アンディ・グローブ氏
【シリコンバレー=小川義也】米インテルの元会長兼最高経営責任者(CEO)のアンディ・グローブ氏が21日、亡くなった。79歳だった。浮き沈みの激しいIT業界にあって、同社を世界最大の半導体企業に育てた「中興の祖」は、シリコンバレーのみならず、世界のビジネスリーダーに多大な影響を与えた。
死因は公表されていないが、長くパーキンソン病を患っていた。シリコンバレーで昨秋開かれたグローブ氏の功績を表彰する会合で、やせ細った体から声を絞り出して「厳しい環境に生まれた何百万人の若者が何かを成し遂げられるように助けよう」と呼びかけると、会場は総立ちの観客からの鳴りやまない拍手に包まれた。
アメリカンドリームの体現者でもあった。ハンガリーのユダヤ人家庭に生まれたグローブ氏は、ナチス・ドイツの迫害を逃れて渡米。英語や化学を猛勉強し、1968年にロバート・ノイス氏とゴードン・ムーア氏が創業したインテルに3番目の社員として入社した。猛烈な働きぶりと卓越したリーダーシップで79年に社長、87年にCEOに就任し、97年から2005年まで会長を務めた。
80年代半ば、インテルは日本の半導体産業との激しい競争にさらされ、倒産寸前に追い込まれた。グローブ氏は売上高の大半を占めていたメモリー事業からの全面撤退を決断。MPU(超小型演算処理装置)に経営資源を集中し、パソコン向けMPU市場で独占的な地位を築いた。
基本ソフト「ウィンドウズ」の大ヒットで、インテルとともにパソコンの黄金時代を築いた米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は「20世紀で最も偉大な経営者の一人だった。一緒に仕事をするのを心から楽しんだ」とその死を惜しんだ。
小柄な体から発散する強烈なエネルギーと、射るようなまなざしで知られたグローブ氏は、部下を気絶するほどしかり飛ばす厳しい経営スタイルで有名だった。最高の仕事を常に追求する同氏は一方で、経営者が直面する真の悩みに対処するための最高の経営書を世に残した。
ベストセラーになった著書「パラノイア(極度に心配性な人)だけが生き残る」(邦題「インテル戦略転換」)のタイトルは、シリコンバレーの起業家の合言葉になった。米フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏は「グローブ氏の本や助言に自分も導かれた」と語る。
グローブ氏の薫陶を受けた若きリーダーは、ザッカーバーグ氏にとどまらない。インテル伝説のCEOは「シリコンバレーの父」(著名投資家のジョン・ドーア氏)でもあった。