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白の皇国物語 作者:白沢戌亥

第一章:皇国動乱編

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閑話ノ肆「第一次痴話戦争という名の惚気話」




 メリエラに対して何か悪いことをしたという罪悪感はない。

 ただし、それはあくまでも自らの主観によるものであり、それが相手と一致しているとは限らないとレクティファールは知っている。

 故に、今彼は追い詰められていた。


「――――ねえレクト、正直に答えて欲しいの……」


 接吻さえ容易い距離にあるのは、紛うこと無き龍の眼。

 金色の瞳は真っ直ぐに裂け、その内に多くの悲しみとそれに包まれた怒気を孕んでいる。

 しかし彼が言葉に詰まる理由はそれらの感情だけではない。

 震える声を視覚的に現した、龍眼に浮かぶ涙である。


「――――――――」


 しかし、その怒りと悲しみの理由が理解出来なければ謝罪することも、彼女が求める詳しい事情を説明することも出来ない

 涙さえ流す程に怒り狂った相手に理性的な対応を求めるのは困難であるし、何よりそんな真似をすれば火に油を注ぐだけだ。


「――――レクト」


 だから、彼はひたすら冷や汗を垂らしながら無言を貫く。

 目の前の女性の怒りと悲しみが少しでも落ち着き、理性的な話し合いが出来るようになるまで。


「――――そう、そういうこと……」


 だがまあ、時間が経てば経つほど怒りが増し、悲しみが増すということも十分に考えられる。

 彼はそれを知るには些か若すぎた。或いは、その身に降り掛かった不幸の原因の総ては彼が若いことなのかもしれない。











 『ウィルマグス』に戻ったレクティファールは、休む間もなく執務室でフェリエルと向かい合う羽目になった。

 野戦病院の仕事が忙しいのか、フェリエルはやや疲れたような表情を浮かべていたが、それでもレクティファールの帰還を喜んでくれた。

 この執務室に入ることにも慣れたらしいフェリエルは、寛いだ姿勢でレクティファールの祐筆が淹れたお茶を啜った。


「公の行事としては余り参加したくないものだろうが、これもお役目と思って諦めることだ」


「諦めることは確かに得意ですがね、実は慣れることは苦手です」


「人は得意でも苦手でも、結局最後は慣れる生き物だ。しかし、人の死には慣れるものじゃない」


 フェリエルは寂しげに笑う。

 医師として多くの戦場を渡ってきた彼女にとってみれば、人の死は日常の一部。しかし、日常として慣れてしまえばその時点で彼女は望んで人を救う医者ではなくなる、ただ役目として人を癒すだけの医者に成り下がるだろう。


「別段この仕事に不満はないが、時折自分が死に慣れてはいないかと不安に駆られることはある。君の仕事も同じ様なものなのだろう。わたしのように身内と同じ職場なのは、そういう意味では幸運だな。お互いが死に慣れていないか気を配ることが出来る」


「――――なるほど、参考になります」


 レクティファールはフェリエルの言葉に深く頷いた。

 フェリエルは恥ずかしげに頬を染めながら、お茶請けとして供された焼き菓子を齧った。


「君だってすぐに同じ考えに至るさ。むしろ、わたしが君と同じ年齢の頃に今の君と同じことが出来たとは到底思えない。君が今のわたしの歳になったとき、今のわたしを超えていることは間違いないだろう」


「さて、それはどうでしょうか」


「ふむ……? 何かあったのか」


 フェリエルは身を乗り出し、曖昧な笑みを湛えるレクティファールの目を覗き込んだ。

 しかし、その銀の瞳はこれまでと変わらず、深すぎて底が見通せなかった。異なる場所を起源とするが故の厳然たる壁――――不理解が二人の間には存在するのかもしれない。


「私は所詮、言われるがままに流されているだけの俗物です。いざ自分の考えを問われれば、明確な答えを返すことも出来ない。――――無論、一度答えを返したからには後悔はしていませんが」


