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異世界とチートな農園主 作者:浅野明

花畑を作ろう

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食材ギルドと本登録(1)

果樹園を造って数日が過ぎた。果樹の苗木はすべて順調に根付いている。収穫を楽しみに日々の世話を欠かさないリン。実は野菜や果樹に毎日毎日話しかけている。話しかけると育ちがいいってよくいうよね!収穫期がきたら、今度は果物パーティを開こうと画策しているリンである。

その日、畑の作業を終えると、リンはひさしぶりに食材ギルドへと赴いた。先延ばしにしていたギルド本登録の申請をするためだ。

実は仮登録のあいだ、リンが特になにもしなくてもなんの問題もなかったのは、アリスが継続手続きをしてくれていたからである。マメな彼女は、時期が来るとリンの家を訪れて継続の手続きをしていくのだ。ついでにルイセリゼの店の新作だという子供服を何点か持ってきて、リンを着せ替え人形にしてはニヤニヤしている。

というわけで、特に来る必要のなかった食材ギルドであるが、さすがに本登録するならそういうわけにはいかない。

ひさしぶりにきた食材ギルドは、予想外に混雑していた。が、相変わらずアリスだけは暇そうだ。

「あら、リン。ひさしぶりね」

「何でこんなにヒトがいるの?」

さまざまな種族が入り雑じり、奥の店に行列を作っている。なにか珍しいものでも仕入れたのだろうか?

「あの行列?つい先日新しい迷宮が発見されてね。見たことない食材が何種類もみつかったのよ。それでいま研究熱心な学者さんや調理人なんかが詰めかけてるってわけ。たぶん、迷宮ギルドのほうが凄いことになってると思うわよ?」

ただ、迷宮ギルドは登録者しか入れないので、そのぶん、食材ギルドにヒトが流れてきたらしい。

「へえ、そんなことあるんだね」

一気に何種類も新しい食材が発見されるなんてリンの常識では考えられない。

「そうね。珍しいことではあるけれど、全くないわけでもないわ」

新しい迷宮自体そうそう見つかるものではない。だから、今回のようなことがあると、お祭り騒ぎになるのだという。

「まあ、今回の迷宮は隣国だからね。この国で発見されたなら国をあげての祭になるわよ」

新しい迷宮は経済効果が半端ない。ランクにもよるが、冒険者、迷宮探索者から始まり、植物学者、迷宮学者、商人に観光客。果ては犯罪者まで。さまざまな人種がやってくるからだ。

「そうなんだ」

「あまり興味なさそうね?」

「興味はあるよ。でもいまは自分の農園だけで手一杯だから」

冒険者じゃないしね!新しい食材に興味はあるけど、人ごみは苦手なので、ある程度時間がたってヒトがいなくなった頃に見に来よう。

「ふふ、そう。ところで今日は何をしにきたのかしら」

「ギルドの本登録しようと思って」

そう言うと、アリスが驚いたようにリンを見る。

「あら……そういえば、リンはもう少しで十五歳になるのね。成長期なのに出会った頃と見た目がほとんど変わってないわよ?ちゃんと食べてる?」

見た目が変わらないのは、恐らく「神人」という種族の特性だろう。確か説明書には、寿命が長く、老化が遅いとあった気がするし。だが、二十歳くらいまでは多少遅くても違和感を覚えるほどではないはずだ。

「食べてるよ。それで、手続きはなにしたらいいの?」

ヒトが多いところは苦手なので、さっさと終わらせて帰りたいとリンが言うと、アリスが笑って書類を一枚取り出す。

「ふふふ、食材ギルドを選んでくれてありがとう。この書類に必要事項を記入し……」

「うわっ」

アリスの説明の途中で誰かが思い切りぶつかってきた。そのせいでバランスを崩したリンがカウンターに思い切りぶつかる。

「うわ、ごめんよー。大丈夫?」

いや、大丈夫なわけないし。頭が痛い、と呻いていると誰かが手を差しのべてくれた。

引き起こしてくれたのは、十五歳くらいの少年だ。金の髪に緑柱石の瞳。真っ白な肌にシミひとつないキレイな手。そして、腰には少年に不似合いな大きな剣。

「ホントにごめんよー。……えっと、怒ってる?」

リンの顔を見たあと、驚いたように息をのむと、恐る恐る聞いてきた。

「いや、謝ってもらったし、とくには」

べつに怒ってはいない。二回も謝ってくれたことだし。ここは海のように広いココロでゆるしてあげよう。リンがそう言うと、少年は困った顔をして、でも、となにやら戸惑っている。

「ああ、大丈夫よ。彼女は元々こういう無表情な子だから」

「はあ、そうなんですか?」

「そうよ。だから気にしなくてもいいわよ」

なぜかアリスが問題ない、と請け合う。

「ラグナ、リンが可愛いから気にしてるんでしょ?いつもならぶつかっても無視だもの。貴方が手を貸すなんて初めて見たわ」

「そんなことありませんよ。アリスさん、誤解されるようなこと言わないで下さい」

慌てて否定する少年。改めてリンに向き合うと、頭をさげる。

「先程は失礼しました。僕はラグナ・ラウロと申します」

お手本のようなキレイなおじぎ。リンも慌てて頭をさげる。

「リン、です」

「リン。ラウロ家は研究学園での宝石類の研究や養殖をしている家なの。彼は三男で今年成年を期に竜騎士団に入団したのよ」

とても優秀なの、とアリスが補足してくれる。竜騎士団は、近衛隊に次ぐ程に入団が厳しい騎士団であり、王国が抱える騎士団の中でもっとも優秀だといわれている。

リンは知らなかったが、王都には研究学園なるものが存在し、様々な研究が行われているうえ、研究者を目指す若者の学舎でもある。ラウロ家は研究学園の創始者の家系であり、養殖している宝石類を資金源として運営しているのだ。

ラグナの兄たちは家業を継いだのだが、ラグナは体を動かすのが好き、というより、この見た目でぶっちゃけ脳筋なため、竜騎士団に入団となったようだ。

「騎士団は脳き……筆記試験とかないの?」

「ないわ」

きっぱり断言された。基本的には戦闘力や竜に乗る技術が優れていればいいようだ。その他に重視されるのは、意外にも容姿や礼儀、一般常識といったところ。国外にも王族の護衛として出向くことがあるかららしい。

「というより、騎士団長とか、副官になるにはそれなりに必要だけど……」

下っぱはラグナのような脳き……のほうが使いやすいですよね。わかります。INTが低い分をSTRに振り分けているという感じなのだろう。いや本人のためにことわっておくと、別に頭が悪いわけではないのだが。

「えっと、それで……」

まだいたラグナが何かをいいかけたが、先輩らしき騎士に呼ばれて渋々奥の店に行く。未練がましく何度か振り返っていた。

「……なんなんだろう」

「あら、リンに一目惚れしたんじゃない?」

あんな自分の容姿を鼻にかけるようなヤツにはあげないけどね、と笑顔でのたまうアリス。笑顔なのに背筋に悪寒が走ったリンだった。









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