【萬物相】韓国社会を脅かす報復運転

【萬物相】韓国社会を脅かす報復運転

 車の運転中にウインカーを点滅させる行為は「今から車線を変更しますよ」という意思表示だ。そのため隣の車線ですぐ後方を走る車は当然スピードを落とすべきだろう。ところが逆にスピードを上げて車線変更を邪魔するケースが後を絶たない。この行為は「車線は絶対に譲らないぞ」という意思表示だ。それでも無理に車線を変更すれば、後ろの車は不当に割り込まれたと思い、ヘッドライトを点滅させクラクションを鳴らす。これはドライバーが車のさまざまな機能を使って車線変更した車に抗議し、侮辱を加えているわけだ。もちろんこんなことをされた方は気分が悪い。このようにしてドライバー同士が運転中、互いに神経をすり減らして駆け引きを行う様子は、韓国の道路ではごく普通によく見られる光景だ。

 記者は10年前、ドイツで車の運転をしていた時に、韓国とは違う交通文化を体験した。交差点で左折する際(ドイツでは車は右側通行)、対向車線を走るバスが通り過ぎるのを待っていた時だ。するとそのバスが突然ヘッドライトを点滅させた。記者はバスが「今から通り過ぎるからお前は動かずじっとしていろ」と伝えているのかと思った。するとバスは記者の車の前でスピードを落とし、再びヘッドライトを点滅させた。記者がとまどっていると、バスのドライバーは窓から手を出して「先に行け」と合図をしてきた。つまりドイツで車のヘッドライト点滅する行為は「譲りますから先に行ってください」という意思表示だったのだ。車線変更するときもそうだった。バックミラーに映った後方の車がヘッドライトを点滅したとき、それはほぼ間違いなく「車線変更してください」という意味だ。米国でも同じような体験をしたが、その時記者は「道路が広くて車が韓国ほど混雑していないからだろう」と考えていた。ところが韓国と同じくらい車が混雑している日本でも同じ経験をした。

 しかし中国では逆の経験をした。車のドライバーたちは韓国と同じく、車線変更でも交差点でも互いに絶対に譲り合おうとはしなかった。北京のある道路で歩行中、道を横切ろうとした時のことだ。信号が青になったので渡ろうとした。すると横から車が猛スピードで走ってきて、クラクションを鳴らしながら記者の前を通り過ぎた。中国人たちは「ここでは車にひるんでいては道を渡れない」と語る。人間が先に交差点を渡らなければ、車は止まらないというのだ。モンゴルの首都ウランバートルでも同じような経験をした。いずれも車社会になって間もない国だ。

 運転中や歩行中、互いに道を譲らず意地を張るのは疲れるしストレスになる。臨界点を超えると爆発する。ドライバーが車から降りて互いに胸ぐらをつかみ合うような光景はさすがに最近は減ったが、一方で報復運転が増えているようだ。「俺の車の前に割り込んでくるとは生意気だ」「車線を変更しただけなのになぜクラクションを鳴らすのか」などと言い掛かりをつけ、ひどいときは車をぶつけて相手ドライバーに暴力を振るうこともある。興奮したバスドライバーが乗客を乗せたまま命懸けのカーチェースを行ったことや、あるタクシードライバーが病院の敷地内で他の車と競争したことなどが先日報じられた。警察は先月、報復運転に対する重点的な取り締まりを行ったが、その際摘発されたドライバーは600人以上に達したという。今や報復運転は韓国社会の日常的な光景となり、社会全体に大きな脅威を与えていると言っても過言ではない。

 裁判所は報復運転を行う車について「運転の手段ではなく凶器だ」とする厳しい見方を示した。ハンドルを持った瞬間、われわれは考え方一つで車をいつでも凶器に変えることができ、忍耐できなければ大惨事をもたらすこともあり得る。報復運転に対する取り締まりは単発で終わらせず今後も続けるべきだが、それよりも重要なことはドライバーの心掛けだ。今日から運転する際、自分が車線を譲るときにヘッドライトを点滅させ、クラクションを軽く鳴らす運動を始めてはどうか。たった1カ月でもこれを実践すれば、韓国における道路の殺伐とした雰囲気も一気に変えることができるのではないだろうか。

鮮于鉦(ソンウ・ジョン)論説委員
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