ロブサン・センゲ首相

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 チベットの自由を求めるチベット人の焼身自殺者は2009年2月から昨年4月までの約6年間で143人にも及んでいる。チベット亡命政権の政治的最高指導者、ロブサン・センゲ首相はインタビューに応じ、チベット人対し、僧侶で、一般市民を問わず、社会的にも、政治的にも、経済的にも厳しい差別や弾圧が中国当局によって行われていると語った。ジャーナリストの相馬勝氏がレポートする。

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 具体的にどのような差別や弾圧が加えられているのか。いまや中国内のチベット仏教僧院では毛沢東やトウ小平、江沢民、胡錦濤という歴代の指導者と現指導者である習近平の5人の肖像画が飾られ、毛沢東思想や共産主義思想、さらに現在の習近平による重要講話などの政治学習が強要されている。

 しかも、政治学習には地元の共産党幹部が立ち会うなか、チベット語の使用は禁じられ、中国語(漢語)での学習が義務付けられている。従わなければ、僧侶は破門され、僧院を出ていかなければならない。これは即、流浪の民と化すことを意味する。焼身自殺者のなかに、元僧侶が多く含まれているのは、このためでもある。

 このようなチベット語の使用禁止令はすでにチベット人居住区全体に拡大している。米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」によると、今年1月初旬、青海省黄南チベット族自治州同仁県のホテルで、従業員がチベット語を使ったら500元(約9000円)の罰金を科すとの貼り紙が出されたという。2014年の青海省やチベット自治区の労働者の平均月収は1900元(約3万4200円)であり、罰金は月収の4分の1以上にも当たる。

 センゲ氏によると、チベット自治区ラサのある新聞社でも編集幹部14人中、チベット人は11人で、漢族(中国人)はわずか3人しかいないのに、会議は中国語で行われ、企画書などの公文書もすべて中国語で書かないと受け付けてもらえないという。チベット内の大学でも中国人の幹部が党委員会のトップを務めており、教育カリキュラムも中国人中心で、チベット固有の文化などの講座は廃止している。

 また、在京チベット筋が明かしたところでは、チベット住民が集まって、中国に対する抗議行動を起こさないように、近隣の5世帯の住民を一つの組織とする「隣組制度」がつくられ、住民同士が互いに監視し合う「スパイ網」が形成されている。住民は隣町に行くにも当局の許可が必要だ。住民が許可なく移動しても、すぐに居場所が分かるように、中国政府は個人の生体認証チップをはめ込んだ身分証を発行し、24時間携帯するよう命令。どこにいるかは常に把握しているなど、監視体制は厳重だ。

 さらに中国政府はチベット自治区の管理強化のため、中国人の流入政策を推進。2000年の人口統計では、チベット高原の人口約1000万人のうち、半数以上の540万人がチベット人だったが、現在ではチベット人600万人に対し、中国人は750万人と、中国人とチベット人の人口の逆転が起こっている。

 中国政府はチベット人と中国人の結婚を奨励する「混血政策」を打ち出した。この政策は徐々に功を奏しており、2008年末に、同自治区における異民族カップルは666組だったものが、2013年末には4795組と急増している。同筋は「チベット族と漢族のカップルには優先的に希望通りの職業が斡旋され、医療保険や子供の教育上の優遇策など手厚く保護されることも無視できない。異民族間の結婚によって、チベット独自の文化が失われる可能性が強い」と指摘する。

 これ以外でも、チベット人に対する政治、経済などあらゆる部門での差別と抑圧が実施され、「中国はチベットを完全に破壊しようとしている」とセンゲ氏は中国の非道ぶりを強く訴える。

※SAPIO2016年4月号