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日本に巣食う「学歴病」の正体

学歴で「身のほど」をわきまえ人生に線引きする、哀しき若者たち

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第11回】 2016年3月22日
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 そもそも、一流大学を卒業し、労働市場における価値が高い人は、実は新卒時に一流の出版社5~6社のいずれかにすんなりと入っている。出版に限らず、入社難易度の高い全国紙やキー局に入る人も、少数だがいる。20代後半になっても大学生と競い合い、新卒の採用試験を受ける人は、一流大卒であっても労働市場の価値が高いとは言えない。むしろ、低いと見るのが妥当だろう。

 ところがBグル―プの人たちは、こうした現実を見つめようとしない。自分より偏差値が高い大学の出身者であっても、「優秀とは言い難い人材」と競い合うのだから、自信を持てばいいのだ。だが劣等感があるのか、Aグループの人たちが狙う出版社の採用試験すら受けようとしない。ここに、「学歴病」の大きな問題が横たわっている。

偏差値で「身のほど」をわきまえ
気概を失ってしまう若者たち

 ここで、コンサルタントの大前研一氏が著書『稼ぐ力』(小学館)の中で、10代の頃の偏差値教育について書き著している内容の一部を紹介したい。

 「結局、日本で導入された偏差値は自分の『分際』『分限』『身のほど』をわきまえさせるたけのもの、つまり、『あなたの能力は全体からみると、この程度のものなのですよ』という指標なのである。

 そして、政府の狙い通り、偏差値によって自分のレベルを上から規定された若者たち(1950年代以降に生まれた人)の多くは、おのずと自分の“限界”を意識して、それ以上のアンビションや気概を持たなくなってしまったのではないか、と考えざるを得ないのである。」(P198より抜粋)

 この本が発売されたのは、2013年。読み終えてすぐに思い起こしたのが、2006~09年に筆者が専門学校で教えていたときのことだ。受講生が、卒業大学の入学難易度で進路を選んでいく姿である。「私は〇〇大卒だから、このくらいかな……」といった感覚で、人生の可能性に自ら線引きをしてしまっているように、筆者には見えた。

 新卒ならともかく、20代後半で、しかも会社員として数年間働いた経験がありながら、この程度のレベルの思考で進路を選んでいく。大前氏が指摘するように、「分際」「分限」「身のほど」を、悪い意味で心得てしまっているのだ。

 彼らと離れて10年ほどが経つ。準大手・中堅の出版社に入ったAグループの15人ほどのうち、12~13人はいまもその会社に在籍しているようだ。副編集長(課長級)になった者もいると聞く。

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

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