日本銀行がマイナス金利政策を導入して1カ月が経過した。量的緩和のカードをほとんど使い果たした日銀が、新たな緩和手段として賭けに打って出た政策である。現状では、その賭けが良い結果をもたらしているとはとても言えない。

 この政策でもともと史上最低水準だった長期金利は一段と下がった。そこまでは日銀の狙い通りだ。ただ、株価や為替相場が乱高下を繰り返したところに金融市場の動揺が見て取れる。

 この政策で収益悪化が見込まれる金融界からは批判の声があがっている。銀行が日銀に預ける当座預金の一部にマイナス金利がかかるので負担が増える。

 歴史的な低さの貸出金利をもう一段下げる必要にも迫られている。それで融資需要が増えるならいい。だが必ずしもそうではないようだ。住宅ローン金利を下げて増えたのは、安いローンに借り換える人たちばかりで新規需要は少ないという。

 銀行貸し出しを増やし、企業の投資を活発にする。それが金融緩和の目的のはずだった。こうして銀行経営を萎縮させてしまっては逆効果ではないか。

 日銀が異次元緩和で盛り上げようとした人々の「インフレ期待」にも影響が出ている。朝日新聞が2月に実施した世論調査では、マイナス金利政策による景気回復が「期待できない」と答えた人は6割にのぼった。

 一方、海外当局からは、日本や欧州のマイナス金利政策が強化されれば、世界的な通貨安競争の引き金にならないかという懸念が示されている。

 政策の恩恵を最も受けているのは日本の財政だろうか。長期金利の一段の低下で、1千兆円を超える国の借金の利払い費が抑えられるからだ。ただ、その結果、財政規律を緩めるムードが強まってはいないか。

 日銀による国債の大量買い入れは本来は禁じ手だ。そこを財政立て直しの時間を稼ぐためだとして許されている面がある。ところが、いま政権内で消費増税見送り論が公然と語られているのは本末転倒である。

 日銀の金融政策そのものが日本経済に弊害をもたらし始めている。現実的とは思えない2%インフレ目標にこだわり異常な緩和政策をこのまま続ければ、かえって日本経済が抱える問題は大きく複雑になっていく。

 異次元緩和はやめたくなっても、すぐにはやめられない政策である。金利や為替など市場への影響が大きすぎるためだ。これ以上、深入りするのをやめ、影響を最小にとどめつつ撤退する方策を練るべきだ。