イルベへの書き込みは匿名なので、公の場では口にできない主張をイルベに書き込むケースが多い。人前で言えないことを言う「排せつ」場所に近い。かつてスキャンダルやデマが飛び交ったトイレの落書きだと思えばいい。こうした過激な書き込みを見て「のぞき見的な快感」を得る人もいるだろう。
だが、誰かがたまたまイルベで使われるワードを使ったからと言って、あるいはよく似た発言をしたからと言って、「イルベ認定」するのは乱暴だ。これは、私たちが抜け出そうとあれほどまでに闘った、かつての全体主義への回帰ではないだろうか。誰かイルベ的な傾向を持っている人物がいないかと、フェイスブックやツイッターといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)であら探しする行為は、マッカーシズム(赤狩り=共産主義者に対する攻撃・追放運動)のように低劣だし、その昔トイレに書かれていた政府批判の落書きにも神経をとがらせて犯人捜しをしたのと同じくらいこっけいだ。チョ・ソク氏はこうしたレッテル貼りや短絡的な世論を漫画で皮肉ったのだろう。
チョ・ソク氏のWeb漫画に寄せられたコメントには「胸がスッとした」「言うべきことは言った」という反響が圧倒的に多かった。これは、今までどれだけ多くの人々が憶測や魔女狩りのような主張に抑圧されてきたかを物語っている。そうでなければ、漫画を1作品アップするだけで平均アクセス回数500万回を稼ぐ人気漫画家が常にこうしたことを意識し、自己検閲する必要などない。とは言え、この記事を読んで記者をイルベ・ユーザーだと思い込む人もいるかもしれない。