誰にも言えない秘密が話せる場所「しまなみ誰そ彼」のような談話室がほしい。

人は誰しもある特定の場所や環境の中で過ごしている。

学校、職場、所属団体、居住地域など日々過ごしている環境の中に溶け込み、周囲の人々とうまくやっていくために自分の感情を押し殺していることもたくさんあると思う。

その周囲の人々と自分の思いや考えが一致もしくは似ていればとても楽しく日々過ごしていけるが、その周囲の普通とは違う思いを心に秘めて感情を押し殺している人は日常が苦痛であることが多い。

今回紹介するマンガは、ゲイやレズビアンの人々が主要キャラとして描かれているが、ゲイやレズビアンだけでなく誰にも言えない秘密を持っていて、感情を押し殺している人にはぜひ読んでほしい作品である。

しまなみ誰そ彼 第1巻/ 鎌谷悠希

あらすじ

僕はゲイかもしれない。だから苦しいんだ。
クラスメイトに「ホモ動画」を観ていることを知られた、たすく。
自分の性指向…ゲイであると皆に知られたのではないかと怯え、自殺を考えていた彼の前に、「誰かさん」と呼ばれる謎めいた女性があらわれた。
彼女は、たすくを「談話室」へと誘う。そこには、レズビアンである大地さんがいて…。
尾道を舞台に描かれる、性と生と青春の物語、第1集。

Amazon 内容紹介

誰にも言えない秘密

どんな人でも周囲の人に隠す秘密は多少あるだろう。秘密とはやましいことを隠すためだけではないが、周りの人に絶対知られたくない秘密というのは秘密の内容が受け入れられることがないと自分を守るために使うものがほとんどだろう。

特にその秘密が、世間や周囲の常識からしたらありえないことだとなおさらだ。

このマンガの主人公・たすくは、「ホモ動画」を観ていることが学校のクラスメイトにバレたことから話が始まる。自分がゲイであることが学校のクラスメイトなど周囲の人々に知られたかもしれないと怯えて自殺をしようとしていた。

このゲイであることを心の底から受け入れてくれる親や友人というのは、実際ほとんどいないだろう。そんな誰にも言えない秘密は絶対に知られたくないし、もしそうじゃないかと疑惑を抱かれたときは秘密を守るために内心必死で隠そうとする。

その秘密を隠す精一杯の自分の行動にさらに吐き気がするほど嫌悪感を抱いてしまうといった、かなりリアルで悲痛な心情がこのマンガには描かれている。

「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P22-23 (ビックコミックススペシャル)
「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P22-23

この「自分が言われて一番傷つく言葉を使ってまで、その秘密を守ろうとした。というのは、本当に知られたくない秘密がある人にとって実は経験あることではないかと思う。

一見、ありえないし!と普通を装っているだろうが、秘密がバレた後の世界を想像するだけで絶望的になり、秘密を守るために自分の取った必死の行動にさらに嫌悪感を抱く。そんなときに自殺したくなるのは当然かもしれない。

この誰にも言えない秘密というものはなにも「ゲイ」や「レズビアン」だけではない。

バカじゃねーの「ホモ」なんて。きもいわそんなの。

この「ホモ」の部分を変えてみよう。例えば、「オタク」「腐女子」「アイドル目指してる」「YouTuber」「ブログもしくは漫画、小説書いてる」「ミュージシャンになりたい」「部活で全国一位」「プロスポーツ選手になりたい」「起業したい」などにも当てはまると思う。

周囲の人々がそのようなことに理解ある環境であれば全然問題ないことでも、周囲の人々にとって常識外のことであり蔑みや無理だろうと思うことであれば誰にも言えない秘密になりうるのだ。

周りは気にしてなくても自分は串刺し

意外とこういったことに対して周りはさほど気にしていないことが多い。人は他人にさほど興味ないものだ。しかし、思春期の頃は特に周りの視線を気にしてしまうもので、ちょっとした言葉に傷ついてしまう。

