「アルファ碁」とイ・セドル9段による人工知能(AI)対人間の囲碁対局の衝撃がさめらやない韓国で、政府が2020年までの5年間で1兆ウォン(約950億円)を投じ、AI研究を加速させる。日本の文部科学省に相当する韓国の未来創造科学部によれば、サムスン電子、LG電子、現代自動車、LINEの親会社で韓国最大のインターネットサービス会社「ネイバー」など大企業6社がプロジェクトに参画、AI研究所を設立したうえで政府が資金を供給する。
研究所の名称は「知的情報技術研究所(仮称)」。具体的な時期は未定だが、ソウル南部の板橋(バンギョ)に近く設立される見通し。未来創造科学部幹部によれば、研究イニシアティブに参加する6社は、30億ウォン(2億8500万円)ずつ負担することになっているという。
ただ、ネイチャー誌が報じたところによれば、韓国政府主導によるAI研究所はもともと2017年に新設されることで準備が進められていた。ところが、AIのアルファ碁がイ・セドル9段を4戦1敗で打ち負かし、圧倒的な強さを見せたことから、急きょ計画が前倒しされることになったようだ。
韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は大統領府で17日に行った演説で、「AIは人間の社会にとって恩恵となり得る。皮肉な話ではあるが、なかでも韓国は幸運だ。アルファ碁ショックのおかげで、手遅れになる前にAIの重要性を学んだ」と話し、「第4の産業革命」とするAIに多額の研究資金を投じる意義を強調した。
韓国政府主導のこれまでのAI研究としては、コンピュータービジョンの「ディープビュー」と「エクソブレイン」がある。特に「外部の脳」を意味する後者は2013年にスタートした10年間のプロジェクトで、自然言語を認識し、学習を通じて専門家レベルの知識を獲得しながら、人間と知的コミュニケーションができるソフトウエアの研究開発が目標。とはいえ、今回表明された1兆ウォンという数字に、これら既存プロジェクトへの投資額が含まれるのかどうかは不明だ。一方、聯合ニュースによれば、10月には韓国電子通信研究所が開発中のエクソブレインと人間によるクイズ対決が行われるという。
アルファ碁と5局渡り合い、一矢報いたイ・セドル9段は韓国で国民的ヒーローとなった。一方で同国内では政府に対する批判も巻き起こったようだ。AIがあれほど進化しているのに政府は何をやっているのだと。慌てて研究プロジェクトを前倒ししたというのが実情だろう。
ただ、ネイチャーでは、大企業6社が研究で主導的な役割を果たすことから「政府は企業にばかりお金を出している。企業はアプリケーションやちょっとした製品は作れるだろうが、基礎研究には関心がない」という韓国の大学のAI研究者の懸念の声も紹介している。
アルファ碁は世界のAI研究に多大な刺激を与えたわけだが、一方で良くも悪くも研究費増額の理由付けにも使われそうだ。
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