砂糖が英国の悪行税に仲間入りしようとしている。医師たちは学校で行うラグビーの試合でタックルをやめるよう求めている。ウェールズでは公共の場での電子たばこ使用を禁止する議論がされている。オズボーン英財務相は公共支出の削減でより小さな政府を目指す決意をしたかもしれないが、乳母の国家(過保護な福祉国家)としては、これまでにないほど拡大しつつあるようだ。
オズボーン氏は16日の予算演説で触れたもっと苦しい内容から人々の注意をそらすべく(砂糖税の)政策を発表したが、同氏のもくろみ通り、多くの人々は政府に私的な選択肢について干渉されることのほうが日常的な家計への干渉に対してよりもはるかに敏感だ。
各国政府はますます生活スタイルに影響を及ぼす方向に傾きつつある。フランスとメキシコでは糖分を多く含む飲料を対象にした課税制度が導入されており、スペインとベルギーでは電子たばこが禁止され、体をぶつけ合うスポーツについては、アメフトのプロ選手が多く脳を損傷していることが激しく非難されているのを受けて厳密な調査が行われている。オーストラリアはそのたくましいイメージとは裏腹に、国民を自らの行為による負傷から守るために花火を禁じ、タバコをプレーンパッケージ(ブランドの差別化ができない健康被害の警告を前面に押し出したパッケージ)にさせ、ヘルメット未着用で自転車に乗れば多額の罰金を科すことまでしている。
こうした過保護な政策の批判者にとって、公衆衛生の擁護者は道徳警察と何ら変わらない。つまり、介入を正当化する状況についての明確な基準が必要であり、行動に最も影響を及ぼす対策が必要だ。
■電子たばこ禁止は疑問 介入の根拠を明確に
介入の原則を明確にすべきだ。人々が周囲の人々を害するような行動を取る場合は介入の根拠となる。または、情報に基づいた判断ができずにより高いリスクにさらされる可能性のある子どもを守る場合も根拠となる。大人が自分の健康リスクを冒す場合は、その危険性を認識させ、おそらく分別のある選択をさせるようにすべきだが、それを強制していい根拠はない。
従って、糖分の多い食品に課税することは、それらが子どもを取り込もうと意図したものを対象とするならばなおさら理にかなっている。また、製造業者に対して「隠れた糖分」をレシピから取り除くよう圧力をかけることも有益だ。ただ、税で状況が改善するかどうかはそれほど定かではない。大西洋の真ん中に浮かぶ辺境のセント・ヘレナ島では、まん延する糖尿病の対策として炭酸飲料に対する懲罰的な輸入税を導入しているが、デンマークは類似する「肥満税」を導入したものの、国外に買い物に行く人が増えただけだったために撤廃した。英国の新たな税制は一部の飲料のみを対象とするいくらか独創的なものだが、その方法は合理的に見える。高い税率を課すまでに2年の猶予を与えることで、企業がレシピを改善する動機と時間を与えているからだ。
ラグビーに関しては、ほとんどのファンがタックル禁止を支持しないだろう。とはいえ、選手が攻撃ラインを切り開く衝突を重視するのではなく、むしろスペースをつくってそこに走り込むことを奨励するようにルールを改変すべき十分な根拠はある。負傷した選手については、特に学校での場合は脳振盪(しんとう)が起きないようにもっと効果的な監視を行うべきだ。現代の試合では力業よりも優雅さと策略が勝るべきだ。
電子たばこの禁止は根拠がないようだ。従来型の喫煙とは対照的に電子たばこを吸う行為が第三者に実際に何らかの影響を及ぼし、若者がたばこを手に取る効果があるという証拠はほとんどない。電子たばこの使用者――その多くが禁煙を試みている人々――はリスクをいくらか冒してはいるが、そうする権利がある。たばこ会社が十分に試されたテクニックを駆使して電子たばこを魅力的に見せているのは不愉快だ。電子たばこを買う人々の大半はもっと有害なものからこちらに切り替えている人々である。
シートベルトから年金加入まで、政府が自分や他人の向こう見ずな行動から国民を守ることを正当化する根拠は十分にあるだろう。だがそれは、一時的なモラルパニックに反応した結果としてではなく、明確な根拠に基づいて行わなければならない。
(2016年3月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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