BUSINESS
知らないのは日本人だけ! 世界が必死で学ぶ「トヨタの強さの秘密」
Text by Takao Sakai
酒井崇男 さかい・たかお 1973年、愛知県岡崎市生まれ。グローバル・ピープル・ソリューションズ代表取締役。東京大学工学部卒業、東京大学大学院工学系研究科修了、大手通信会社研究所勤務を経て独立。人事・組織・製品開発戦略のコンサルティングや、リーン開発・製品開発組織のタレント・マネジメントについて国内外で講演・指導を行っている。著書に『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』『トヨタの強さの秘密 日本人の知らない日本最大のグローバル企業』がある
新型プリウスの前で語るトヨタ自動車の豊田章男社長
AKIO KON / BLOOMBERG / GETTY IMAGES
トヨタが世界中で圧倒的に稼ぎ続ける秘密は、「カンバン」「カイゼン」のトヨタ生産方式でも、営業力でもない──。強さの“真の理由”を著書(ページ下の写真)で明らかにしたコンサルタント・酒井崇男さんが、「グローバル市場で無敵の競争力を生む仕組み」を明快に説明します。
米国人が興味津々の「リーンとタレント」
2015年2月に刊行された私の前著『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』は国内外で反響を呼んだ。企業に利益をもたらす付加価値を生み出すハタラキをする人材「タレント」とその生かし方を体系化した点が、新鮮で意義があると評価されたようだ。「クーリエ・ジャポン」の読者の皆様向けの講演会にも登壇し、このテーマで話をさせていただいた。
その約1ヵ月後、私は米国テキサス州オースティンで招待講演を行った。今度は世界中から集まった「リーン開発」の専門家や実務者である聴衆に向けて、同じ内容の講演を行うことになった。
国際会議の名前は、LPPDE(The Lean Product and Process Development Exchange)といい、「リーン開発」の研究や普及を目的とするLEI(Lean Enterprise Institute)というNPOが毎年米国と欧州で開いている国際会議である。この「リーン」という重要なキーワードについては後で説明する。
私の講演は満席どころか立ち見も出るほどの盛況となった。各国から来た聴衆の皆さんが一生懸命私の話に耳を傾けていたことは、主催者に後から言われるまでもなく、演者の私にその場ではっきりと伝わってきた。
数日間テキサスに滞在した後はミシガンに移動して、スチールケース社という高級オフィス家具メーカーの幹部へのレクチャーと社員さん向けに同様の講演を行った。スチールケースは100年の歴史を持つ老舗の高級オフィス家具メーカーである。また、最近「デザイン・シンキング」という言葉で日本でも有名になったIDEOに草創期から大半の出資をしてきたことでも知られ、IDEOの元親会社という位置づけになる(IDEOは長くスチールケースの独立部門として運営されてきた)。
スチールケースでは、同社のチーフ・エンジニアをはじめとする幹部と朝食を取りながら、3時間ほど質問攻めに会い、ランチでも同様に多くの質問を受けた。答え続けながら、同社の各部門のリーダーやリーン推進担当の責任者がオリジナルのリーンを少しでも知りたい・近づきたいという旺盛な知識欲には驚いた。
私の英語圏での講演やレクチャーは、前著の内容に基づき「リーンとタレント」の関係を説明したものである。テキサスとミシガン、ボストンでもそうだった。
リーンとは「贅肉のない」「ムダのない」といった意味の英単語だが、実は、米国ではもう一つの意味があるのをご存じだろうか。それは「トヨタ流」のことである。
つまり、米国のビジネス界でよく使われている「リーン生産」という言葉は「トヨタ生産方式」(TPS=Toyota Production System)のことであり、「リーン開発」とは「トヨタ流製品開発」(TPD=Toyota Product Development)のことである。そして「トヨタ流製品開発」の中核となっているのが、いわばトヨタ独自のタレント育成・活用の仕組み「主査制度」だ。このシステムこそが、トヨタの強さを育んできた大きな柱と言える。「リーン開発」とは、トヨタの主査制度に基づく製品開発を米国人が調査・研究の末、不完全なまでも、コピーに成功し、言い換えているものである。
私が米国での講演や、スチールケースなど各社幹部たちとの会談で主に語ったのは、業界の言葉で言うと、「トヨタ流製品開発組織(TPD)における『人間系』の問題」だった。つまり英語では「リーン開発におけるタレント管理」となる。これは、実は私が前著で説明したことなのだが、実はこの問題が、彼らの言葉で言う「リーン開発」を合理的に説明する上で残された「最後の問題」だったのである。
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