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セブンスブレイブ ~チート? NO! もっといいモノさ!~ 作者:乃塚 一翔

第一部 8章 壊歪正義と狂乱暴獣

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正義の凶刃






 ――ラ・ヴァナ帝国第3皇女、クリスティアーネ=ラ・ヴァナ。
 皇女として生まれながらも、当代の武術将軍であるゴスペル=ハウザーより幼少から教えを受け。
 そして、齢17にして帝国有数の剣豪と讃えられた、まさに変り種の皇族。

 生来持ち合わせた強い正義感から、不正や不義を嫌い。
 力、立場の弱い者達を悪の凶刃から護ることこそ、己の務めと見定めている。

 そんな彼女が仮面を纏い、『クリスタ』と名乗り。
 帝国各地、主に辺境を巡る旅に出てから、もう随分と時間が過ぎた。

 現皇帝――つまり彼女等の父が病に倒れ、内実次女であるクリュスが国の実権を握るようになった(みぎり)
 この世で誰よりも慕う姉の心労を、少しでも軽くする為。
 更には少数派でこそあったけれど、このままクリュスが済し崩しに即位することを快く思わない貴族達が、自分を御輿に乗せようとする行いを未然に防ぐ為。

 身分を隠し、正体を隠し。
 広大な国土を持つ帝国で、都の目が届きにくい辺境に蔓延る悪の芽を摘む。
 そうすることで姉を助け、民を救い。姉を排そうと企む愚か者達も、担ぐ御輿が空ではどうしようもない。

 クリスティアーネは方々を渡り歩き、数多の罪人や賊徒を斬った。
 心に触れることの出来るエルフ、その血を継ぐ彼女は。隠れ潜む悪を暴き出すことに、取り分け秀でていた。

 悪を暴き、悪を斬り。
 方々を巡り、ひたすらに斬った。

 賊の隠れ家に単身乗り込み、1人残らず皆殺し。
 罪人を追い、五体を斬り伏せ焼き尽くして。
 人食いの魔物の噂を聞きつけ、件のダンジョンで目に付いた魔物全てを斬り殺し。
 重税をかけ私腹を肥やす地方領主を、民衆の面前で磔に処した。

 斬って、斬って、斬り続けて。
 いつしか彼女の掲げる正義は、少しずつその形を変えて行った。

 力無き者達を救う。弱者を護る。
 民衆の盾であることを望んでいた、クリスティアーネの信念は。
 己自身でも気付かぬ内に、変わっていた。

 護る(・・)から、斬る(・・)へと。
 全ての民を護る盾ではなく、遍く悪を斬る刃へと。

 ――悪を裁く剣こそが、絶対の正義であるのだと。





 こうやって帝都に戻るのは、いつ以来になるだろうか。
 何だか、随分と懐かしい気がする。

 久方振りに会った姉さま達は、相変わらずお綺麗だった。
 クリュス姉さまは10年近く前から全く容姿が変わっていない気もするが、姉さま曰くわたしが旅立つ前と比べ、身長が3ミリメートル伸びたらしい。
 誤差だと思う。成長期だって、とうの昔に過ぎているし。

 そしてリスタル姉さまも、心なしか顔色が良くなっていて、安心した。
 どうやら好きな男――それもクリュス姉さまが召喚したという勇者の1人――が出来たらしく、嬉しそうにその男のことを話していた。

 帝都に戻る最中、勇者達の活躍はわたし自身何度も耳にした。
 数万もの魔族軍を、ただの一撃で壊滅させた。かの『巨橋ゴリアテ』を粉々に砕いた、など。

 恐らく話には尾鰭がついていて、果たしてどこまでが本当かは分からないが。何とも頼もしい限りだ。
 実のところ、そうした噂の数々を聞き知り居ても立ってもいられず、わたしはこうして戻って来たのだから。

 ……わたしはこれから、勇者や将軍達と共に巨悪である魔族と戦う。
 7年前の大戦以来、なりを潜めていた魔族共。その戦いが今、再び激化しようとしている。
 ここで陣頭に立ち、醜悪な魔族共を1匹残らず狩り尽くしてこその正義。
 正義が悪を滅ぼすのは世の理、当然のことなのだから。

