先進国のリッチな階層の悩みは、低賃金で雇える労働力(たとえばメイド)が不足することです*1。そこで、必然的に貧しい「外部」から労働者を呼び寄せることになります。
アメリカでは第一次大戦の頃から、奴隷解放後も南部に住んでいた黒人が北部に大移動(Great Migration)を開始しましたが、その背景には、北部の産業界が低賃金労働力を求めたことがありました。大移動は1970年頃に終わりますが、その後はメキシコからの(不法)移民がその代わりとなります。
ヨーロッパでは、アフリカやアジアからの移民が、アメリカの黒人やメキシコ人と同じ役割を果たしています。
- 作者: フランソワエラン,林 昌宏
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2008/09/18
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移民や彼らの子どもたちの多大な貢献がなければ、誰が我々のオフィスを掃除し、ゴミを回収し、家を建て、ビルの清掃を引き受けるのであろうか。自動車の組み立てや造船現場はどうなるのであろうか。誰が大型スーパー・マーケットのレジ係や小規模店舗の店番を引き継ぐのであろうか。誰が我々のレストランの厨房を切り盛りするのであろうか。[…]さらには、誰が我々の子どもの面倒を見るのであろうか。また、我々の病人の看護や、在宅であろうが、高齢者施設であろうが、高齢者の世話をするのは誰であろうか。
元奴隷が存在せず、移民も解禁されていない日本では、「賃金奴隷」を国内に求めるしかありません。東京の都心に集中するリッチ階層の目には、地方が第一次大戦前の「アメリカ南部」のように見えているのかもしれません。*2
地方から「賃金奴隷」を東京に呼び寄せるには、地方経済を疲弊されるのが効果的です。1990年代後半からの「構造改革」では、地方経済を支えてきた公共事業がピークの半分に削減されています。
他方、着々とインフラ整備が進む東京では、ほぼ同時期から人口移動が転入超に転じています。
大阪から東京に「脱出」する人の数も急増しています。東京一極集中が決定的になったということでしょう。
福祉国家(のはず)のスウェーデンでは、女が"have it all"できるような制度改革を進めた結果、「メイドを雇う側」と「メイドとして(低賃金で)雇われる側」に二極分化が進んでいますが、日本も同じ道を辿りつつあるようです。*3*4
“… we’re dealing with a society with increasing gaps in work opportunities. The market generates a clientele that can afford to buy services and it creates a group of people who are prepared to execute these services,” she adds.*5
地方からの供給では足りなければ、次は欧米のように海外からの移民でしょう。
結局のところ、1990年代後半からの「構造改革」の本質は、低賃金労働者を増やすために一億総中流社会を破壊する「上からの(新自由主義)革命」だったように思えてきます。*6
"In Italy, for 30 years under the Borgias, they had warfare, terror, murder and bloodshed, but they produced Michelangelo, Leonardo da Vinci and the Renaissance. In Switzerland they had brotherly love, they had 500 years of democracy and peace - and what did that produce? The cuckoo clock."
退屈な一億総中流社会よりも、不穏な社会を好む人がいてもおかしくありませんが。