 レクティファールの脳裏には、涙を浮かべて自分の胸に抱かれていた女性の姿があった。

 彼女に対して返した答えに後悔はしていない。だが、彼女はそれ以外の答えを求めていたのではないかと思うことはある。

 そして、彼女を自分の下に招くことは本当に正しいことなのか、と悩むことも。


「――――うむ……」


 フェリエルはレクティファールの言葉を肯定することも否定することもしなかった。

 彼女にはレクティファールの言葉の真意が理解出来ない。理解出来ないことに対して憶測で言葉を発することを、彼女は良しとしない。


「君がどんなことで悩んでいるのかわたしには理解出来ないが……」


 当たり前だ、レクティファールは何も語らない。語られないことを理解することが出来るのは、言葉ではなく精神感応で会話するごく一部の種族だけだ。


「誰かに相談してもいいと君が思ったなら、わたしは喜んで相談に乗ろう。結果までは保証出来かねるが……」


「いえ、それで十分ですよ。感謝します」


 レクティファールは小さく笑み、軽く頭を下げた。


「――――ああ、そうしてくれ」


 日頃の物腰とは裏腹に仕事以外では人に頼るということをしないレクティファールの言葉に、フェリエルはほっとしたように微笑んだ。

 彼女は戦場で多くの患者を見てきた。

 その結果、ヒトとは心ありきの生き物であるということを学ぶ。

 戦場で心が死んだ者は身体がどれだけ健康でもゆっくりと腐り、死んでしまう。

 対して身体が深く傷ついても、心が健やかであるなら生き残る可能性はぐんと高くなる。

 彼女自身は医者であるから精神論のみを信奉することはないが、それでも心の力というものを信じていた。

 レクティファールという青年が、肉体的には“皇剣”の恩恵によって不死身に近い耐久性を持っているとしても、心は“皇剣”の力だけで守れるとは思えない。

 “皇剣”の使用者精神防護策と言えば、大きな心の振幅は精神構造に多大な負荷を与えると考えて出来るだけ精神の起伏を抑える精神平均化がよく知られているが、使用者そのものの精神構造に影響を与えるほどの劇的な変化はない筈だ。

 世界を滅ぼせるという概念兵器でさえ、ヒトの心の深遠に踏み込むことは出来ない。

 心を操る魔法技術も存在するが、それとて完璧とは言い難いのだ。


「――――レクト」


「――ん?」


 だからという訳ではない。

 元々この日の面会の目的とはこちらだったのだから。


「メリエラが呼んでいる」


 傷を舐め合うということを蔑む者は多い。自らの傷さえ乗り越えられない者が、他者に頼られることは間違いだという者も確かにいる。

 だが、舐め合うことで早く癒えることもあるのではないか。

 少なくとも、フェリエルはそう思っていた。











 ――――レクティファールに会える。

 身内でもある主治医に許可を貰い、自分でもそろそろ会っていいだろうと考え、最終的な日取りまで決めたというのに、彼女のその日は朝から非常に慌ただしかった。

 長い寝台生活で鈍り、痩せ細った身体はどうしようもなく女性としての魅力を失い、月の銀糸とまで謳われた美しい銀髪は見る影もなく、その白皙には皺や隈が目立つ。

 ゆったりとした服で体型を隠し、直前に湯浴みをすることで無理やり肌と髪に潤いを持たせ、さらにはこれまでは薄く最低限だった化粧を念入りに施した。

 枯れた、老婆のような声を聞かせるのは恥ずかしいとのど薬を処方して貰い、喉に良いという薬草茶も飲んだ。

 その準備をしている彼女は、怪我を負う前の彼女と何ら変わらぬ美しさであったと担当の看護師は話す。

 逢瀬を夢見て恥ずかしげに微笑み、寝台の上に衣裳を並べてはあれでもないこれでもないと悩み続ける。病室内にこれ程の数の衣裳があったことがまず驚きだった。

 総ての準備を終え、姿見でその姿を確認した彼女はようやく納得したように寝台に戻った。

 彼女は自分の努力が実って今の姿を手に入れたと思っているようだが、実際には彼女の心ひとつだったのだろう。

 明るい気持ちであれば美しさを、暗い気持ちであれば醜さを、ただそれだけのことだ。


「ファリエル、どう、変じゃない?」


「変じゃないわよ、さっきから何度同じこと訊くの?」


「でもほら、今まで食っちゃ寝の生活だったし……」


「重症患者は食っちゃ寝が仕事よ。良いもの食べて栄養を取り、身体と心を休ませ、深く寝て癒す、治療なのよ治療」


「でもでも……」


「――――うがぁあああっ!! 何これ!? メリエラってこんなに面倒くさい性格だった!?」


 紅蓮の髪を掻き毟り、天に向かって吼えるは紅龍公が一子ファリエル。

 双子の姉が摂政を迎えに行っている間、メリエラの傍で待つように言い付けられたのだ。

 実は近いうちに摂政の下に挨拶に行けと姉に散々言われていたのだが、結局のらりくらりと今日まで逃げてきた。業を煮やした姉がついに強硬手段に出たらしい。ファリエルとて、子供の頃から知るメリエラに付いていてくれと言われてそれを突っぱねられる程酷い性格はしていない。


「面倒くさいって……ヒドイわ……」


 心底傷付いたと言わんばかりの表情を浮かべるメリエラ。

 実際には毫も堪えていないのだが、そこは幼馴染の付き合いの古さで補っている。まあ、幼馴染とは言っても、その年齢差は十倍を優に超える程なのだが、二人は同世代の四龍姫として人々に認識されている。

 ちなみに、彼女たちの世代の四龍姫――――つまりはレクティファールの妃として後宮に上がる予定の五人の中で最年少は蒼龍公の公女二一歳、最年長は黒龍公の公女四三八歳である。