 クリュス姉さまの話を聞くに、勇者達の何人かはちょうど宮殿を空けているらしい。
 なんでも、リスタル姉さまの御身体を治すことのできる薬を、探しに行っているのだと。

 にわかには信じられない話だったが、流石は勇者だ。
 きっと彼等となら、共に正義を為すことができるだろう。





 夕刻、陽もそろそろ沈みかけた頃。
 宮殿を離れていた勇者達が、リスタル姉さまのペットである蒼竜のチャッピーに乗って戻ったと衛兵から聞いた。

 姉さまからは7人全員が揃ってから紹介すると言われていたので、これから顔合わせになる。
 共に戦う正義の士たる彼等は、一体どのような人物達なのだろうか。
 胸が躍るような思いを抑え、わたしはクリュス姉さま達が居るという第3練兵場へと向かった。

 ――けれど、その途中。
 練兵場の方から、何かが崩れる音が幾つも響いて来た。

 何事かとわたしは走った。
 やがて見えたのは、練兵場から一直線に崩れ破られた壁。

 まさか、敵襲か。
 練兵場に居る筈のクリュス姉さまは、無事か。

 わたしは、血の気が引くような思いで練兵場に辿り着いて。
 そして――そいつ(・・・)を見付けた。


「――ッ!!!!」


 フードをすっぽりと被った、血の色を思わせる赤黒いロングコート。
 余計な装飾で飾られることのない、本当に血の糸で織ったかのようなそれ。

 視界に姿を収めた瞬間、背筋を貫かんばかりに伝わってくる禍々しい気配。
 凝り固まった怨嗟、溢れるような憎悪。
 嘗て呪いの品を目の当たりにした時と同じ、或いはそれ以上に伝わってくる圧迫感。

 見えたのは、後姿だったけれど。
 何故ここに居るのかなど、分からないけれど。

 それでもわたしが、あの男(・・・)を見紛う筈などない。

 一瞬、右頬の傷痕が激しく疼いて。
 更にわたしは、あの男の傍らに。

「ッ!?」


 奴の手に頭を触れられている――クリュス姉さまの姿を、見付けた。


 考えるよりも早く、わたしは腰に佩いた『ジャッジメント』を引き抜く。
 それと同時に魔力を通し、剣身へと青薔薇の模様が浮かび上がるのを視界の端に収めて。


「――クリュス姉さまからぁぁぁぁッ、離れろぉぉぉぉッ!!!!」


 全力で前に飛び出し。
 近くに居た眼鏡の男と、変わった衣装を着た小柄な黒髪女の脇を抜け。


 背後から、あの男の――ヤコウの胸を、突き貫いた。


「……ぁ?」

 小さく耳に届いた、音のような声。
 衣服をすり抜け、的確に本体を貫いた確かな手ごたえ。

「――げほッ」

 ヤコウが血を、喉から噴き出させた。
 恐らくは貫かれた心臓から呼吸器官に血が流れ込み、気道を通って逆流したもの。

 完全な致命傷を与えた。
 わたしは独りでに口の端が吊り上がるのを感じつつ、更に切っ先を押し込んで。


「探したぞ、ジョーンズゥ……いや……――ヤコォォォォッ!!!!」


 既に瞳孔の開きつつある瞳で、呆然と己が胸から突き出た切っ先を眺める。
 正義が討つべき存在、悪へと向けて。

 そう、叫ぶのだった。





 西の彼方へと、太陽も沈みつつある黄昏時に。
 呆然と立ち尽くす夜行の周りは、ひと際赤く染まっていた。

 ――ずるり、と。
 青薔薇を浮かばす剣身が、夜行の胸から引き抜かれる。
 けれど彼が纏う衣服には、穴どころか傷ひとつ刻まれてはおらず。

 ただ、胸に穿たれた穴から夥しく噴き出す血液により。
 瞬く間に足元までを、赤く赤く彩って。

「……ぇ……や、こ……やこう、さま……?」

 剣を身体から抜かれた夜行は、その場から動くことも倒れることもなく。
 それどころか瞬きひとつさえもせず、僅かな身じろぎさえもなく。

 衣服の隙間と、口元から。
 止まることなく、血を流し続けていた。

「な、んで……え? どうし、て? なんで、やこうさま……血……あ、え?」

 頭の上に添えられたまま、硬く強張った手。
 飛び散った真紅の血液に、頬はべっとり濡れて。

 眼球が零れそうなほど目を見開いたクリュスが、夜行の顔を見上げながら言葉にならない声を呟く。
 そんな彼女の姿を、血で飾られた剣を握ったままのクリスティアーネが一瞥して。

