従業員のモチベーションを確実に上げる3つの原理

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目標達成への動機づけとして、「他者からのフィードバック」「目標設定」「報酬」という3つの主な手段がある。それぞれを、いつどのように使えばモチベーションが上がるのか。数々の研究成果を集約したガイドラインをお届けする。


 あなたは部下や同僚、あるいは自分自身に対して、より賢く懸命な働きを促すうえで、正しいモチベーション戦略を選んでいるだろうか。

 行動科学者は長年にわたり、人が自分や他者を動機づけするさまざまな方法について研究してきた。労働意欲を高める要因として数々の実験で示されているのは、フィードバックを与えること、大胆な目標を掲げること、そして報酬を与えることだ。

 しかし、最近モチベーションに関する150余りの科学論文を精査した我々は、これら3つの手段が図らずも逆効果になる場合もあることを発見した(英語論文)。たとえば、ポジティブなフィードバックを受けた人が努力の量を減らしたり、高すぎる目標設定が従業員の諦めにつながったり、インセンティブによって仕事そのものへの本来的な関心が失われたりするのだ。

 おそらくは多かれ少なかれ、誤った状況下で誤った手段が取られていると思われる。そこで我々は、さまざまなタイプのモチベーション戦略を、いつ、どのように使えばよいかを示すガイドラインを用意した。これにより、自分自身と他者をうまく動機づけする方法を的確に理解できるはずだ。

●フィードバック

 フィードバックは2種類に大別できる。ポジティブなものと批判的なものがあり、どちらか一方が優れているというわけではない。ある状況下では、ポジティブなフィードバックで相手の意欲と自信を高めるほうが効果的となる。しかし別の状況下では、批判的なフィードバックによって、さらなる奮起が必要だと示すほうがよい。

 ポジティブなフィードバックは個人の意欲を高めるので、課題に対する意欲を持てずにいる相手にはきわめて有効だ。新人や、意欲を失っている従業員には効果を発揮する。新入社員はポジティブなフィードバックを受けると伸び、批判を受けると自信をなくしやすい。

 反対に、すでに目標を達成すべく前向きに取り組んでいるものの、最後の一押しが必要、という相手には批判的なフィードバックを与えるとよい。進捗の遅れを指摘することで、モチベーションを喚起できる。特定分野の専門家(たとえばプロの講演者)は、批判的なフィードバックを前向きに捉えるだけでなく、それをより多く受けたいと望む(英語論文)。

●目標設定

 パフォーマンスを向上させるには、やりがいのある目標を短い期限で設定すると有効な場合が少なくない(英語論文。たとえば「いまから30分で専門誌を読み終える」など)。人間、そして動物(マウス)も、ゴールが見えてくるとより熱心かつ迅速に働く傾向があるのだ(英語論文)。

 一般に、目標との距離は遠いよりも近いほうがモチベーションは高まる。目標が手の届くところにあると感じていれば、前進していることを実感しやすい。したがって、(ゴールへの道のりで)短期目標またはサブ目標を設定すべきである。自分や従業員に対し、プロジェクトの期限は来月だと言い聞かせる代わりに、週ごとのマイルストーンを設定し、その達成に注力するとよい。

 研究ではまた、次のことも示されている。目標に向けて動き始めたばかりの時は、今後の道のりよりも、すでに成し遂げた進捗に注目すると効果的だ。そしてゴールが近づいてからは、現在地から目標までの距離を意識するとよい。プロジェクトのスタートまたはゴールから、より近いほうの道のりに注意を向けると、モチベーションは高まるのだ。

 たとえば、「10個購入すると1個無料」というポイントカードを使ったロイヤルティプログラムを考えてみよう。これは、進捗の積み重ね(購入ごとにスタンプを押す)か、残りの道のり(カードに穴を開けていく)のどちらかに顧客の意識を誘導できる。ある実験によると、特典までの道のりが遠い時点では、スタンプを押すほうがモチベーションが上がった。これまでの達成度が強調されるためだ。一方で、特典まであと少しという場合は、カードに穴を開けてもらったほうが購買が継続される傾向が高かった。目標達成までの距離が明確化されるからだ(英語論文)。

 また、人が仕事において特に勤勉になるのは、取り組みの序盤と、目標達成を間近にした終盤であることもわかっている。研究によれば、プロジェクトの中盤では怠けたり非倫理的な行動を取ったりしやすいことが示された(英語論文)。つまり、仕事の質はプロジェクトの序盤と終盤に最も高くなるのだ。それをふまえて目標までの工程を見直すと、効果的かもしれない。小さな目標に分割するなどの方法で、中盤での行き詰まり感を避けられる。

 もう1つ、よく見られる過ちとして、目標達成へのアプローチが不適切な場合がある。研究によれば、どんな目標にも同じアプローチを画一的に用いるよりも、個々の目標に沿ってやり方を最適化するほうが効果的だ。たとえば、スタッフ会議をより生産的なものにしたければ、相応の場所を選ぶべきである。1対1の談話や昼食もできるスペースではなく、重要な会合にのみ使われるスペースのほうがよい。

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