経験や勘だけに頼らず、データを分析し、地域の活性化戦略に生かしてほしい――。

 地方創生の旗を振る政府が、自治体に対してそんな呼びかけを強めている。産業や観光、人口などに関して、いわゆる「ビッグデータ」を活用した「地域経済分析システム」を昨春に用意し、セミナーを開いてきた。

 客観的な指標に基づいた政策は、予算を有効に使うためにも大切だ。ただ、小さな市町村ほど立派なデータベースに戸惑い、戦略作りが民間シンクタンク任せにもなりかねない。

 データとどう向き合い、使いこなすか。東日本大震災の被災地で、震災前に1万人を超えていた人口が津波による犠牲や移住で4割近く減った宮城県女川町の試みが参考になりそうだ。

 町の再生に関わるNPO法人のスタッフが注目したのは、様々な「うわさ」だった。11年前、ハリケーン・カトリーナに直撃された米ニューオーリンズの復興でも用いられた手法だ。

 特に着目したのは「女川など沿岸部の住民は不健康」「隣の石巻市や、仙台市など都市圏に出かけて食事や買い物をすることが多い」の二つだった。

 国や県、町の資料を分析するとその通りで、町民の「メタボ率」は国や県の平均、同規模の町村より高い。町民の消費行動についても、町を訪れる観光客の支出分も含め、年に40億円余が町外で消費されているとの推計が浮かび上がった。

 そこで打ち出したのが「健康から経済を動かす」プロジェクト。水産の街・女川の特徴を生かし、地元の海産物を使ったヘルシーメニューを開発する。調理は高齢者らにお願いし、朝食抜きの子供たちに朝ごはんを、町民には外食メニューとして、昨年末に街開きした駅前商店街の一角で振る舞う。

 地元業者に食材費を支払い、町民には食事代として地元におカネを落としてもらう。商店街にある交流施設のキッチンで健康メニューの料理教室を開けば、世代を超えて関係が深まるだろう。町民が健康になれば医療費が減り、町の財政も助かる――。まだ構想段階だが、さまざまな効果が期待できそうだ。

 政府は昨年末、分析システムに「地域経済循環」に関わる数項目を加えた。他の地域からおカネを稼いできて、それを地域内で動かす。問題意識や狙いは女川の試みと共通する。

 日々の生活や地場産業に注目し、課題や可能性を探る。小さな自治体でも、そんな姿勢でデータ活用に努めれば、活性化への突破口になるのではないか。