罪ノ作ル不完全
木村は部室内にある風呂場で、空手でかいた汗をシャワーで流していた。
師範代である秋吉の練習は過酷であり、体の節々がズキズキと痛む。
「どうした~木村」
隣の浴槽につかる鈴木がそう訊いてきた。
木村は面倒くさそうに答える。
「まあ、練習がきつかったんで」
木村は一つ上の先輩である鈴木が嫌いであった。自ら空手部に入ってきたというのに、口を開けば文句をいい、顔は出すものの秋吉の目を欺いてはサボってばかりいるからだ。
なぜ、空手部に入ったんだ。
鈴木を見るたびにそう思う。
「そうだよな~俺も筋肉痛でさぁ」
「そうですか」木村はシャワーを止めた「じゃ、あがりますね」
木村が風呂場から出よう振り向くと、不意に右手をつかまれる。見ると鈴木が左手を伸ばしていた。
木村は訊いた。
「何してるんですか」
「ちょっと待てよ、一緒に風呂入ろうぜ」
「僕はいいです」
「そういわずにさ、ホラ」
鈴木が腕を引くと、木村は右手を振って、振りほどこうとする。
「やめてください」
「いいじゃんかよ!」
鈴木は腕をつかみつつも浴槽から出ると、木村をタイルの壁に押し込んだ。
「何してるんですか!」
「お前のことが好きだったんだよ」
木村の背筋に悪寒が走った。
こいつが空手部に入った理由は…。
「最初から、僕が目当てで」
「お前もホモなんだろ。素直になれよ、ホラホラホラホラ」
右の胸に舌をはわせてきた鈴木に、木村は怒りで叫んだ。
「やめろ!」
体が勝手に、幾度となく練習してきた正拳突きを放つ。
メキョ、という聞いたことの無い生々しい音がすると、鈴木の顔が180度回転し、その後頭部が木村の目に映っていた。
鈴木は前のめりに倒れ、木村の体に一瞬もたれかかった後、床のタイルに水しぶきを上げて落ちた。
木村は両手を頭に当てて、あわあわと唇を振るわせる。
殺してしまった、人を。
この時、木村の心中に罪悪感はなかった。むしろゴミを殺せて少し晴れやかな気分だったが、法律によって裁かれてしまうことを考えると、頭が真っ青になった。
木村はつぶやく。
「どうする…隠すか…いやそんなことしても…あ」
木村の脳裏に一つの解決策が浮かんだ。
「ぬああああああん疲れたもおおおおおおおん」
服を脱ぎながら鈴木がそう言うと、その隣にいる木村の二つ上である三浦も服を脱ぎつつ小声でいう。
「チカレタ…」
木村は鈴木の隣で、鈴木の様子をチラチラと見ながら、ゆっくりと服を脱いでいた。
正直、ここまでうまくいくとは思っていなかった。
木村は昨日、鈴木を殺した後、鈴木の死体を使いアンドロイドを作り出したのだ。
鈴木の個人情報などを大量にインプットするのに時間を労したが、鈴木の生き写しといっていいほどのできになった。
とはいっても油断はできない。
空手の稽古は難なくこなしたが、いつおかしな動作を起こすか分からないため、木村は服を脱ぎつつも鈴木を常に監視していた。
鈴木が三浦に訊く。
「三浦キツかったすねー今日は」
早速、先輩である三浦を呼び捨てにしており、木村の額から冷や汗が落ちる。
「なあ今日はもうすっげえキツかったぞ~」
どうやら、気にしていないようだ。
三浦がバカで助かったと思いながらも、やはり鈴木は完全では無いということが分かった。
2人の会話は続く。
「何でこんなキツいんすかねえ、サボりたくなりますよ~なんかぶっかつぅー」
今度はイントネーションがめちゃくちゃになる。
「どうすっかな、もう俺もなー」
三浦は意に介さずそう返した。
「脱ぐの、速いっすね…」
「シャツがもう、ビショビショだよ」
木村は鈴木に喋らせまいと、何かいおうと思ったが、何も思いつかず変な笑い声が出ていた。
「ウフフッ」
その声に鈴木は一切の反応を示さず、三浦に言う。
「風呂入ってさっぱりしましょうよ~」
「入ろうぜはやく」
三浦がそう言うと、木村は適当に相槌を打つ。
「そうですね」
服を脱ぎきった三浦が風呂場に歩き出した。
「ふぅー、あ、待ってくださいよぉ」
そういって鈴木も三浦の後を追う。
2人は脱ぎ終わったが、木村は鈴木の監視に頭がいっぱいで、まだすべてを脱ぎきれていなかった。
それを見て、三浦が言う。
「おい木村ァ、早くしろ」
木村がすぐに脱ぎ終わると、鈴木が言った。
「早くしろよぉ」
木村はすぐに2人の後を追う。
3人で風呂場に入った瞬間、木村は気づく。
