雑誌
ニッポン新潮流
声明発表はツイッターで
(うえすぎたかし/ジャーナリスト)
上杉 隆
オバマ陣営が利用した「武器」
Twitter(ツイッター)やUstream(オンライン動画配信サービス)の登場が、この国の政治とメディアの在り方を根本から変えようとしている。
ポケベルやEメール、あるいはインターネットメディアのブログ、YouTube、2ちゃんねるの登場でも、これほどまでの変化を感じることはなかった。ましてやFacebookやMySpace、ミクシィでも同様だ。あえて挙げるとすれば、携帯電話が永田町に普及した時期のような印象がある。
いまや現代政治の根本にまで入り込んでいるケータイだが、当初は少なくない政治家から「拒絶」をもって受け止められた。
「プライバシーのなくなるような、そんな代物は絶対に使わない」
大物議員の多くが、その新しい通信ツールの台頭に眉をしかめ、こう言い放ったのだ。ところが、次第にそうした牧歌的な状況を政治そのものが許さなくなってきた。料亭やホテルの部屋で行なわれていた政治密談は、よりスピード感と機密性の高いケータイでの通話にその座を譲ることになった。
いまや永田町では、政治家同士がケータイで連絡を取り合うことは当然の風景になっている。ケータイ通話のみならず、携帯メールを駆使してコミュニケーションに役立てる政治家もいる。新聞やテレビの記者たちもこの動きに過敏に反応し、他社のライバルが出席する会見や懇談よりも、ケータイでの単独取材に重きを置くようになった。この傾向は、長らく不動の地位を保つものだと思われていた。TwitterとUstreamが登場するまでは――。
筆者が、変化の前兆とTwitterの可能性に触れたのは二年前のことだった。2008年夏、米大統領選の取材のために情報を集めている筆者の下に、かつての『ニューヨーク・タイムズ』の同僚からTwitterの利用をアドバイスされたのだ。
「大統領選を取材するのならば、各陣営のSNSに入らない手はない。とくにTwitterとFacebookはオバマ陣営の情報の宝庫だ。オバマをフォローするならば、アカウントを作成することを薦める」
そういわれて、恐る恐る匿名の英語アカウントを取得したのが2008年8月のことだった。たしかにオバマ陣営はTwitterを重視しているようだった。だが、当初それは、支持者獲得のための政策発表や小口の献金集めのためのツールとして利用しているようにしか見えなかった。ところがその直後、オバマ陣営がこの新しいメディアツールを「武器」として利用しだす。
既存のメディア環境が骨抜きに
全米の関心は、はたしてオバマ候補がいったい誰を副大統領候補に据えるのか、という1点に集中していた。コリン・パウエル元国務長官や最後まで予備選を争ったヒラリー・クリントン上院議員の名前が取りざたされていた。当然に全米、いや世界中のメディアの関心もその人事に集まっていた。
そうしたなか、ついにオバマ陣営が副大統領候補を指名する。ジョゼフ・バイデン上院議員。それは全米のメディア関係者に衝撃をもって迎えられた。人事案ではない。発表方式についてだ。オバマ陣営は、記者会見やどこかの記者にスクープさせるという旧来の手法を採らなかった。Twitterなどの自らのメディアでまず発表し、それをCNNなどに後追いさせるという方式を採ったのだ。
実際、CNNは当時、「オバマのTwitterやblogによると――」として副大統領候補人事を報じている。この瞬間、米国においては政治とメディアの関係が劇的に変わったのだ。
オバマ陣営のメディア戦略担当のデビッド・アクセルロッド氏は、政権発足後、早速そのツールを駆使して、以前よりもずっと容易にスピンコントロールを行なっている。
ハイチ大地震の際、オバマ大統領はTwitterでいち早く「米政府はハイチの人々とともにある」との声明を発表し、ホワイトハウスのblogをリンクして緊急支援を表明した。ホワイトハウスでの大統領会見はこれまでのようには開かれなくなっている。オバマチームからすれば、新聞やテレビなどの記者たちに情報を加工されるよりも、Twitterなどの新メディアによって直接有権者に語り掛けるほうがずっと効果的で、しかも安全であるからだ。つまり、Twitterの登場によって、政治家自らがメディアという武器をもったのだ。
遅れること2年。ついに日本にもその衝撃波が押し寄せてきている。
Twitterは、政治家と有権者を直接結ぶことで、記者クラブ制度を中心とした既存のメディア環境を一瞬で骨抜きにしてしまった。Twitterを知る日本人は、既存の新聞・テレビなどのメディアを飛び越えて、直接、施政者とつながることができるのである。