「女友達は男が出来ると面倒臭くなるって聞くけど、本当ね」


「失礼な噂だわ。それは愛を知らない女の僻みよ」


「――――――――やっぱり面倒臭い」


 ファリエルとしては、別にメリエラが誰と昵懇の間柄になろうと構わないし、幼馴染が幸せなら祝福してもいい。だが、メリエラの“男”とは、そのまま自分か姉の“男”になる人物でもある。面白い筈がない。


「ぽっと出の、それも“皇剣”を継承するまではただの人間だった男、さらには身元不明だった男のどこがいいの?」


 だからだろう、ファリエルの声はこれまでメリエラが聞いたこととがない程刺々しい。

 メリエラは気にした素振りを見せないが、それでも契約を結んだ主君を貶められてはいい気分ではあるまい。

 しかし、それを分かっていてもファリエルは口を噤むことが出来ない。


「ぽっと出ってことは、これまで何の功績も挙げてないってことだし、今回の戦いだってラグダナ中将がいなければ……」


 ファリエルは自分の声に熱が篭り始めたことに気付いた。

 何故と自分でも思う。

 それでも止まらない。

 故に、これまでは意図して口にしていなかった言葉が溢れてしまった。


「そもそもその摂政がしっかりしていれば、あなたがそんな酷い怪我をすることだって――――」


「ファリエル!」


「――――っ……ごめんなさい……」


 自分の口にした言葉に驚き、メリエラの咎めるような視線に俯き、そして彼女は小さく謝罪した。

 言ってはならないことを言ったと、自覚していた。

 今の自分の言葉は、守るべきものを守ろうとした目の前の女龍の矜持を侮辱することだ。

 同じ女龍として、恥ずべきことだった。


「――――どうしたの? 会ってもいない人のこと悪く言うなんて……」


 ファリエルらしくない――――そんなメリエラの言に反論することなど出来よう筈もない。

 自分でも同意見なのだから。


「――――気に食わないのよ、どうしても。自分でも良く分からないんだけど」


「フェリエルを取られるから?」


「そ……っ! そんなこと……」


 無いとは言い切れない。

 ファリエルの姉は摂政に嫁ぐことに何の疑問も抱かず、この街来て、摂政と実際に言葉を交わしてからもそれは変わらない。

 むしろ、乗り気になってしまったような気さえする。

 宿舎に戻ってから摂政のことを話す姉は楽しそうで、ファリエルはその度に不満を募らせていた。


「別に悪い人じゃないわよ? ちょっと馬鹿で天然で、無茶して無理して、無謀なこと大好きだけど」


「――――――――悪くないっていうだけじゃない、それじゃあ」


「あ、そう言えばそうね」


 あっけらかんと笑うメリエラ。その笑顔を見て、ファリエルは気付く。

 よくよく考えてみれば、この幼馴染も昔はもう少し影を背負っていたような気がする。

 公爵令嬢としての、四龍姫としての役目を果たそうといつも張り詰めた表情をしていた。

 だというのに、今は何とも締まりのない顔をして男の来訪を待ち望んでいる。この変化の原因は何だろうか。


「――――――――」


 やはり、件の摂政は恐ろしい男なのかもしれない。

 あの仕事一筋の姉と、この生真面目な幼馴染を篭絡するなんて並の男じゃ出来ないのだから。


「ファリエルだって会ってみればすぐにレクトのこと分かるわよ。単純だから」


「――――――――」


「あれ? ファリエル? 人の話聞いてる?」


 まさか、何処ぞの国で訓練を受けた非正規工作員か。

 或いは別世界から落ちてきた別世界人か。

 ひょっとしたら第一次文明の落とし子という可能性も――――どちらにせよ、自分だけは騙されないようにしなくては。


「――――駄目ね、聞いてない」


 やはり一度詳しく調べてみよう。

 敵を知らねば勝利を知ることは出来ないという言葉もある、まずは父を問い詰めることからだ。


「――――よし……!」


 一つ気合を入れて拳を握り締めるファリエルを見て、メリエラは嘆息した。


「――――はぁ……こういう人の話を聞かないところ、レクトにそっくり」


 幸運なことに、メリエラの呟きはファリエルの耳には届かなかった。











 ノックをして、入室の許可を得るまでは上手くいった。

 だが、実際にそれ以上の行動を起こそうとすると身体が重くなった。

 把手を握る手のひらには汗、そして額にも同じものがある。

 隣で自分の様子を面白そうに見詰める未来の妃候補を恨めしげに睨み、一つ深呼吸をして把手を引いた。

 遣戸の滑車がからからと音を立て、目の前には久し振りに見る銀色の姫君の姿。

 入院生活で少し痩せたように見えたが、それでも以前の美しさが消えることはない。

 白を基調とした病室には、見舞い客の持ってきた花が所狭しと飾られていた。


「――――お元気そうで、何より」


「お蔭様で、随分長い休暇を頂いたから」


「そうですか」


「そうですとも」


 そう言って、微笑み合う。

 その笑顔を見て、レクティファールは胸の閊えが消えるのを感じた。

