16春闘 中小の潮目を変えたい
毎日新聞
安倍政権の強い賃上げ要請にもかかわらず、主要企業は軒並み低水準のベースアップ(ベア)となり、低調さを印象づける春闘となった。
しかし、非正規雇用労働者に正社員を上回る賃上げ回答をする企業が出るなど新しい現象も見られる。
焦点は、中小や非正規の底上げである。大企業の相場を形成するにとどまっていた従来の春闘の潮目を変えるため、4月から本格化する中小企業の交渉では大手との格差是正を進めなければならない。
営業利益が過去最高を更新するトヨタ自動車が昨年(4000円)を大幅に下回る1500円のベアで妥結したのが、今春闘を象徴している。3年連続でベアは実施しても、引き上げ幅は前年の5割に満たない企業が多い。
政府が賃上げを経営側に促す「官製春闘」は3年目で、過去2年は大手企業が政府の要請に応えるかたちでベア実施に踏み切った。しかし、今年は原油安や中国経済の減速などで円高・株安が進み、一転して厳しい労使交渉となった。トヨタの豊田章男社長は「経営環境の潮目が変わった」と発言したという。
ただ、大手が高水準のベアを獲得した昨年も、中小や非正規雇用の労働者は賃上げが追いつかず、格差は開く一方だった。こうした格差を是正するために、春闘の「潮目」こそ変えるべきだ。
今春闘で労組側は賃金の底上げとともに大手と中小、正社員と非正規との格差是正を目標に掲げた。大手の労組は要求額を低水準にとどめる一方で、経営側に対して、円安による原料価格の上昇を価格に転嫁できない中小・下請けに配慮する「適正取引」を求めた。
国際競争力を考え、業界全体で人件費総額が大きく増えない中で格差を是正するには、大企業の正社員の賃金を抑え、その分を中小・下請けや非正規の賃上げに回すのは合理的な考えだ。国全体の経済を活性化するためには、労働者全体の7割を占める中小企業の賃上げは重要だ。
個々の労使交渉で、大手の労組が組合員の賃上げを抑制して、下請けとはいえ他社の労働者や非組合員(非正規雇用労働者)の賃上げを優先できるか、という疑問はある。
ただ、今春闘ではトヨタが期間労働者やパートについて、正社員のベアを上回る水準の賃上げ回答をした。KDDIも労組の要求を大きく上回る非正規の賃上げ回答をした。人材確保のために非正規の賃上げをする企業は少なくない。
こうした流れが本物かどうか注意深く見極めつつ、中小企業や非正規雇用労働者の賃上げを確実に進めていく必要がある。