泥沼の内戦に陥ったシリアの情勢をめぐり、国連主導の和平協議がスイスで始まった。

 国家と地域社会を崩壊させ、多くの犠牲者と未曽有の難民を出した紛争が収拾の糸口を見いだせるか、注目されている。

 もちろん、楽観はできない。協議に参加するアサド政権や反体制派は、勢力の拡大を狙って自らの立場を譲らず、妥協の気配がうかがえない。

 協議の対象ではない過激派組織「イスラム国」(IS)などへの対応をどうするか、見通しは立っていない。

 とはいえ米国とロシアが仲介した停戦が発効した先月以降、大規模な戦闘は伝えられていない。ロシアは主要部隊の撤収と空爆停止を表明し、前向きな兆しが生まれている。

 この機会を逃さず、確固たる和平への流れにつなげたい。節度を欠く駆け引きや交渉の引き延ばしは許されない。

 折しもフリージャーナリストの安田純平さんと見られる男性がシリアで拘束された、との情報が流れている。安否が気遣われるが、情報は錯綜(さくそう)しており、現地の混沌(こんとん)ぶりが伝わる。

 シリアの荒廃を長期化させてはならない。米国や欧州連合(EU)、地域の有力国は、各勢力に対して協議を進展させるよう働きかけるべきだ。

 ロシアは昨年9月、IS対策を名目に介入したが、ISと関係のない反政府勢力を攻撃し、空爆で民間人に被害も出して、批判を浴びてきた。

 撤収に踏み切ったプーチン大統領の真意は不透明だが、単に退くだけでなく、安定化へ積極的に関与し続けるべきだ。

 ロシアにはアサド政権に対し反体制派と真剣な対話を進めるよう説得する責任がある。さもないと、ロシアがウクライナ危機で失った国際社会の信頼は、到底回復できないだろう。

 ロシアとともに停戦を呼びかけた米国は、停戦の継続へ影響力を駆使するとともに、国連、関係国・組織間の対話を率先してゆかねばならない。

 同時に姿勢が問われるのは、トルコ、サウジアラビア、イランなど中東の主要な国々だ。これまで、それぞれが影響力を持つシリア国内の各勢力の利益を守る態度が目立った。しかし、シリアの和平なしに中東全体の繁栄と安定はありえないことを十分認識するときだ。

 日本にとっても中東の混迷は積極的に関与すべき人道問題であり、また、エネルギー確保に直結する問題でもある。経済援助や難民支援を含め、多様な面からかかわり方を探りたい。