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研究15年、寿命解明に光 名港水族館のナンキョクオキアミ

 地球温暖化やオゾン層減少の研究につながる可能性を秘めた「ナンキョクオキアミ」。2000年10月、飼育施設で世界初の繁殖に成功した名古屋港水族館(名古屋市)はその後、15年にわたり飼育研究を積み重ねる。名港生まれの個体は8代目。年齢を解明する手掛かりを得る成果もあり、研究者から協力の依頼が舞い込む。一方、来館者に意義をどう分かりやすくPRするかも課題となっている。

■環境両立

地球温暖化、オゾン層減少の解明につながることも期待されるナンキョクオキアミの成体=名古屋港水族館提供

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 繁殖の成功は努力のたまものだ。日照時間を調節し、餌の種類と与え方を工夫した。〇・五度の低水温と、水を浄化するバクテリアが生息できる環境を両立した「冷温室設備」で実現させた。〇七年度には古賀賞を受賞している。

 課題もある。野生では一匹が五千個以上の卵を産むのに対し、人工繁殖では数百〜三千個ほど。産卵する親は数百匹おり、ふ化して幼生に育つのは数千匹だ。しかし、年によって卵の質や幼生の成育状況にムラがある。親の栄養状態の影響とみられるが、はっきりした原因は分からない。設備の不調で、ふ化しなかった年もある。

 こうした中で最近、目を支える軸の状態で年齢が分かる可能性が高いと分かった。繁殖成功時から関わる松田乾飼育員(46)は「成長速度や寿命の解明につながる可能性がある」と期待する。昨年には大学研究者から研究を進めるため「個体を提供してほしい」と依頼もあった。

■減少傾向

 研究者が注目するのは地球温暖化やオゾン層との関係だ。かつてナンキョクオキアミは十億〜二十億トン生息するとされたが、二〇〇〇年の国際調査では推定一億トンほど。減少傾向が明確になった。

 オゾン層の減少による紫外線の影響や、餌として重要な氷の下の藻類が温暖化で減っていることが原因といわれるが、決め手はない。生態の不明な点が多いためだ。ただ、裏を返すと、生態がある程度解明できれば、オゾン層の減少や温暖化の研究も進む可能性もある。

 この分野でも最近研究者から水族館に協力の依頼があった。松田飼育員は「安定した飼育と繁殖を続け、研究素材の提供を続けられるようにしたい」と語る。

■引き継ぎ

世界で唯一、ナンキョクオキアミを常設展示しているコーナー=名古屋港水族館で

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 ナンキョクオキアミは開館した一九九二年から飼育しており、九六年から続ける「常設展示」は世界唯一。現在は約四百匹を見せている。だが、その意義を分かりやすく伝えるのは容易でない。イルカやペンギンなどに比べ地味な面は否めず、「入館者は展示水槽を素通りしがち」と飼育員も頭を悩ませる。

 引き継ぎも課題だ。長期の飼育研究で関わった飼育員は八人。昨年から担当する伊藤美穂さん(43)はクジラ類に詳しいが、「クジラとオキアミの関係が深くても、オキアミの飼育は別。先輩から教わり、知識や技術を覚える毎日です」と苦笑する。それでも「何とか工夫し、興味深くPRしたい」と意欲的だ。

(室木泰彦)

 <ナンキョクオキアミ> 80種以上いるオキアミの一種で、動物プランクトン。エビと同じ甲殻類で、南極海に生息し、体長5〜6センチ、体重0・8グラムに成長。海面近くで産卵し、水深500〜2000メートルの深海に沈んでふ化する。成長しながら水面付近へ上昇。餌の植物プランクトンが豊富な水深100メートルより浅い海で生息する。昼は天敵を避けるため深い場所に移動する。ヒゲクジラやアザラシ、ペンギン、海鳥類、魚やイカ類の餌となり、生態系で重要な位置を占める。生息数が多く、昭和40年代から食材として注目されたが、エビのような美味でないなどの理由で広まらなかった。加工品として一部食用に使われる以外は、釣り餌や養殖魚飼料が大半。

 

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