 されど、彼が安心して部屋に一歩を踏み入れた瞬間、メリエラとは別の女性の声が彼の歩みを押し留めた。


「ああああああぁぁぁっ!?」


「っ!?」


 びくっと肩を震わせて声の主を探すレクティファール。

 果たして、メリエラの寝台の傍らにその人物はいた。

 彼女はレクティファールを指差し、震える声で叫んだ。


「あんたはいつかの放蕩貴族!」


「――――――――フェリエル、私のことは彼女に……」


 確かに久方振りではあるけれど、彼女の姉とは随分前に再会している。当然、ミラ平原の野戦病院で出会った自分が摂政であるという情報は彼女たち姉妹が共有していると思っていた。

 しかし――――


「ん、言ってない。どうせ会うことになるんだ。自分で自己紹介ぐらい出来るだろう」


「まあ、その通りですけどね」


 うぅむ、と唸るレクティファール。

 メリエラなどは余りの展開に目を白黒させ、行き場もなく視線を彷徨わせている。


「情けないけど根はいい奴だと思ってたのに……! わたしの純情を返せっ!」


「何を人聞きの悪いことを……」


「どっかの貴族かその息子だと思って色々調べても誰だか分からないからおかしいとは思ってたよ! でも、まさか摂政だったなんて……! 変装してわたしたちのこと偵察してたのね!」


「そんな訳ないでしょう」


「ふンっ!」


 荒く鼻を鳴らしてそっぽを向くファリエル。

 どう考えても彼女の意見は間違っているのだが、果たして今突っ込みを入れてそれが通じるだろうか。


「――――フェリエル」


「ん、ああなると人の話は聞かない。放って置くのが一番だ」


「姉さんっ!」


 どうしてそいつの味方をするのか――――妹のそんな視線をあっさりと斬り捨て、フェリエルはレクティファールの背を押した。


「気にするな、珍しく気に入った貴族の男が摂政だったと知ってショックを受けているだけだ」


「姉さん!?」


 裏切り者、と自分を責める妹の視線をばっさりと一太刀。

 もうこの姉は頼りにならないと悟ったファリエルは、びしりとレクティファールに指を突き付けた。


「いい? あのときは――――」


「――――貴族なのにたった一人の兵士のために自分の腕を落とそうとするなんて、今時珍しいくらいに民の心身を守るという貴族の義務が分かっている。自分ならああいう、身分じゃなく気持ちの尊い男に嫁ぎたい、と言っていたぞ。どこの馬の骨とも知れない摂政より億倍ましだとな」


「ね、姉さん……っ」


 がくりと膝を突くファリエル。

 完全に姉の玩具にされている。


「わたしもな、正直面白い男だと思ったよ。いやしかし、あのとき話していた女とはメリエラのことだったのだな」


「ええまあ、もう一人はまだ面会謝絶ですが」


「あっちはまだまだだ。皇都で本格的な治療をしなくてはな、とても男の前には出せん」


「――――なるほど、分かりました」


「うむ、分かって貰えて何よりだ」


 暗にさっさと皇都に帰る準備を整えろと言うフェリエル。

 レクティファールが帰還すれば、近衛がこの街に留まる理由はなくなる。

 主人の傍を離れたくないという本人の意思を鑑みてこの街での治療を続けているが、流石にこの街に皇都ほどの設備はない。元々が医療技術では後進国の帝国の街だったのだから仕方が無いのだが、フェリエルとしては顔見知りの治療さえ満足に出来ないという状況はさっさと改善したい処である。

 実際、上位組織である陸軍医療統括局にさんざん上申しているのだが、どこも人手と物資は不足しているらしく希望が聞き届けられたことはない。


「――――姉さんも、あんたも……人のこと無視して……」


「無視しているなんて……」


 滅相もない――――そう続けようとしたレクティファール。

 しかし、にこやかなに微笑むフェリエルがそんなレクティファールの努力をあっさりと圧し潰す。


「ああ、ただ面白がっているだけだ」


「フェリエル……」


「姉さん!?」


「はっはっは、お前たちは仲が良いなあ」


 朗らかに笑うフェリエルと、顔を真っ赤に染めて両手の拳を震わせるファリエル。

 レクティファールといえば困ったように苦笑しているだけで、既に事態の収拾を諦めているようだ。

 彼の処世術の一つに、女同士の揉め事には一切近付かないというものがある。

 これは学生時代の友人から実体験を交えて教授されたもので、彼のこれまでの人生では大いに役に立った。

 しかし、今後も役に立つという保障は無い。

 現にファリエルは上目遣いでレクティファールを睨め付けており、その視線に気圧されるようにレクティファールが半歩後退った。


「――――ひとつ教えてあげるわ……」


 地獄の底から響くような低い声。

 見目麗しい女性から発されているとはとても思えない声だが、彼女が龍族であることを考えれば納得出来ないことはない。龍族は自在に龍と人の姿を行き来することが出来、その応用技術として身体の一部を変化させることは少々歳を取った龍族なら誰でも可能だからだ。

