ありがたいことに「霊剣山」関係の質問をイロイロといただいているので、今回はその辺りについて思い付いたことをイイカゲンにまとめてみようかと思います。


・刺さった「このすば」と刺さらなかった「霊剣山」

1月新作アニメの反応を見ていて個人的に気になったのが
「笑いや話題の刺さり方」
に関する傾向、作品の笑いの題材や方向性、それから日中それぞれの視聴者の反応についてでした。そんな訳で今回はその辺りについてを例によってイイカゲンにまとめてみようかと。

1月の新作アニメで中国オタク界隈で話題になったり注目されたりしたコメディ要素のある作品はいくつかありますが、なかでも興味深かったのが
「霊剣山 星屑たちの宴 」と「この素晴らしい世界に祝福を!」
についてです。

この二作は原作が日本と中国それぞれのネット小説出身であることや、ネット小説関係のお約束のパロディも含んだコメディ寄りの内容で、いわゆる「お約束ネタ」を含んだ笑いが散りばめられた作品となっているなどの共通する部分があります。それに加えて両方ともスタジオディーンによる制作といった事情もあります。

ですがこの二作品の「笑い」に関してはかなり対照的な結果となったようで、ざっくりと言えば
「『このすば』の笑いやネタは中国のオタクにも刺さったのに対し、『霊剣山』の笑いやネタは日本のオタクには刺さらなかった」
といった所でしょうか。

またこの2作品は中国における注目度や話題の広まり方に関しても対照的でした。
当ブログでも以前に書いていますが「霊剣山」は中国のテンセントとスタジオディーンによる制作で、中国国産アニメが日本のテレビにも進出!ということで話題になっていました。

中国国内では箔付け的なものも含めてイロイロな報道が行われていましたし、放映開始前の時点で考えれば中国オタク界隈においては1月の新作アニメにおける屈指の話題作という扱いにもなっていた感もあります。
逆に「このすば」の方は事前の情報の少なさや、イラスト関連の素材もクオリティがそれほど高くなかったことから、中国オタクの視聴者層からはあまり注目されていませんでした。

しかもスタジオディーン作品ということで、
「霊験山」の第一話放映の後などは
「この調子では同じスタジオディーン作品の『このすば』もダメだろう」
といった見方さえ出ていたそうです。

ですがその後徐々に評価が上がっていき、作中に出て来るファンタジー系作品や転生トリップ系作品のお約束も踏まえたネタに食いついて楽しむ人も増えているのだとか。
私が中国オタク界隈の反応を見たり聞いたりした所によれば、作画面については叩かれたりすることもあるようですが、ストーリーや作中の笑いの要素に関してはおおむね評価されているようです。


・笑いを理解できる、楽しめる層の違い

この二つの作品の反応、
「笑い」の通じ方に違いが出た理由については、
「笑いを理解し、空気を共有するための手がかりの有無」
といったものが考えられます。この辺については
「日本の視聴者に通じる笑いの手がかりが有りそうで無かった『霊剣山』」
「中国の視聴者に通じる笑いの手がかりが無さそうで有った『このすば』」

といった言い方もできそうです。

「このすば」は中国のネットでも定番ネタして人気になっている「トリップ、転生」的な展開やファンタジーのお約束に関するパロディを含んだ作品ということから、中国のオタク層にもかなり「刺さる」作品となっているそうです。

それに対して「霊剣山」は仙侠系の知識が日本では一般的ではない事や、下ネタ関係をはじめとする笑いのツボの違い(?)などもあり日本の視聴者にあまり「刺さらない」といったことになってしまったようです。

しかし中国のオタクな人に聞いた話によれば、「霊剣山」に関しては「銀魂」的なノリに加えてネットの弾幕系コメントの動画サイト的なノリがあるので、日本人に仙侠系の予備知識が無くともある程度通じるのではないか……といった予想もあったそうです。

ですが実際の所、中国における「銀魂的な笑い」とされるものは、発端となったのが「銀魂」或いは「ギャグ漫画日和」ではあっても、その後中国の現地でイロイロな魔改造が加わっています。
またコメント付き動画サイトに関しても、ニコニコ動画とbilibiliではやはりユーザーの楽しみ方や飛び交うネタ、漂う空気に違いがありますから、予備知識の無い日本の視聴者に対して投げ込むには難しい所があった模様です。

それに加えて、「霊剣山」の作中のネタは中国のネットユーザーのコアな部分、ネット小説系ウケするもので、
「比較的若い世代のネットユーザー、動画サイトユーザーの笑い」
といった側面があるそうです。

「霊剣山」は原作小説の空気やネタに加えて、アニメ化の際に中国の方言やネットスラングを更に分かり易い形で盛り込んだことからより「コアな笑い」が強調されるようになった所もありますし、中国における反応を見ても、受け入れられる人とそうでない人がくっきりと分かれている印象を受けます。

ちなみに妥当なのかは分かりませんが、霊剣山の笑いのコア度(?)と日本のテレビで放映したことに関して中国関係の方と話した際には

・ニコ動の実況系のコアな笑いを、ニコ動の知識が無い所に持ってきたようなもの
・中国版カゲプロ(お笑い系)で、見る側にはニコ動の知識もボカロの知識も無い状態

といった例えも出て来ました。

「霊剣山」はこういった「笑いの範囲とターゲット」の難しさがある所に加えて、日本人視聴者が見る日本語版の方では更に

・日本では武侠ファンタジー、中国のネット小説などに関する世界観や法則などのお約束などの前提知識が無い
・日本語では耳慣れない言葉が少なくない上に、翻訳の関係で硬めの言葉になっていたりもする


といった要素が加わってしまうので、
「視聴者の方が理解するためにかなり頑張る必要がある」
作品になってしまった感もありますし、日本の一般的なアニメの視聴者に「刺さり難くなる」のは避けられなかったのかもしれません。


近年の中国でオタク向け、若者向けで当たった国産のアニメ作品にはコメディ系の作品が多いですし、「霊剣山」について中国の方では「手堅い」作品だと判断された可能性も考えられます。

しかし日本展開ということまで考えた場合、「霊剣山」という作品は日本で当たるようにするためにはかなり手間のかかる作品だったとも考えられますし、後付の話になってしまいますが日本への展開を行う上では不利な選択だったのではないかと思われます。

「霊剣山」という作品自体のパワーがあるのは間違いないのですが、アニメ化と日本展開に関してはイロイロともったいないことになってしまったなーなどと考えてしまいますね。


とりあえず、こんな所で。
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