つぶやきが日本の政治とメディアの関係に革命をもたらそうとしている。
Twitter(ツイッター)やUstream(オンライン動画配信サービス)の登場が、この国の政治とメディアの在り方を根本から変えようとしている。
ポケベルやEメール、あるいはインターネットメディアのブログ、YouTube、2ちゃんねるの登場でも、これほどまでの変化を感じることはなかった。ましてやFacebookやMySpace、ミクシィでも同様だ。あえて挙げるとすれば、携帯電話が永田町に普及した時期のような印象がある。
いまや現代政治の根本にまで入り込んでいるケータイだが、当初は少なくない政治家から「拒絶」をもって受け止められた。
「プライバシーのなくなるような、そんな代物は絶対に使わない」
大物議員の多くが、その新しい通信ツールの台頭に眉をしかめ、こう言い放ったのだ。ところが、次第にそうした牧歌的な状況を政治そのものが許さなくなってきた。料亭やホテルの部屋で行なわれていた政治密談は、よりスピード感と機密性の高いケータイでの通話にその座を譲ることになった。
いまや永田町では、政治家同士がケータイで連絡を取り合うことは当然の風景になっている。ケータイ通話のみならず、携帯メールを駆使してコミュニケーションに役立てる政治家もいる。新聞やテレビの記者たちもこの動きに過敏に反応し、他社のライバルが出席する会見や懇談よりも、ケータイでの単独取材に重きを置くようになった。この傾向は、長らく不動の地位を保つものだと思われていた。TwitterとUstreamが登場するまでは――。
筆者が、変化の前兆とTwitterの可能性に触れたのは二年前のことだった。2008年夏、米大統領選の取材のために情報を集めている筆者の下に、かつての『ニューヨーク・タイムズ』の同僚からTwitterの利用をアドバイスされたのだ。
「大統領選を取材するのならば、各陣営のSNSに入らない手はない。とくにTwitterとFacebookはオバマ陣営の情報の宝庫だ。オバマをフォローするならば、アカウントを作成することを薦める」
そういわれて、恐る恐る匿名の英語アカウントを取得したのが2008年8月のことだった。たしかにオバマ陣営はTwitterを重視しているようだった。だが、当初それは、支持者獲得のための政策発表や小口の献金集めのためのツールとして利用しているようにしか見えなかった。ところがその直後、オバマ陣営がこの新しいメディアツールを「武器」として利用しだす。
既存のメディア環境が骨抜きに
全米の関心は、はたしてオバマ候補がいったい誰を副大統領候補に据えるのか、という1点に集中していた。コリン・パウエル元国務長官や最後まで予備選を争ったヒラリー・クリントン上院議員の名前が取りざたされていた。当然に全米、いや世界中のメディアの関心もその人事に集まっていた。
そうしたなか、ついにオバマ陣営が副大統領候補を指名する。ジョゼフ・バイデン上院議員。それは全米のメディア関係者に衝撃をもって迎えられた。人事案ではない。発表方式についてだ。オバマ陣営は、記者会見やどこかの記者にスクープさせるという旧来の手法を採らなかった。Twitterなどの自らのメディアでまず発表し、それをCNNなどに後追いさせるという方式を採ったのだ。
実際、CNNは当時、「オバマのTwitterやblogによると――」として副大統領候補人事を報じている。この瞬間、米国においては政治とメディアの関係が劇的に変わったのだ。
オバマ陣営のメディア戦略担当のデビッド・アクセルロッド氏は、政権発足後、早速そのツールを駆使して、以前よりもずっと容易にスピンコントロールを行なっている。
ハイチ大地震の際、オバマ大統領はTwitterでいち早く「米政府はハイチの人々とともにある」との声明を発表し、ホワイトハウスのblogをリンクして緊急支援を表明した。ホワイトハウスでの大統領会見はこれまでのようには開かれなくなっている。オバマチームからすれば、新聞やテレビなどの記者たちに情報を加工されるよりも、Twitterなどの新メディアによって直接有権者に語り掛けるほうがずっと効果的で、しかも安全であるからだ。つまり、Twitterの登場によって、政治家自らがメディアという武器をもったのだ。
遅れること2年。ついに日本にもその衝撃波が押し寄せてきている。
Twitterは、政治家と有権者を直接結ぶことで、記者クラブ制度を中心とした既存のメディア環境を一瞬で骨抜きにしてしまった。Twitterを知る日本人は、既存の新聞・テレビなどのメディアを飛び越えて、直接、施政者とつながることができるのである。
つぶやきが日本の政治とメディアの関係に革命をもたらそうとしている。