favori

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

『童夢』 大友克洋

今日は漫画家の大友克洋の代表作といわれている「童夢」について書いていきます。

物語は日本の昭和時代、平凡な日常の中ある団地内でいくつもの変死事件が連続して発生し、警察が捜査を進めるも手がかりは一向に掴めず、担当の刑事部長までが屋上から転落死を遂げてしまいます。そんな中、一家で団地に引っ越してきたばかりの特殊な超能力を持つ少女の悦子(エッちゃん)は、団地内に住む老人チョウさんが超能力を悪用して殺人や悪戯を行っていることに気付きます。チョウさんは歳を重ねるうち、精神的に子供のように幼くなってしまっています。また、超能力を使って遊んでいるうちに何人も死なせてしまい、罪悪感を感じなくなってしまっている。エッちゃんはチョウさんを上回る超能力を持っていて、チョウさんを懲らしめようとするが、危機感を抱いたチョウさんの方も団地の住人を超能力を使って操りエッちゃんをやっつけようとします。超能力者2人の対決はやがて団地全体を巻き込む惨事へと発展していきます。

少女の急激な感情の発露と老人の善悪の意識が完全に欠落した不気味さ、またこの2人は大した言葉のやりとりをしておらず両者の間にはドラマがありません。チョウさんにはたちの悪い悪童の悪の部分だけで、それが常軌を逸するほど増幅されてそれ以外の感情と思考がすべて欠落してる怖さがありました。
そしてなぜこの2人は超能力を持っているのか、この超能力は何なのかについても全く作中の中では触れていません。しかし説明されなくてもすんなりと漫画の世界観に入っていけます。

物語の後半からは延々と2人の対決が描かれており、2ページが見開きでひとつの絵になっていて広大な団地を縦横無尽に駆け回ります。チョウさんの所業に怒ったエッちゃんが、パニック状態になって泣きながらチョウさんを追いかけていくのですが、その過程でエッちゃんの超能力も暴走し、チョウさん以上に建物を壊しまくる。もちろん死者もどんどん増えていきます。作中ではエッちゃんの方が「善」でチョウさんの方が「悪」のはずなのだが、この時点でどちらが悪いのかわからなくなります。これはもちろん、あまりにも驚喜的で破壊的ではあるがしょせんは子供のケンカだからこの漫画のタイトルは『童夢』なのです。

チョウさんとエッちゃんの対決、またその過程で次々と建物が破壊されていくシーンは、とにかく圧巻としかいいようがありません。無駄な動線は極端に少なく、しかし細かいカット割り、映画のようなカメラ視点や構図の変化、また計算された描線と陰影で、異常なスピード感を演出している。

この話は、この大惨事で終わりになるのではなく、本当の決着は再び安穏として平凡な「人々の日常」が描かれている中で起こります。

公園のブランコに乗る少女エッちゃんとベンチに腰掛けてる老人チョウさんという、 どこにでもある私たちの風景の中で本当の結末を迎えます。

これは一種のホラーかもしれないし怖い話に違いはないのだけど、少女エッちゃんの挑む姿、その阿修羅のような怒りと戦いのエネルギーを感じました。

大友は『童夢』でマンガ表現の枠を一気に広げました。動きとスピードを演出するそれまでの手法の、かなりの部分が一気に陳腐化し、後の漫画家にとって巨大なハードルとなりました。漫画界では「大友以前、大友以後」という言葉がありますが、その言葉もこの漫画から生まれました。

いま「童夢」を読み返しながらこのブログを書いていますが、「童夢」は傑作だなぁと実感する。絵や構成はわりと実験的でありながら、粗のなさにあらためて驚く。新しく、実験的で、かつ完成されていて粗もない。

この作品が発表されて長い年月が経っていますが、いまだにその凄さは全く色褪せず、完璧な完成度です。もはや漫画という域を超えています。個人的には大友克洋のもう一つの代表作である「AKIRA」よりもおすすめです。
スポンサーサイト
  1. 2013/03/27(水) 15:06:44|
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<the strokes | ホーム | 『異邦人』 カミュ>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://morningbell0510.blog.fc2.com/tb.php/3-889cf30a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。