 おそらく、この声は声帯を変化させているか、或いは魔法で変化させているに違いない――――


「――――――――」


 ――――とりあえず、レクティファールはそう納得することにした。そうしなければ怖いから。

 ファリエルは自分がそれ程恐れられているとは気付かないまま、びしり、とレクティファールを指差した。


「ええと――――……そう! 死にたくなかったら、今日から毒見役を増やすことね……っ!」


「――――そ、それはどうも……」


 あれ、意外と親切だなぁ、と思うレクティファールだが、何故かファリエルも自分の言葉に首を傾げている。どうやらもう少しキツイことを言おうと思っていたらしいのだが、咄嗟には思い付かなかったようだ。結果として、脅しなのか医者としてのただの親切なのか、或いは心配しているのか分からない言葉になってしまった。


「やはり、お前たちは仲が良いなぁ。ひょっとしてわたしよりもファリエルの方が好みか、レクト」


「いえ、別に」


「そこは即答なのかっ!?」


 にやにやと笑いながらレクティファールに問い掛けたフェリエルだが、返ってきた答えに思わず叫んでしまった。心底そう思っているらしいレクティファールは、きょとんとフェリエルを見詰め返す。

 彼にとってはフェリエルもファリエルも大した違いは無い。

 婚約者候補である以上、受け入れもするし、守りもするが、それ以上の関わりは現時点では望むべくも無いのだ。メリエラたちと、二人の扱いは良く似ているようで全く違う。レクティファール個人として大切に思っている者たちと、摂政、或いは皇王として大切に思っている者たち。メリエラ、ウィリィア、リリシア、アリア、リーデは前者であり、紅龍公の双子公女は後者に分けられる。

 無論、友人であるフェリエルは前者に限りなく近いだろう。だがそれも、所詮は友人としてのことだ。女としてではない。


「困ったことに、そういうことは詳しくないもので……」


「――――む、そうなのか」


「ええ、そうなんですよ」


 困ったな、と呟くフェリエル。

 彼女としてはもう少しレクティファールの異性の好みというものを知りたかった。

 そうすれば自分たち姉妹のどちらが嫁ぐべきか一つの判断基準になるし、仮にファリエルが後宮に上がることを拒否してもフェリエルがその好みに近付けばいい。

 論理的な考えを好むフェリエルらしい思考だった。彼女は一つ頷き、この話題を打ち切る。

 三人を見詰める一対の瞳が、少しずつ怒りを帯び始めていた。


「――――まあ、今はそれでもいいさ。それに関してはまた話そう。そろそろメリエラの機嫌が限界のようだからな」


「あ」


 迂闊にも今気付いたという風な声を発してしまったレクティファール。

 そんな間抜けな声を聞き咎め、とある人物の眦が一気に釣り上がる。

 しかし彼女は怒りを落ち着けるように何度か深呼吸を行い、何とか静かな声を捻り出した。


「――――――――レクト」


 だが、静かであるが故に押し殺した怒りを容易く察することが出来てしまうということも、またある。

 レクティファールはまた一つ、女性の心理というものを学習した。実際に役立つかは別問題だが。


「――――はい……」


 周囲に援護を求めても、その先にあるのは面白そうにこちらを観察する瞳と意図的に逸らされた瞳のみ。つまり援軍はない。

 彼は一気に重さを増した足を引き摺り、婚約者の前に立った。気分は断頭台に首を捕らえられた受刑者である。

 メリエラは居住まいを正すと、レクティファールを視線で椅子に座らせた。

 そして、出来の悪い弟を叱る姉のように、右手の人差し指を立てて説教を始める。


「お見舞いに来てくれたのは嬉しいのよ、ええ嬉しいわ」


「……はい」


「でもね、一応目的がお見舞いである以上その目的を忘れちゃいけないと思うの」


「……はい」


「いいのよ、二人とは知り合いだって言うし、今後も長い付き合いになるから」


「……はい」


「でも、いいえ、だからこそ目的というものはしっかりと認識しておかなくちゃいけないわ。そうしないと知らず知らずの内に礼儀を失するようなことになりかねないし、あなたの立場ならそれは国家間の問題にもなるの」