秘密がバレないようにと笑顔と嘘で取り繕っていたのに、どんどん言葉が積もっていって騒がれれば騒がれるほど苦しくなる。まるで自分は串刺しか壁に打ち付けられているような錯覚に陥ってしまう。

「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P59 (ビックコミックススペシャル)
「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P59

自分は死にそうなのに…とボロボロ泣くたすくの姿に心打たれてしまうのは自分だけだろうか。いや、こんな青春時代を送っていたり誰にも言えない秘密がある(あった)人は同じような涙を流したことがあるだろう。

言えない壁を壊せ!話すことが救いになる

大人になればなるほど世界は広いことを徐々に実感していき、同じような思いを抱く人に話せる日がいつか来る。しかし、そうなればなるほど理解してほしい大切な人へ言えなくなる悩みも出てくる。ただの青春時代の悩みにとどまらないところがこの作品の素晴らしいところだ。

レズビアンの大地さんは上司のセクハラや人間関係に悩んで会社を辞めて、フリーとして働いて自分の性を両親にカミングアウトしている。仕事はあまりないかもしれないが、彼女は元気でハツラツとして楽しそうな生活を送っているように見える。

そんな彼女は8割方強がりかもしれないが、両親に自分の性をいまだちゃんと受け入れられていなくともお互い歩み寄ろうとしている。彼女が話す、カミングアウトした当時の心境の描写に胸が苦しくなる。

大切な人にこそ理解されなくて、本当は理解してほしい心情が大人の秘密としてリアルだ。

「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P136-137 (ビックコミックススペシャル)
「しまなみ誰そ彼 1巻」 鎌谷悠希 P136-137

しかし、自分の気持ちを話さなければ理解されることもない。その自分の前に立ちはだかった巨大な壁を壊し、まずは受け入れてくれそうな人に真剣に話すことから始めよう。その経験はきっと心の支えになるし、前に進むための大きな一歩だ。

談話室を作ろう。
今、話したいことを今、話せる場所。
否定されない場所。談話室をー

「しまなみ誰そ彼 1巻」鎌谷悠希 P138-139

このような談話室みたいな自分の居場所を持つといいと思う。ただの傷の舐め合いと否定する人もいるかもしれないが、自分の身を守るために自分を受け入れてくれる場所に行くことは当然で、その場所で自分が救われ同じ境遇の人も救われる。こんな素晴らしい場所は他にない。

実際は、その談話室の中でさらにいろいろな人間関係で悩むことはあるだろう。きっとその談話室で起こる問題の続きはこのマンガでも描かれていくことになると思う。

ゲイやレズビアンという性に関する秘密を持つ人だけでなく、周囲の人々に言えない悩みもしくは大人の秘密を抱えた人には、この作品はきっと心に響くはずだ。そしてこれから理解されたい人に秘密を打ち明けていくキャラ達の救いや謎に包まれた「誰かさん」の秘密はなんなのか、これから目が離せないマンガだ!

こんな人におすすめ!!

  • 人に言えない秘密がある
  • 大切な人に自分を理解されたい
  • 世間や周囲の押し付けに悩んでいる
  • 同性の人に惹かれる

人に言えない秘密を抱えた人は、こんな話したいことを話せる場所を作ったりそこに居ることが救いになるかもしれない。ちなみに、破壊という行為は自分の本心を見つめる行動としてとてもいいと思う。

もちろん人に迷惑をかける行為はいけないが、建物の解体作業に本心を炙り出されて自分を見つめ直すきっかけとなった経験が実際にある。

海でぼーっと黄昏る…たまに叫ぶこともあるセンチメンタルな奴がレクシアなのです。

自分の身近な場所に談話室がほしいです。特にマンガについて気にせず話せる場所が…

東京の渋谷にあるマンガサロン「トリガー」が、マンガについて気にぜず話せるマンガ喫茶であり談話室な気がすると思っていて、今一番行きたい場所です。

この記事のマンガ!

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「ぶっしのぶっしん -鎌倉半分仏師録-」は現在『ガンガンONLINE』で連載中です。

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