睡眠不足のとき食べ過ぎてしまうのはなぜ?
人はなぜ睡眠が不足すると不健康な食品を多く食べてしまうのか――。この悩ましい問題について研究が進んでいる。
学術誌「スリープ」に今月掲載された研究によると、睡眠が不足すると体重増加リスクが高まる仕組みの解明につながる新たなメカニズムが発見された。研究を行ったのはシカゴ大学の研究チームで、被験者14人が夕方の間食で摂取したカロリーを比較したところ、睡眠不足のときは1000カロリー近くに上ったが、十分な睡眠をとったあとは600カロリーにとどまった。また、睡眠不足のときは十分に睡眠をとったときと比べて2倍の脂肪を摂取していた。ビュッフェ形式の昼食でのカロリー摂取量はいずれの場合も変わらなかった。
この研究の筆頭筆者でシカゴ大学睡眠代謝健康センターの研究員エリン・ハンロン氏によると、睡眠不足の状態になると、報酬や快楽としての食物摂取に関係する内因性カンナビノイド・システムの働きが増大したという。
内因性カンナビノイド・システムは体内で生成される脂質で構成されており、血液で測定が可能。大麻を吸ったときにも働くシステムで、空腹感の原因と考えられている。
研究では14人の被験者に実験室で8.5時間と4.5時間の睡眠を4日間ずつとってもらい、それぞれ4日後に内因性カンナビノイドの1種である2-AG の値を計測した。その結果、24時間の平均値は同じだったが、睡眠時間が短いときのほうが最高値が高く、最高値に達するのも遅かった。
ハンロン氏によると、被験者は睡眠時間が短いときのほうが空腹感も食欲も強く感じたそうで、これと同じタイミングで内因性カンナビノイドの数値も増加したという。
ハンロン氏は、内因性カンナビノイド・システムの働きが睡眠不足後の食べ過ぎを引き起こす要因の1つである可能性があると語っている。
では、同じ食物を食べても、睡眠時間が短いときと十分な睡眠をとったときとでは体重の増加に違いがあるのだろうか。
ペンシルベニア大学医学部の博士研究員アンドリア・スパエス氏が昨年、学術誌「オベシティ(肥満)」で発表した研究では、5日間にわたって睡眠時間を制限し、翌朝に安静時の代謝率を測定した。その結果、いつも通りの睡眠をとったあとより睡眠時間を制限されたあとのほうが代謝率が低いことが分かった。
スパエス氏によると、睡眠時間が制限されたあとの安静時の消費カロリーは制限がないときと比べて約42カロリー少なかった。「時間の経過と共にこれが積み重なっていく可能性がある」とスパエス氏は指摘している。
解明が進んでいない疑問はもう1つある。睡眠の質が食物の摂取量にどのように影響するのかという問題だ。これまでの研究では、徐波睡眠と呼ばれる深い眠りが少ないときはブドウ糖の処理能力が低下し、2型糖尿病の発症リスクが高まることが分かっている。
睡眠時間の増加と体重減少の関係については、シカゴ大学の研究チームも連邦政府の資金で研究を進めている。研究責任者のエスラ・タサリ医学准教授によると、体重過多の成人が1日当たりの睡眠時間を1.5時間延ばした場合、エネルギーバランスに変化があるか、最終的に体重は減少するのかを観察しているという。研究は5年間かけて行う予定で、研究チームは最大80人の被験者を募集している。
コロンビア大学医療センターのマリー=ピエール・サントンジュ医学准教授は被験者27人について神経画像検査を行い、睡眠時間を制限したときと十分に睡眠をとったときで食べ物の画像を見たときの神経反応に違いがあるかどうかを調べた。その結果、睡眠時間が制限されているときは、報酬中枢に関係する脳の領域の神経反応が大きくなったことが分かった。この研究は2012年に学術誌「アメリカン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ニュートリション」で発表された。
サントンジュ准教授はこの結果について、シカゴ大学による内因性カンナビノイドに関する研究と一致するところが多いと語った。
サントンジュ氏が最近、2012年の研究のデータに基づいて二次分析を行った結果、食べたものが睡眠の質に関係している可能性があることが分かった。被験者に好きなものを何でも食べてもらったところ、食物繊維を多く摂った被験者は徐波睡眠が長く、飽和脂肪の摂取量が多かった被験者は徐波睡眠が短かった。さらに、糖質の摂取量が多いと夜中に目が覚める回数が多いことも分かった。この研究結果は今年1月に学術誌「ジャーナル・オブ・クリニカル・スリープ・メディスン」で発表された。
サントンジュ氏は「昼間、何を食べるかが睡眠の質に影響する可能性に注意すべき」と話している。