「ッ……離れろと、言っているだろう!!」


 ――ざんッ


 煌く白刃、青い軌跡。
 下段から跳ね上げるように振るわれた斬激は、さながら紙のように。

 夜行の右手首を、刎ね飛ばした。

「――――」

 ぼとり、弧を描き落ちる右手。
 それを目で追ったクリュスが、見たものは。
 見て、しまったものは。

「――ぁ」

 斬り落とされた手首から。なんの前触れもなしに燃え上がった、白い炎。
 場違いなほどに美しい、純白の焔。

 追い討ちとばかりに斬られた手首から噴き出す血を浴び、ドレスが真っ赤に染まっていくことなど、まるで気にも留めず。
 目を見開いたクリュスは、その炎から視線を逸らすことが出来なかった。

「ぁ……ぁぁ、ぁああ……」

 火柱が如く熱を撒き散らし、白炎は数秒間に渡り燃え続け。
 そこにあった筈の斬り落とされた右手を、灰すら残さず焼き尽くし。
 最初から、何もなかったかのように。呆気なく消え去った。

 ――刹那。

「は……ぁ……」

 血を吐き出しながら、微かな声を零して。
 真っ赤な血溜りの中へと、夜行が音を立てて崩れ落ちる。

「――ッ!?」

 ぱしゃりと赤い飛沫を散らせ、うつ伏せに倒れる夜行。
 ピクリとも動かないその姿を、クリュスは声も出せず見下ろして。

 見下ろして、数秒を経て。
 そしてようやく、凍り付いた脳髄が再び動き始め。


 ――致命傷を負った夜行が、目の前に倒れていることを理解した。


「……やこう、さま……?」

 ぺたり。
 返り血塗れの身体でその場へと膝をつき、クリュスの小さな手が夜行の肩を揺する。

「おき、て……ねえやこうさま、おきて……」

 起きる筈などないと、分かっていながら。
 目を開けることなどないと、分かっていながら。

 声を震わせて。視界を滲ませて。
 ぽろぽろ涙を零しながら、クリュスは夜行の身体を揺すった。

「やこうさま……ヤコウ様ぁッ! 起きて、起きてよぉッ!! なんで、どうして!? どうして起きてくれないのッ!?」

 サイズの合っていない眼鏡が、揺する内にずり落ちて。
 純金をそのまま溶かし込んだかのような黄金の双眸は、溢れ出る雫で歪む。

「起きてぇッ! お願いだから、起きてぇッ! わたし、何でも言うこと聞くから……だから……――」

 漏れ出る嗚咽。
 瞬く間に冷たくなる身体から、己の熱を分け与えるように覆い被さり。
 背へと押し付けた耳に、心臓の音が届かないことを否定するかの如く。


「――ヤコウ様ァァァァァァァァッ!!!!」


 かぶりを振って、子供のように泣き喚き。
 クリュスは喉が裂けんばかりに、ひたすら夜行の名を呼び続けた。





 ――その一方で。
 倒れ伏す夜行に縋りつく姉の姿に、クリスティアーネは動揺と困惑を隠し切れなかった。

「……クリュス、姉さま? 一体どうされたのです、何をそんなに――」

 他の何も見えず、聞こえていない。
 そんなクリュスへと歩み寄るべく、彼女は一歩踏み出そうとして。

 けれど。
 横合いから突きつけられた殺気に向け、反射的に剣を構えた。

「ぐうッ!?」

 瞬間、全身に叩き付けられたのは凄まじい衝撃。
 辛うじて防御は間に合ったものの、大型魔物の突進でも受けたかのようなそれに、抵抗さえ出来ず吹き飛ばされたクリスティアーネ。

