警察に求められる。
神戸市に本拠を置く国内最大の指定暴力団山口組と、山口組から離脱し兵庫県淡路市に拠点を構えた神戸山口組との衝突が激しさを増している。分裂した昨年8月以降、対立が原因とみられる事件は60件を超えた。警察庁は両組織が対立抗争の状態にあると認定し、全国の警察に警戒と取り締まりの徹底を指示した。
組員の奪い合いや切り崩しが暴力による報復へとエスカレートしている。組事務所に発砲したりトラックを突っ込ませたりするほか、火炎瓶の投げ込みなど凶悪化が著しい。
山口組の過去の抗争では、4代目組長の就任に反発して独立した一和会との間で起きた1980年代の「山一抗争」が知られる。25人が死亡し、警察官や市民を含む70人が負傷した。約2年にわたる抗争の間、組事務所周辺の住民らは恐怖におびえ続けた。
今回も組事務所に近い小中学校は集団登下校を始めたり通学路を変更したりしている。住宅街や商店街での衝突に市民の不安は広がるばかりだ。警察は詐欺や恐喝などの容疑で組事務所を家宅捜索し、幹部らを逮捕してきたが、手を緩めず抗争を封じ込めてもらいたい。市民が犠牲となる惨事を繰り返してはならない。
現在の6代目組長の出身母体である組が勢力を広げ、これに反発した一部の傘下団体が離脱して結成したのが神戸山口組だ。問題なのは、神戸山口組が新たにできた組織のため暴力団対策法上の指定暴力団になっていないことだ。
指定暴力団であれば抗争時に組事務所の使用を禁止でき、抗争が激化すれば特定区域での組員の行動を制限することも可能だ。抗争を収束させるため兵庫県公安委員会が進める指定手続きを急ぐべきだ。神戸山口組のように指定暴力団から分かれた組織の場合、手続きを迅速にできるよう法改正すべきかどうか検討に入る必要もあるだろう。
警察庁によると、全国の暴力団員は、暴力団排除の動きが強まったため10年前から半減した。とはいえ昨年末時点で約4万6900人に上り、うち約1万4100人の山口組と約6100人の神戸山口組が半数近くを占める。覚醒剤密売などによる収益や飲食店などからのみかじめ料(用心棒代)といった資金源を断ち、さらなる組織の弱体化を図るべきだ。
警視庁や大阪、福岡両府県警などは元組員の就労を広域支援する協定を先月結んだ。分裂を機に組員の離脱を促し、職業安定所など関係機関と連携して社会復帰させる取り組みを広げることも重要だ。