「……はい」


「だからね――――……っ!?」


 そのときメリエラは、大した意図もなくレクティファールに顔を近付けたのだろう。

 レクティファールの目を見詰め、自分の意思を声と視線で伝えるために。

 しかし、彼女の動きはそこで止まった。

 大きく目を見開き、驚いたようにレクティファールを見詰める。


「――?」


 レクティファールはそんなメリエラの様子に首を傾げた。

 フェリエルとファリエルも困惑したように視線を交わしており、互いが答えを持っていないことを確認すると再びメリエラへと視線を戻した。

 三人の視線を受けることとなったメリエラはそれに気付かぬように目を瞑り、何かを確認するように二度三度鼻を動かした。

 その動きを見て、動揺した人物が約一名。

 言わずもがな、レクティファールである。


「――――――――」


 まさか、と思う。

 以前から女性問題で何度も説教を受けてきたが、流石に何日も前の匂いが残っているなどということは――――


「――――レクト……」


「はいぃっ!?」


 不味い、バレた――――レクティファールはメリエラのあらゆる感情を押し隠した小さな小さな声を聞いた瞬間、総てを悟った。


「――――何処の女……?」


「うえおあっ!?」


 ゆっくりと目を開いたメリエラの表情に怒りはない。

 だが、それ以外の感情もない。

 さながら人形のようなその顔を見て、レクティファールの舌はその機能の過半を喪失した。

 意味のない奇声だけが今の彼の総てだ。


「――――なるほど、女か」


「――――本当、最っ悪ね……」


 レクティファールの背後で、妙に納得したようなフェリエルの声と吐き捨てるようなファリエルの声が交差する。

 その二つの声に、レクティファールの肩が大きく震えた。

 ぎりぎりと、潤滑油が切れたブリキ人形のように背後を振り返ったレクティファール。そこにはうんうんと何度も頷くフェリエルと、自分を道端に転がる動物の糞のように見下すファリエルがいた。

 納得されたことにはいくらか疑問を抱いたが、それでも大した衝撃は受けなかった。しかし、明らかに自分を蔑んでいるファリエルの視線には大いに傷付いた。

 蔑まれる理由に心当たりがあるだけに尚のことである。


「レクト、こっちを向きなさい」


「……はい」


 しかし、メリエラから発せられる声にはファリエルの視線以上の攻撃力があった。

 感情を読み取れるような抑揚に乏しく、怒っているのか悲しんでいるのかすら判断出来ない。

 レクティファールとしてはせめて感情を示して欲しかった。謝るにしても、謝り方というものがあるのだ。


「いい? わたしの立場ならここで怒ることは出来ないし、怒るつもりもないわ」


「――え?」


 この状況で怒っていないというのか。

 先程から肌に突き刺さる怒気は気のせいだと。

 いやまさか、いくら自分でもそこまで生存本能を捨ててはいない。


「――――何?」


「いえ……!」


 しかし、捨てていないからこそ、踏み込んではいけない領域もある。レクティファールは自分の心に湧き上がった疑念を、一瞬の内に意識領域の彼方に蹴っ飛ばした。

 しかし、彼のすべきことは己の生存本能に従うことだけではない。目の前にいる、怒れる龍姫を宥めることだ。

 彼は決死の覚悟を胸に、何とか反論を試みる。


「あの……」


「――――なぁにぃ?」


「――――……やっぱりいいです……」


 眼光一つで撃墜され、がくりと肩を落とすレクティファール。

 己の決死の覚悟など、所詮メリエラの怒りの前では川に流される木の葉に等しいと彼は気付いたのだった。











 フェリエルは目の前で繰り広げられる痴話喧嘩を観戦しつつ、レクティファールという男の間の良さに感嘆の吐息を漏らす。

 摂政就任からそれなりの時間が経ち、そろそろ女の一人も侍らせなくては摂政としての沽券に関わると思い始めていただけに、彼女は今回の一件を大いに歓迎していた。

 レクティファール個人が過剰な色を好まないとしても、今の状況は良いとは言えない。

 これまでの皇太子は摂政に就任した時点で既に伴侶を得ており、皇王に即位したときには子供さえいた。

 当然、皇子や皇女を貴族や市井に婿入り嫁入りさせ、それによってある程度政治的地盤を固めており、皇王としての権勢を振るう際の後ろ盾としてそれらの繋がりを用いていたのだ。

 だが、レクティファールにはそれが無い。

 メリエラを始めとした四龍公の姫君の腰入れは決まったようなものだが、それも所詮婚約止まりだ。現在の正式な妃候補は二名。後宮に巫女姫リリシア、離宮に『蕾の姫』アリア。これは男性皇太子としては史上最も少ない妃である。

 この状況を危惧する貴族や有力者は多く、同時に好機と捉えている者も少なくなかった。

 前者は皇太子の政治基盤の脆さに危機感を抱いており、内乱と帝国の侵攻で疲弊した国内を纏めることに支障があるのではないかと考えていた。それに対して後者は自らの縁者を妃として摂政の側に送り込むことを考えており、これはおそらく自らの立場を“皇王”の権威によって高めようということなのだろう。