 空中で体勢を立て直し、捻るように身体を回しながら着地して。
 衝撃を受けた方向へと、鋭い視線を向ける。

 そこに居たのは、先程脇を通り抜けた小柄な少女。
 黒地に赤い模様の入った、風変わり且つ特徴的な衣装。
 クリスティアーネの記憶では、確か極東の島国『ワコク』に伝わる着物と呼ばれる民族衣装。

 露出した肩を細かに震わせていて、俯き気味の顔は長い黒髪がカーテンとなっており、よく見えない。
 唐突に攻撃を受けたクリスティアーネは、正眼で剣を構え直した後、怒声を上げた。

「貴様、どういうつもりだ! 何故わたしに剣を向ける!?」
「……どういう、つもり……? 何故、剣を向ける……?」

 ひらひら、ひらひら、ひらひらと。
 少女の持つ長大な刀から、魔力で模られたピンク色の花弁が噴き撒かれる。

 ――だが。

「それは……そんなの……そんな、こと……――」

 やがて刀の刃が、直前まで炉にでもくべられていたかの如く赤々と熱を宿し。
 噴き散る淡い色合いの花弁は、それに応じて小さくも激しい火の粉へと変わっていく。

 切っ先に触れた地面が、じゅうっと熱で溶け。
 黒髪のカーテンで覆われた少女の(おもて)が、人形的な動きで持ち上げられた。


「――こっちの、台詞だ」


 派手さこそ無いものの、丹精に整った容姿。
 赤い瞳が嵌め込まれた、一切光の宿っていない双眸。

 大きく見開かれたその眼には、たったひとつの感情。
 真っ黒な怒りだけが、埋め尽くされていた。

「ッぐう!!」

 数メートルあった間合いを一足飛びで完全に詰め、上段から――否。
 赤く熱を放つ刀による上段からの斬撃と見せかけた、もう片方の手に持っていた鉄拵えの鞘を用いた突き。
 クリスティアーネは剣による防御が間に合わず、身に付けた軽鎧(ライトアーマー)で受ける。

 小柄な体躯からはおよそ考えられない怪力により、鎧を突き抜ける骨さえ砕きそうな衝撃が彼女を襲う。
 それに息を詰まらせつつも、次いで放たれた袈裟斬りを、どうにか『ジャッジメント』で流した。

「く……なんなんだ、貴様は!? 見かけぬ顔だが、もしや勇者か!? だったら、わたし達が戦う理由など――」
「だまれぇッ!!」

 腹を蹴り飛ばされ、間合いが開いたところへ腰溜めに振るわれた横薙ぎの斬撃。
 その太刀筋をなぞり、飛来する真空の刃。

 十中八九相手の(アーツ)だろうその刃に、クリスティアーネもまた同系統の(アーツ)で応戦する。
 剣術系(アーツ)『カッターブレイド』。ぶつかり合うふたつの刃は、しばしの拮抗を見せた後に大きく爆ぜた。

「ハァッ……ハァッ……こうなっては、致し方ない……先に手を出したのは貴様だ、死んでも知らんぞ!!」
「……どの口が……どの口がそんなことを言えるんだ、キサマァァァァッ!!!!」

 剣戟が舞い、火花が散る。
 互いの刃がぶつかり合う度、双方の刀と剣が悲鳴を上げる。

「よくも……よくも、よくも……よくも……ッ!!」

 掠めるだけでも骨まで燃え落ちるだろう切っ先を、紙一重でかわすクリスティアーネ。
 だが、刀にばかり気を取られていては、時折攻撃の中に混ぜ込まれる蹴りや鞘による打撃に対応できない。

 相手が怒りで冷静さを欠いている為、どうにか致命傷や有効打を避けている現状。
 地力の面で於いて、帝国五指に入ると讃えられたクリスティアーネが、完全に劣っていた。

「(なんだ、こいつは……ッ!? 何故、急に攻撃を……!!)」

 背筋に冷や汗を伝わせながら、彼女は頭の中に疑問符を躍らせる。

 ――クリスティアーネは、気付かない。
 何故眼前の少女が、美作サクラが烈火の如き憎悪で刃を向けてくるのかを。
 己の言葉、行いが間違っているなど、生まれてこの方考えたことすらなかった憐れな女は。
 考えるまでも無いことにすら、気付けない。

