こんにちはみどりの小野です。
今日は川端裕人さんの「声のお仕事」を読みました。
気象を予知する能力を持つ〈空の一族〉をめぐるファンタジー、「雲の王」「天空の約束」が好評の川端さん。
今回はガラッと変わって声優業界で奮闘する青年のお話。
20代後半、代表作もなく崖っぷちの声優結城勇気。
声で世界を変えること。
それが結城の夢。でも現実はなかなか上手くいかなくて、バイトで食いつなぐ日々。
そんな彼は本当に夢を掴むことが出来るのか?
リアルな青春お仕事小説です。
「声のお仕事」と「ハケンアニメ!」
この本を読んで最初に思い出したのが辻村深月さんの「ハケンアニメ!」。
両方ともアニメを巡る熱血お仕事小説。(声の~は声優さんの話に絞ってますが)
そして自分たちの仕事で「誰かの日常を救うんだ」と強く願う人達の物語です。
作者川端裕人さんは自身の作品がアニメ化されたとき「声優面白い!」と感じ実際の声優さんや監督さんから3年間取材をしてこの作品を書き上げたそうです。
そういう努力の甲斐あってか、オーディションや録音ブース、打ち上げの様子がやたらリアル。声優には疎い私でもこういう世界なんだ!と楽しめました。
超大作、そして熱意の詰まっていた「ハケンアニメ!」に比べると残念ながらボリューム不足は否めません。
でも川端さんらしい、丹念で優しい物語。
声優が好きな人、仕事って何だろう?と悩む若者にこそ読んで欲しい。
小児病棟を救った夢
主人公結城は子どもの頃小児専門病院に長い間入院していました。
退屈な日々の救いがテレビアニメ。そのうち声優志望の女の子に引っ張られて、彼自身が声優を夢見るようになります。
声で世界を変える。それは病棟で過ごした日々から貰った夢。
目を閉じて、声だけで世界を表現する。作中にそんなシーンがありました。
その場面を見て思い出したのは、昔図書館ボランティアで知り合った中学生の女の子のこと。
数年前、子どもが小さくてまだ仕事に復帰できなかった頃図書館で絵本の読み聞かせボランティアをやっていました。
サークルのメンバーは殆どが主婦か定年を迎えた人達だったのですが、一人だけ中学生の女の子がいました。
誰よりも熱心に発声練習や感情表現のレッスンに取り組んでいた彼女。
部活に参加せずに、大人ばかりのサークルにやってくる中学生。
もしかしたら学校で嫌なことがあるのかも。
なぜそんなに熱心なのか、気になって尋ねてみました。
彼女は小学生の頃、よく入院していたそうです。
母子家庭、小さな弟もいたのでいつもたった一人の入院生活。
夜は寂しくてなかなか眠れない。
そんな時に彼女を救ってくれたのがこっそりDVDプレーヤーで見るアニメ。
最初は普通に画面を見ていたけれど、光で看護婦さんにバレるから、イヤホンで音声だけ聞いて。
そんな日々を過ごして、あの頃アニメの声に救われたからいつか私も声優になりたいんです、そう恥ずかしそうに笑う彼女はとても素敵でした。
声優の仕事って世界を具現化することだと思うんです。
ささやかな作り物の世界ですけど、ぼくらは世界の創造を通じて世界を変える。
そんな風に思ってます。声が響く限り、届く限り、ぼくたちは小さくても何かを変えていけると。
結城の言葉のように、声優を夢見る女の子はイヤホンから届く声にもう一つの世界を見たんでしょう。
その世界が彼女を眠れない夜から救ってくれた。
声で世界を変える、ってそういうことなのかもしれません。
結城の夢はまだまだ途上。
中学生の女の子は夢だった声優の専門学校に行けたのでしょうか。仕事に復帰してから彼女と会う機会も無くなってしまいました。
作中でも書かれているように、声優って厳しい道だと思います。
才能があっても、運やコミュ力や適応性、いろんな物が求められる狭き門。
夢が本当に叶うかは分からないけれど、自分を救ってくれる別の世界を持っている、そしてそれを作りたいと願っている。
それはとてもワクワクすること。
「声のお仕事」はそんな熱い夢の物語でした。