市長主導で年八百万円に半減された名古屋市議の報酬を、議会側が巻き返して千四百五十五万円に引き上げるという。適正な報酬とは何かという議論を欠けば、どちらも市民の理解は得られまい。
河村たかし市長が議員報酬半減などを柱とする議会改革案を打ち出したのは二〇〇九年。議会側の反発に対し、一一年三月には政令指定都市初のリコールによる出直し市議選に持ち込み、自身が結成した地域政党「減税日本」を最大会派に躍進させた。
これを受けて市議会は四月、条例で規定された千六百万円余を当面の間、八百万円に半減する特例条例案を全会一致で可決した。
ところが、昨年四月の市議選では自民、民主、公明の既存勢力が巻き返し、三会派で三分の二の議席を獲得。議会側は報酬見直しに向けて動きだした。
三会派は、市特別職報酬等審議会に報酬の適正額を諮問するよう市長に求めたが、市長は「報酬八百万円の恒久化」だけを諮問。報酬審は「市長の政治理念に基づくもので、報酬審の審議になじまない」と答申した。
市長が適正額の諮問を拒否したことを受け、三会派は、月額給与は本来の規定から15%減とする年千四百五十五万円への報酬引き上げと七五から六八への定数削減の条例案を提出。本会議で一時間弱の議論を経て、即日可決した。
市長は、この報酬の条例に異議があるとして再議に付すことを表明。二月定例会最終日の十八日に再び審議されることになった。
このまま進めば、適正な額はいくらかという根幹部分の議論を尽くさぬまま報酬が引き上げられることになる。市長も議会側も、これではとても市民への説明責任を果たしたとは言えまい。
「報酬半減」という看板は分かりやすく、強烈だ。河村市政の特徴を象徴的に示すが、では八百万円という額に合理性はあるか。
一方、それではやっていけないという議会側も、何が足りないのか、なぜ千四百五十五万円とするのかの説明はできていない。
その手法の是非は別にして、河村市長が主導した報酬半減の試みは、議員の仕事、議員の報酬はいかにあるべきか、地方自治とは何かを考えるまたとないきっかけだったはずである。市長と議会側が意地を張り合って増減させるような報酬額であれば、とても市民の理解は得られまい。
それが適正な報酬か。駆け引きで事を進めるべきではない。
この記事を印刷する