 そして、彼女の行いは。
 決して怒らせるべきではない、怒らせてはいけない人間の。


 たったひとつの逆鱗に、爪を立ててしまうのだった。





 雅近は、感情の宿らない瞳でぼうっと見下ろしていた。
 身に纏う白い服を血で赤く染め上げながらも、クリュスが縋りつく、倒れ伏した親友を。

「…………」

 胸を、心臓を貫かれ破壊された。
 残っていた右腕の手首を、斬り落とされた。
 肉体の血液が、半分以上流れ出た。

 雅近は驚くほどクリアな思考で以って、夜行の現状を見たままに確認していた。
 そうして、出た結論は。


 ――夜行が、死んだ?


 脳裏にその文字列を、並べ立てて。
 直後、少し違うとかぶりを振る。


 ――夜行が、殺された。


 ああそうだ、この表現ならしっくり来る。
 自然死でも病死でも事故死でも自殺でもない以上、死んだと表すのは違う。
 他殺であるなら殺されたとするのが、的確な表現だ。

 そんな有り体もないことを考えながら、雅近はくつくつと笑う。
 さもおかしそうにひとしきり笑い、そして。


 ――で? それをやったのは……どこの、どいつだ?


 首だけを振り返らせ。
 サクラの猛攻を必死に耐えるクリスティアーネへと、視線を遣った。

「お前か」

 僅かな声の震えすらない、極自然な口調。

「お前が、夜行を」

 けれど、次に囁かれたのは。
 喉の奥から怨嗟の全てを搾り出したかのような、おぞましい声音で。

「お前が夜行を、オレの」

 ――極小の針の雨を降らせ、数百時間かけて延々と苦痛を。
 ああ駄目だ、全然足りない。

「お前がオレの、たった1人の親友を」

 ――四肢をヤスリ掛けして肩口と股まで削り取った後、ホルマリンの水槽に突っ込んで標本に。
 いやいや駄目だ、まるで足りない。

「お前が、オレに命を分けてくれた恩人を」

 ――犬にでも絶え間なく犯させ、『医術殿』の連中に犬の子を孕めるよう肉体構造を作り変えさせる。
 冗談じゃない、犬は高尚な生物だ。何せ夜行の苗字に使われているくらいだからな。

「お前が、俺の、半身を」

 ――よし。決めた。





「取り敢えず、50年ほど思いつく限りの拷問をかけるとするか」





 殺すのはそれからでいい。
 半世紀も経っていれば、今よりもっといいことを思いつくかも知れん。

 だから、差し当たって――


「身体に直径1ミリメートルの穴を、延べ300ダース空けてやろう」


 が、まずは生かして捕らえなければ。
 このままだと、怒り狂った美作がラク(・・)に死なせてしまうじゃないか。

 ――誰がそんなこと、許すと思っている。

「斬殺など温い以前の問題だ。爪を剥ぎ、指を折り、耳を千切り、鼻を削ぐ。全ての話はそこからだろう?」

 くつくつと笑い、雅近が右手を天に掲げた。
 掌を中心に形成されるのは、十重二十重の複雑怪奇な魔法陣。

「……美作なら、まあ避けられるか」

 それにたとえ当たったとして、ひとまず死にはしない。
 死ななければ、別にいいだろう。

 ――全容を把握することさえ、並の魔法使いには不可能な情報量。
 それら全てが一斉に砕け散り、空へと1本の光柱が伸びる。

 光柱は天高くまで上り、ある一点で留まると。
 数瞬の間を置いた後、音も無く砕け散り。


「――『ペイン・ザ・レイン』」


 輝く雨へと姿を変えて。
 クリスティアーネとサクラの頭上より、降り注いだ。










 ………………………………。
 ……………………。
 …………。


 ……グゥ……ルルルルッ




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