2015年の夏、1つの「バカゲー」がリリースされた。それが、車でサッカーをしようというゲーム「RocketLeague」だ。
内容は、以下の動画を見てもらえばわかる。要は、ラジコンでサッカーをするのだ。
カウントダウンが始まり、0になるとセンターサークルにあるボールに一斉に車が突っ込んで、そこからしっちゃかめっちゃかなサッカーじみた何かが始まる。
ピッチはフェンスに囲まれており、車はこのフェンスも走ることが出来る。プレーヤーはブーストやジャンプなどを駆使して、とにかくボールを相手のゴールに叩きこむのだ!
サッカーとは言ったが、「ゴールをボールに入れる」という部分だけがサッカーであり、あとはもう何がなんだかといったハチャメチャな競技だ。この滅茶苦茶な部分と、偶然とテクニックが織りなすスーパーゴールなんかがこのゲームの魅力だったりする。
人間同士のサッカーとは違って、ロケットリーグにはファウルはない。なので、1つのボールに何台もの車がワチャワチャ群がって、ゴリゴリの押し合いが繰り広げられる事もあれば、目の覚めるようなスーパーテクニックでゴールが決まることもあり、時々このゲームは凄いゲームなんじゃないのかと錯覚することもあった。
いや、錯覚などではないのだ。
このゲーム、凄いのである。
まず、数字が凄い。配信開始48時間で120万ユーザーを獲得したかと思うと、1ヶ月で500万ダウンロードを達成した。現時点ではもう1100万は超えている模様だ。
これがどのくらいすごい数字なのかというと、このゲーム無料じゃないのである。例えばPlayStation4の場合、PSPlusに参加している場合は追加料金無しでダウンロードできるが、発売当初の価格は1980円。有料のインディーズゲームなのだ。ソシャゲの◯◯万ダウンロードを達成!とはわけが違う。
次に評価が凄い。世の中のあらゆるエンターテイメントをスコア化するMetacriticというサイトのスコアは87点。これは、このゲームを評価したメディアのスコアの平均点だ。それが87点ということは、かなり高い数字だ。全ユーザーのスコア平均も8.2である。
そして、一番すごいのがその盛り上がりのおかげで、Eスポーツ団体がプロのチームを抱えて大会を行っていることだ。
え? Eスポーツってなにかって?
Eスポーツとは、ゲームを競技として捉え、プロチームやそれによるプロリーグを行うことだ。代表的なEスポーツの競技としては、Counter Strike、Call of Duty、Warcraft、StarCraft、ストリートファイター、スマブラなどがある。その競技の中にロケットリーグも入っているのである。
え? ただのゲームの大会だろうって? そんな事はない。2005年に始まったアジア室内競技大会には正式種目としてEスポーツが採用されている。FIFAシリーズやNeed for Speedなんかがプレイされたのだ。
つい先日発表されたリリースによると、ゲーム実況で有名なTwitchと、ロケットリーグの開発元Psyonixにより大規模なリーグ戦を開催するとのこと。その期間なんと3ヶ月、賞金総額は75000ドルということで、かなり大きな大会であることは間違いないだろう。
これを開発したPsyonixという開発会社はそれほど大きな「メーカー」ではなかった。だが、「車でサッカーをしたら面白いんじゃなかろうか」という一点のみを突き詰めて、これだけ面白いゲームを仕上げてきた。
日本では、家庭用向けゲームは開発難度が上昇し、コストもそれに比例してかかるようになったため、日本の「メーカー」が太刀打ち出来なくなったとされている。だが、本当にそうか? たんに、大艦巨砲主義に頼りすぎただけなんじゃなかろうか?
MinecraftやWorld of TanksやWorld of Warship、そしてこのロケットリーグを見ている限り、AAAタイトルほどの凄さはなくても、きちんとしたアイデアを練って、面白さを伝えることの出来るゲームデザインをちゃんと行えば、今の時代一発当てることも不可能ではないのだ。
そういう意味では、「車でサッカーをするバカゲー」にしか見えなかったロケットリーグが、いまゲーム業界を席巻しているところを見ると、ちょっと嬉しい。
実は、日本のゲーム業界は、だんだん反撃の時代を迎えるのではないかと密かに思っている。一発のアイデアをコンパクトなゲームにするのが得意なのはだれあろう日本人だからだ。
たとえば、「ガンブーツ」という弾を打てる靴を履いた主人公がひたすら落下していくというアイデアをゲームにした「Downwell」のように。
そして、いまではSteamやKickStarterなどの登場で、個人や小規模デベロッパーでもゲームを出せる環境が揃っている。なにも、絶対に「メーカー」の庇護のもとにいる必要はないのだ。そう、小島秀夫監督のように。
日本の開発者諸君、そろそろ反撃しようではないか。