この点は、AIと人間が共存する環境、あるいはAIの判断が人間の生死に関わるような用途では、大きな問題となる。例えば、自動運転車のAIが、周囲の人間には理解しがたい運転を繰り返すようでは、人間の運転ミスを誘発しかねない。
■AI研究でますます高まるグーグルの吸引力
今回の五番勝負は、IT(情報技術)企業によるAI開発競争において、巨大なITインフラを保有する企業ほど有利となる現状を見せつけるものでもあった。
従来のディープラーニング技術は、複数台のサーバーが分担して処理する「分散化」を苦手としていた。だが米グーグルは、自社のディープラーニングソフトウエアライブラリ「TensorFlow」の分散化機能を強化。AlphaGoでも、本番対局では分散処理バージョンを使った。
2015年10月に欧州のプロ棋士と勝負した際は、1202台のCPUと176台のGPU(グラフィカル・プロセシング・ユニット)で並列処理させたという。自己対局による強化学習でも、グーグルのIaaS(Infrastructure as a Service)「Google Cloud Platform」が持つ大量のコンピューティング資源を活用した。
かつて米IBMは、自社のハードウエアを使って1997年にチェス王者を、2011年にクイズ王を下し、その技術力を誇示した。グーグルは今回の五番勝負で、こうしたIBMのPR戦略のお株を奪った格好だ。大量のデータを蓄積し、豊富なITインフラを湯水のごとく使える――。優秀なAI技術をひきつけるグーグルの吸引力が、今回の五番勝負でますます高まったのは間違いないだろう。
[参考]日経BP社は2016年3月25日、AIとロボットの産業と社会へのインパクトをテーマにしたセミナー「AI/ロボットが変える産業と社会」を開催する。4人のキーパーソンがAIとロボットの最新動向と近未来像を解説する。詳細は、http://coin.nikkeibp.co.jp/coin/itpro-s/seminar/nc/160325/
(日経コンピュータ 浅川直輝)
[ITpro 2016年3月15日付の記事を再構成]