核戦争の瀬戸際だった1962年のキューバ危機を記憶する人にとっては、隔世の感があろう。米国のオバマ大統領が、キューバの地に降り立った。

 現職米大統領の訪問は、実に88年ぶりである。断交状態は半世紀以上にも及んだ。今回の訪問の実現は、厳しい対立関係も話し合いによって解決できることを世界に印象づけた。

 もちろん両者の隔たりはまだ大きい。首脳会談では、米国の禁輸措置の全面解除やキューバの人権問題をめぐって、オバマ氏とカストロ国家評議会議長との考え方の違いも際だった。

 それでも、この歴史的な訪問は両国関係だけでなく、米州大陸全体にとっても意義深い。キューバ経済を支えた南米ベネズエラとも米国が歩み寄れれば、地域の安定化につながる。

 訪問を機に結びつきを深め、新たな関係を広げてほしい。

 両国は一昨年12月に関係正常化の交渉に入り、昨年7月に国交を回復した。この間、キューバ側が最も望む、大規模な民間投資計画など具体的な進展は、期待ほどには実現していない。

 各種規制が多い社会主義国キューバ側の投資受け入れ環境が整っていない事情はもちろんある。だが、それよりも、米議会が今もキューバへの禁輸措置を完全に解こうとしないのがそもそもの足かせだ。

 オバマ氏の今回の訪問は、そうした停滞感を拭い、両国関係は後戻りすることなく発展する流れにあることを、内外に示す狙いがあるとみられる。

 米国の野党共和党は、国内の政争の思惑で外交を振り回す姿勢を改めるべきだ。大国が自分の目と鼻の先の島国をことさら孤立させ、国民を長年困窮させる政策は人道にも反する。

 キューバ側にも正すべき点はある。米国の接近に今なお一部の人びとが懐疑的な最大の理由は、キューバ国内の人権問題が解決されていないからだ。

 集会や言論の自由は制限されており、今回も訪問直前に反体制派の約50人が拘束された。米側は改善を求めるが、キューバ側は内政干渉だとしている。

 混乱を避けつつも、少しずつ変化を受け入れる姿勢が、キューバの政権に欠かせない。国を外に開くことは、内にも開くことだ。そのような認識をしっかり抱く必要がある。

 両国の関係改善では、ローマ法王とカトリック教会が重要な仲介役を担った。これは新たな和解モデルでもある。カトリックの影響力の強い中南米に限らず、同様の試みを世界に広げ、対立の解消に役立ててほしい。