水。それは機械である鈴木の天敵だった。
いまさら気づき、どうしようかと思ったが、ここまできてしまってはもうどうすることもできない。
いつも通り、三浦が椅子に座り鈴木がその後ろに立つと、木村は浴槽に入る。
鈴木の様子を確認すると、どこか挙動がおかしいように見えた。
すでに蒸気でやられている可能性がある。
鈴木があわを立てたタオルを持って言う。
「白菜かけますねぁ」
木村は青ざめた。
白菜ってなんだ。
『部活』を『ぶっかつ』はまだしも、もはや関係の無い野菜の名前を出せば、三浦は不思議に思うはずと思っていたが、三浦は「オッス」といっただけで、特に変な反応を見せなかった。
こいつホントバカだな。
鈴木が背中を洗い出すと、そこからは3人のたわいのない会話が続いた。
背中を洗い終わり、鈴木がシャワーを頭から流すと、三浦が両手で顔をぬぐいながら言う。
「おう、サンキュ。おい、次ッ…木村」
鈴木のことで頭がいっぱいの中、不意に呼ばれて戸惑いながらも返す。
「あ、はい」
「お前もだよ」
いつもはやらないことを要求されて、さらに戸惑う。
「え、僕もやるんですか」
「当たり前だよ、なあ?」
鈴木が言う。
「うーん、俺もヤッたんだからさ」
黙ってろ糞野朗。
そう思いながら、しぶしぶ木村は浴槽から出ようとすると、鈴木が入れ替わりで浴槽に入ろうとしため、あわてて木村は鈴木に訊いた。
「え、あ、ちょ入るんですか」
「入らないとスペース無いだろ」
「いや、そうですけど」
三浦は催促するようにいう。
「おい、速くしてくれよ」
「あ、はい」
木村はただ鈴木が壊れないことを願って、浴槽から出た。
あわ立てたタオルで、前から三浦の体を洗っていると、早速、浴槽につかる鈴木がおかしなことを口走る。
「…ふあー疲れたどぉおおん」
変な方言のようになっているが、またも三浦は気にすることなく木村にいう。
「木村も結構、洗い方うまいじゃん」
木村はほっと胸をなでおろして答える。
「ありがとうございます…」
また、たわいの無い会話をしつつも、木村は雑ながら三浦の体を一通り洗い終わる。
「じゃ、ながしますね」
木村がシャワーと取ろうとしながらそういうと、三浦がすぐに返した。
「あっ、おい待てぃ、肝心な所洗い忘れてるぞ」
「え、肝心な所?」
三浦は股間を指でさす。
「何トボケてんだよ、ここ洗えよん」
まさか股間を洗うことまで強要するとは思わなかった。
他人の性器を洗うのはいやだったが、さっさと終わらせて鈴木を浴槽から出したかったため、木村は「分かりました」といいすぐに股間を洗い出す。
洗い出した瞬間、鈴木が口走った。
「菅野美穂」
木村は震えた。
このタイミングでタレントの菅野美穂の名前を出す人間が、世界のどこにいる。意味不明だし、ギャグだとしても笑えない。
もうだめか。
そう思いながら三浦の顔を見たが、いつも通りのアホ面で、特に何も考えていないようだった。
不安に思いながらも股間を洗い続けていると、鈴木が訊く。
「三浦さん、上がりますかぁ?」
よくいってくれた。
木村がそう思っていると、三浦がいう。
「そうだなあ…流してくれ」
木村は立ち上がりながら答える。
「あ、はい」
シャワーで流し終えると、3人は風呂場から出て、各自バスタオルで体を拭きながら脱衣室を出た。
木村は服をすべて着るが、鈴木は上半身裸でタオルを首にかけ、三浦はシャツは着ているものの、パンツ一丁だった。
3人とも畳みの部室に座り込むと、木村は本を読み出し、2人は話し出した。
「三浦さん、これ夜中腹減んないっすか?」
「腹減ったなー」
「ですよねぇ?」
「うーん」
どちらも頭がおかしいせいなのか、会話がかみ合っていない。
「この辺にぃ、美味いラーメン屋の屋たたたたたたたたたた」
鈴木は全身をカタカタと揺らし、体からはバチバチと電気の音がしだした。
三浦は驚きのあまり立ち上がる。
「と、おう。ど、どうした!」
ついに壊れたか。
そう思いながらも木村はどうすることもできず、現状を眺めていた。
「やたたたやた、屋台屋台屋台屋台屋台」
鈴木の顔の穴という穴から黒い煙が噴出し、黒目が上下左右に動きだしたその時、爆発音と共に目の前が光で覆われた。
ニコニコ本社が爆発した。
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