 そして、レクティファールが皇都奪還戦及び対帝国国境戦で名を上げると、これらの動きは変化し、より活発化する。

 前者の危機感は後者のような輩が分不相応な力を持つことに対するものに変化し、後者の胎動はこれまで水面下に留まっていたものが少しずつ水面の上にも現れ始めた。

 レクティファールはこの時点で、望む望まないに関わらず国家の命運を左右するだけの影響力を持ったと言っていい。


(――――まあ、本人には自覚がないようだが……)


 フェリエルはメリエラに責められて小さく縮こまっているレクティファールの背中を見て溜息を吐く。

 彼女の父、紅龍公フレデリックはレクティファールに対する態度とは裏腹に白龍公カールと並んで前者の最先鋒だ。目の中に入れても痛くない愛娘のフェリエルとファリエルを、決して仲が良いとは言えないレクティファールの婚約者として認めたこともその証明だろう。

 自分の好みは別にして、皇国四公爵の一角としての責任は果たさなくてはならない――――フレデリックは皇都の屋敷で娘二人を前にそう語った。

 ファリエルは一方的に自分の将来を決めてしまった父に対して嫌悪感と反発を抱いたようだが、フェリエルは大貴族の娘としてその程度のことはとうの昔に覚悟しており、ただ来るべきときが来たとしか思わなかった。

 そして彼女は『ウィルマグス』にて“摂政”レクティファールと直に顔を合わせ、生涯の伴侶としては中々悪くないという感想を持つ。

 “皇剣”を継承した段階である程度の器量を持つ人物であるとは思っていたが、彼女自身が『悪くない』と思える人物であったことは非常に大きい。

 彼女自身、誰と結ばれたところで適当に幸せになり、適当に満足して死ぬ自信があった。

 しかし、適当以上を望むことが出来るのならそれに越したことはない。いつか迎える最期のとき、心の底から笑って死ねるような人生を願う程度には、彼女も人の子だった。


「――――ねえレクト、正直に答えて欲しいの……」


 今自分の目の前で怪我人に圧倒されている青年がそれを実現させてくれるかどうかは定かではないし、何より彼女自身にも確信はない。

 されど、確信がないからこそ彼女はレクティファールを『悪くない』と評した。

 万が一、妹が心変わりしたのなら、それはそれで良い。

 頑固な妹を心変わりさせた男と関わる人生は面白いものになるだろう。

 紅龍公の名跡を継ぎ、皇王となったレクティファールの下で働くこともそう悪いことではない。

 自分と妹、どちらが嫁いでも退屈しない人生になる。

 その人生が良い人生になるかどうかは、レクティファールの責任ではなく彼女の責任だ。どうとでもしてみせる。


「――――そう、そういうこと……」


 その為にはまずレクティファールにこの修羅場を潜り抜けてもらわなければ――――フェリエルは心の中に湧き上がる期待を押し殺しながら、じっと二人の遣り取りを見守った。











 詰問され、さてどうやって説明したものかと思案するレクティファール。

 しかしこのとき、レクティファールの懊悩はメリエラに一つの答えを抱かせることになる。

 それはレクティファールの予想を遥かに越えるもので、結果的に致命的な思考の遅れを招いた。


「――――……、わたしのせいなのね?」


 自分の醜態に呆れ、愛想を尽かせた結果がこれなのではないか――――彼女はそんな答えに至った。

 『騎従の契約』を結んだにも関わらず主君を守ることさえ出来ずに敗退し、結果として主君に剣を抜かせてしまった。しかも自分が守らなくてはと思っていた主君は敵将と刃を交わした上でそれを退かせている。

 敵の攻勢が限界に達し、敵将が自ら退いたことはこの際問題ではない。

 最終的に主君の命を守ったのが、主君自身であることが問題なのだ。


「こんな騎龍はいらない? 若くて、大した力もないわたしは必要ないの?」


「メリエラ、それは……」


「いいの、わたしが不甲斐なかったのは事実。見捨てられても仕方が無いわ」


 言葉こそ気丈ではあるが、その目には確かに涙が浮かんでいる。

 彼女たち龍族の女にとって、己の不始末で連れ合いに見捨てられることほど惨めなことはない。

 連れ合いが他の女に気を取られているだけなら、彼女たちはここまで悲しむことも怒ることもなかっただろう。幾らでも己の名誉を挽回する機会はあるし、愛すべき主君の隣から身を引く理由もないからだ。

 しかし、自分でも認めるしか無いほどの不始末を為してしまったメリエラには、レクティファールの不義理を責めることは出来ない。

 レクティファールの立場を思えば、今、妾の一人や二人作ったところで世間はどうも思わない。ただ、メリエラやその他の個人が納得出来るかどうかの問題にしかならないだろう。そして個人の問題となれば、メリエラ自身がレクティファールに引け目を感じている以上何も出来ないし、何かしようとも思えない。思えば、それだけ自分の卑しさを見せつけられるのだから。

