重政紀元、小林孝也 森本美紀
2016年3月20日05時12分
事件は2013年12月の朝、関東地方のベッドタウンで起きた。元建築業の男性(77)は自分で119番通報し、妻(当時64)に対する殺人未遂容疑で逮捕された。妻は重度の若年認知症だった。翌日、搬送先の病院で亡くなった。
2人は一時別居していたが、妻に認知症の症状が出始め、離れて暮らす長男が心配して身の回りの世話を頼んできた。07年ごろから再び同居した。
妻は着替えやトイレができなくなり、目を離すと外出した。12年ごろからは鏡に映った自分を認識できず、妄想的な言動や暴言を繰り返すようになった。
裁判を担当した弁護士によると、男性が休めるのは「妻が寝ているときだけ」に。事件の日、男性は持病の通院のため出かけようとした。午前8時半ごろ、「外に女がいるんじゃないの」と妻が包丁を持ちだした。一度はなだめて落ち着かせた。
「ふざけんじゃないよ」。1時間後に再び外出しようとした際、妻がはさみを振り下ろしてきた。顔にけがをしながらはさみを取り上げると、巻いていたマフラーを絞めあげられた。男性は思わず近くにあった電気コードをつかみ、妻の首に巻き付けた……。
事件後、男性は「我慢できなかった」と書いたメモを残していた。弁護士には「ここまでやってるのに、という怒りと悲しみが混じった気持ちだった」と明かした。
殺人罪に問われた男性の裁判員裁判の判決は14年11月にあり、「犯行に計画性はなく、献身的な介護をしていた」として、懲役3年の有罪判決に執行猶予(5年)がついた。
男性は、公的サービスを使わず1人で介護していたという。事件の数日前、「自分を抑えられず、爆発するのが怖い」とノートにつづっていた。約1カ月前には様子を見にきた長男に相談し、自分の妹にも心労を打ち明けていた。
地域住民の相談に乗る民生委員は、男性が介護していたとは知らず、事件を知って悔やんだ。「個人情報の壁があり、SOSを出してくれないと気づけない」
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朝日新聞社会部
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