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ソマリア(ソマリランド共和国)視察報告1 ‐ソマリランドは遠く‐

更新日:2013.05.24

2013年4月21日から27日まで、事務局長とスタッフ1名でソマリランド共和国視察を実施しました。ソマリランド共和国とは、もともとはソマリア連邦共和国の北西部を占める地域で、北東部を占めるプントランド・ソマリア国とともに現在は事実上独立した政府が機能しています。したがって、現在、ソマリアは中南部を占める連邦政府地域、ソマリランド、プントランドに分割されていますが、ソマリランド、プントランドとも国際的に承認されておらず、表記するにも難しい問題が存在する地域です。このレポート中では、わかりやすくするために、もともとのソマリア全土を指す場合にソマリア、今回視察した地域を指す場合にソマリランドの名称を用います。

JCVではUNICEFからの緊急支援を受けて2011年度に約3,510万円の支援をソマリアに対して行いましたが、長く続いた内戦のため治安が非常に悪く、視察を行うことができずにいました。
このたびようやく治安が安定してきたソマリランドとプントランドのうちソマリランドの視察を実現することができました。ちなみにソマリア連邦政府地域は政府が平定できているのが首都モガディッシュの一部にしか過ぎないとのことでした。ソマリランドの首都ハルゲイサまでは、アラブ首長国連邦のアブダビを経由し、ケニアのナイロビで1泊、日本を出発してから約43時間を費やしての到着です。しかもナイロビからソマリランドまでは信頼のおける民間機が運航していないため、国連機での移動です。

まず、ハルゲイサのUNICEFオフィスでセキュリティに関する状況説明が行われました。2008年のランドクルーザー襲撃事件以来目立った戦闘行為やテロ行為はなく、概ね平和が保たれていますが、東部のスール州ではプントランドと国境をめぐり係争があり、国連も入れない状況とのことです。それでもソマリランド人スタッフは、ナイロビやニューヨークに比べてのハルゲイサの平和に胸を張ります。

そのハルゲイサの平和は軍と警察の強化、それに市外からハルゲイサに入るの道路にチェックポイントを設けて、全ての往来を監視することによって守られています。UNICEFの敷地にも2重のセキュリティゲートを通過して初めて入ることができます。外国人が宿泊できるよう治安が守られているホテルは市内にわずか2か所。私たちJCVスタッフが宿泊したホテルもゲートを出入りするたびに全ての荷物チェックと身体検査を受けます。もちろんチェックが行われるゲートには銃を持った軍人、警察やセキュリティ会社のスタッフが構えています。
「平和」の感覚が日本でのものとは、大きな隔たりがあることが伺えます。

次にワクチン接種に関わるチームとのミーティングを持ちました。まずは、みなさまからの支援に対する深い感謝の辞が述べられるとともに、現在のソマリランドにおけるワクチン接種に関する説明が行われました。問題点は大きく分けて3点ありますが、やはり最大の問題点は、人材不足と資金不足です。人口350万に対し、ワクチン行政に関わる政府のスタッフはわずか2人。しかも低賃金でモチベーションがあがらず、そのサポートもUNICEFが行っています。

そして、ワクチン供給に割り当てられる国家予算は0。つまり外国からの支援がなくしてはソマリランドのワクチン接種は全く行うことができないという現状です。これにはソマリランドあるいはソマリ人の文化的背景も一因となっています。ソマリ人社会は氏族社会です。そのため、政府でもそれぞれの氏族に平等に発言権を与えなくてはならないという考えからどうしても政府が大きくなり、経済的負担が発生するためです。

次に問題なのがソマリランドへのワクチンの運搬です。JCVの他の支援先国ではコールドチェーンの整備に苦労を伴うということがありますが、ソマリランドではもっと深刻で、外国からワクチンを運んでくるまでにも困難が立ちはだかります。

ハルゲイサ到着までのところで述べましたが、ソマリランドへの航空機はいまのところ信頼できる民間機が運航していません。ですから国連機で運搬するのですが、国連機の運航スケジュールは頻繁に変更になるのと、人の運搬が優先なので、ワクチン運搬のスケジュールをたてていても突然変更になって予定通りワクチンを中央保冷庫に入れることができないのです。しかもソマリランドで使用するワクチンは、ベルギーインドなど世界各地から来るため、全ての国からの直接のルートを構築できないので一旦ケニアのナイロビに集約してからの運搬となっています。

そして3つ目の問題点は、遊牧民が多くなかなか接種率が上がらないという点です。ソマリランドの遊牧民は水を求めて季節ごとに移動を行います。ですから政府もUNICEFも都市部以外のワクチン接種対象者を把握しきれない状況にあります。これに対し、UNICEFではウォーター・プログラムを展開し、固定した水場を設置し、定住化を促して子どもの接種率を高めるという方式をとっています。保健プログラムだけでは接種率をあげることができないので、他のプログラムと有機的に連動した方法で接種率を上げる努力がなされているのです。

(ソマリア(ソマリランド共和国)視察報告2 -喜び、そして平等な発言権-)
(ソマリア(ソマリランド共和国)視察報告3 -フィールドで感じた中央保冷庫支援の重み-)
(ソマリア(ソマリランド共和国)視察報告最終章 -ソマリランドから見たアフリカの未来-)

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