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2009/10/10 (協会報10月号より)

ソウル日本人学校 新築移転に際して

岩崎社長
-「協会報」2009年10月号『ハローソウル』より転載
ソウル日本人学校 学校運営委員長
韓国伊藤忠(株) 代表理事社長 岩崎 在宏

 今年7月30日、ソウル市麻浦区上岩洞DMC(Digital Media City)に於いて、ソウル日本人学校の新築工事起工式が無事に執り行われました。来年9月には素晴しい日本人学校が竣工・開校することを楽しみにしていると同時に、その準備作業の多さに改めて気づき、気が重い昨今ですが、この新築・移転プロジェクトに纏わる話をさせていただこうと思います。

 ソウル日本人学校は、1972年ソウル駐在員が漢南洞のビルの2Fを借りて開校、その後1980年に現在の開浦洞の校地を取得し校舎を建設・移転して現在に至っています。現在学校の周辺は緑の多い文教地区であり、ソウルでも名高い高級マンション街がありますが、移転当時は、道路整備もされておらず田んぼの畦道に車を走らせて下見に行く様な場所であったそうです。
 しかし、その後の目を見張る発展とともに交通渋滞がひどくなり、多数のご父兄が住む東二村洞地区からのバス通学には漢江を渡らなければならいないこともあり40分から50分もかかり、子供たちにとり大きな負担となっておりました。一方、建築後25年を経過し校舎の老朽化も目立って来た為、建物診断を実施したところ近い将来の立替を検討せざるを得ないとの結果となりました。これを受けて学校の土地・建物を所有するソウル・ジャパン・クラブ(SJC)では、学校立替プロジェクト・チームが結成され、この解決策を検討することとなりました。

 昨今 老朽化の為の立替を検討されている海外の日本人学校も少なくないと思いますが、企業が先を争って進出して行く地域での新設計画とは違い、必ずしも邦人数、進出企業数が増加する環境に無いところで寄付金を中心として建設資金を捻出することは、言うまでも無く、極めて困難です。幸い ソウルでは、現在地の土地価格が高騰していたことにより、早い段階より、この土地を売却して他の地域に廉価な土地を購入の上、その差額の剰余金で建物を建設するアイデアが検討されました。しかし、もともと現在地はソウル市より学校用地として安い値段で払い下げてもらった経緯がある為、実行に際しては ソウル市より学校用地から住宅用地へ使用目的制限を解除する特別許可を受けなければ売却は出来ず、この点が最大のネックとなりました。
 この問題の解決を目指し様々な模索がありましたが、昨年の李明博大統領の就任と共に追い風が吹き、この問題解決の糸口が見えて来ました。李大統領は就任と共に国家競争力を強化する為の施策として外国からの投資誘致を積極的に推進することを掲げる一方、その掛け声だけに終わらず、その為の具体策として外国企業が安心して駐在員を派遣出来るようなインフラの充実が重要だとして、外国人学校の整備を指示しました。この流れに沿って、ソウル市で新設された競争力強化本部内グローバル支援チームが、本プロジェクトを支援してくれることとなり、現在地を周辺に居住する外国人学校用地としてSJCより買い上げ、一方で ソウル市側はDMC開発地域に確保している外国人学校用地を日本人学校用に売却、SJCはその差額の剰余金を使い新築校舎を建設するスワップ取引の形での推進が決定しました。
 実際にプロジェクトを推進する過程では、ジェット・コースター並みの期待と失望の繰り返しもあり、またソウル市議会での承認も取れ契約締結目前の最終段階に入った時点で、ソウル市内部で慎重論が出て3ヶ月程の生みの苦しみを味わう等、平坦な道程ではありませんでしたが、この様な自治体が絡んでの複雑なスワップ方式を取ったプロジェクトが、実質的な協議開始より1年余りで具体化されるというスピード感には、(無事に成功したから言える話ではありますが)改めて驚かざるを得ません。

 日本と同様の貿易構造を持ち、更に輸出依存の高い韓国は、従来から日本に追いつけ追い越せを暗黙のスローガンとして日本製品との比較に於ける輸出競争力の強化を目指して来ましたが、もはやそれも過去形となりつつあり、韓国は世界に視野を広げてグローバル競争での勝ち残りを目指し官民一体での国家競争力の強化に取り組もうとしています。
 この度の日本人学校立替プロジェクトは、韓国政府、ソウル市並びに現地麻浦区の関係者の方々のご理解とご協力により実現したもので、最大級の感謝の表現を使わせて頂かなければならないと思う一方、我々と同様の悩みを抱える日本の外国人学校があったとすれば、同様に実現される様な開かれた日本であって欲しいと願う次第です。

       = 新校舎概要 =
  • 規模       地上5階、地下1階
  • 工事期間    2009年7月~2010年9月
  • 建築面積     5,442.93㎡
  • 敷地面積    13,532.00㎡
  • 建築延べ面積 15,686.09㎡
  • 構造       鉄骨・鉄筋コンクリート
  • 主要施設    校舎本館、体育館、室内プール
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日本人学校 外観