 現に今、レクティファールの態度に怒りの炎の大半を消し止められた彼女には、弱い自分を責める気持ちと、唯一無二の男の傍らから追い落とされることへの恐怖しか残っていない。僅かな怒りは悲しみを増幅させる意味しか無く、俯いた彼女は膝の上で両手を固く握り締め、それらの感情に耐えた。

 震える彼女の両手に、レクティファールは恐る恐る手を伸ばす。

 本当なら肩に触れたかったのだが、薄い寝間着の肩に触れる勇気が彼にはなかった。

 触れれば、今いる場所に戻れなくなる気がした。


「メリエラ……」


 それでも意を決して手を伸ばし、自分のそれよりも一回り以上小さな、小刻みに震えるメリエラの両手を包み込む。

 レクティファールの体温を感じたメリエラは、恐る恐る顔を上げた。


「レクト……」


 何かを恐れ、期待する瞳。

 感情の昂りによって龍眼へと変化した金色の瞳に見詰められ、レクティファールは居心地の悪さを感じた。

 それと同時に恐怖ではない感情が、彼の中に少しずつ溜まっていく。

 それを認識すると、目の前の女性にもっと触れたいという願望が彼の内で大きくなった。


「――――――――」


 その願望に従うまま、彼はメリエラの頬へと両手を伸ばす。


「れ、レクト?」


 触れた頬は化粧に隠されていてもやはり乾いていて、レクティファールはメリエラが化粧をしてまで自分の前にいることにようやく気付いた。

 彼女が化粧を余り好まないことは知っていた。

 白龍宮での寧日、雑談の中でメリエラがそう語っていたことをレクティファールは憶えている。

 憶えているからこそ、そうまでさせた自分が憎くなった。

 同時に、無性に嬉しくもなった。


「大丈夫――――」


 不謹慎だと思いながらも、緩む頬を抑えきれないぐらいに。


「――――私にはメリアが必要だから、メリアがいらないなんてことは絶対にあり得ない」


 それは、嘘偽りの無い本心だった。

 背後にいる二人の姫君の威圧感に負けたということは無く、自己嫌悪に屈したということも無い。

 ただ、そう思っただけの本音。

 取り繕う暇もなく、口から漏れたただ一つの音だ。

 メリエラの目から零れた涙が、レクティファールの両手に落ちた。


「私の行動でメリアが不安になったのなら謝る。私の側にいたくないなら、それも構わない」


「レクト……?」


 メリエラは両の頬に触れるレクティファールの手に気恥ずかしさを感じながらも、目の前で発せられるその言葉から意識を反らすことはなかった。眼前にいる、この何処か抜けたところのある青年が全力で自分に語りかけていると理解出来たから。


「君が聞きたいと思っていること――――彼女と何があったのか、彼女の了解が得られない以上ここで話すことは出来ない。だけど、君と彼女を同じように見たことは無いと誓えるし、彼女を君と同じように扱うこともないと誓う」


「――――――――」


 なんて都合のいい台詞だ、とメリエラは思った。

 気の多い男の言い訳だと、自分を軽んじる唾棄すべき言葉だとも思った。

 しかし目の前の男はそんな台詞を真正直に、真正面から自分に投げ掛けてきた。

 逃げられない場所で、逃げられない状況を自分で作って、だ。


「――――馬鹿ね……あなた……」


 そう、馬鹿だ。

 もっと良い言い訳があるというのに、ただ立場を考えた結果の行動だと言えばいいのに、他にもメリエラが納得する“しかない”言葉は幾らでもあるというのに、彼は馬鹿な台詞を自分の前で吐いた。

 自分を見詰めながら、別の女が大事だと、こんな場面ですら気遣うほど大切な女だと、レクティファールは言外に白状したのだ。

 これを馬鹿だと言わずに何と言えばいい。

 阿呆か、無礼者か、女の敵か。

 或いは――――


「でも、それくらいじゃ無いとわたしが支える必要はないかもしれないわね」


「――――――――メリア」


 ――――ただの、愛すべき馬鹿者か。


「いいわ」


 支えるべき連れ合いか。


「それも含めて、わたしがちゃんと支えて、守ってあげる」


 導くべき弟か。


「でも、今度からは事後承諾は駄目」


 慕うべき主君か。


「わたしにも心の準備が必要なんだから」


 答えは、未だ出ない。

 だがそれと同時に、彼女はこうも思う。


「今度やったら、本気で怒るわよ? 分かった?」


「――――が、頑張ります……」


 答えが出ないままなら、いつまでもこの青年の隣にいられるのではないか、と。











 このときのレクティファールの言葉は、結果から言えば一ヶ月と経たずに反故にされる。

 摂政の皇都凱旋以降、内政へと舵を切った皇国。

 若き国主の下で傷を癒す皇国に二つのえにしが齎されたとき、『第二次痴話戦争』の幕は上がる。










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