WEDGE REPORT

都立高校入試でまた出題ミス 理科教員の地学離れは深刻

勝村久司 (かつむら・ひさし)  高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員

1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。高等学校地学教諭。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の中央社会保険医療協議会や日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。2015年8月より群馬大学附属病院で腹腔鏡等で死亡事故が相次いだ事件の医療事故調査委員に就任。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

WEDGE REPORT

ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

»最新記事一覧へ

 にもかかわらず、解答が「イ」になってしまったのは、作成者が実際の位置をイだと勘違いして、それに合わせるように図2のスケッチを描いてしまったからではないか。

 ノンフィクションのフリをしながらも、フィクションで設問を作るのならば、図1の金星の位置も、月と火星の内分点で3:1から4:1くらいの比で、思い切り火星の近くに書いておくべきだった。

 そもそも、理科の問題で、フィクションなのにノンフィクションのフリはすべきではない。まして、ノンフィクションなのに、事実と異なる答に至るように誘導する設問は、極めて不健全だ。

日経新聞の報道の誤り

 日本経済新聞は、2016年3月4日付けで、『都立高入試の解答、金星の位置が実際とズレ』という見出しで、この問題を以下のように報じた。

  先月24日に実施した東京都立高一般入試の理科の問題で、金星の位置関係を尋ねた設問の解答が、実際に観測される位置と異なることが3日、都や関係者への取材で分かった。都教委は解答と実際の位置との違いを認めたが、問題はないとして点数調整などを行う考えはないとしている。
  設問は月や火星との位置関係を示す図や、金星の満ち欠けを描いたイラストをもとに、正しい金星の位置を選択させるもの。図と説明文を読めば正解が導き出される。
  ただ問題には、観察日が「平成27年(2015年)3月24日」と明記されていた。国立天文台の県秀彦准教授(天文教育)によると、実際の同日の金星の位置は、都が正解とする位置とは異なる。県准教授は「科学的に矛盾している。理科の入試問題として不適切」と指摘する。
  都教委によると、日付を入れたのは設問を具体的にイメージしやすいと考えたためで、「文章と図から惑星の位置関係を読み取る設問」と説明する。都立高一般入試の理科の問題では、14年にも太陽や月、地球の位置関係に関する出題ミスがあった。
(日本経済新聞  2016年3月4日朝刊)

 日経新聞が、放置されたままの都立高校の今回の入試問題の過ちを社会問題化しようとしたことは大いに評価できる。しかし、この報道にも大きな誤りがある(それを指摘するために、敢えて全文を引用した)。

 それは『図と説明文を読めば正解が導き出される。』と書かれてている部分だ。記者は誰の話を元にしてこのように書いたのかわからないが、図と説明文を読めばウもしくはイを選択せざるをえない設問になっているのであり、都教委が正解とするイだけが導き出せるということはない。

 日付の問題を全く考えなくても、「ウ」を正解とすべき設問であり、「イ」だけが正解ということは、そもそもおかしい。「ウ」と答えた生徒を×としたままで放置しているのは許されないと思う。

previous page
4
nextpage
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「WEDGE REPORT」

著者

勝村久司(かつむら・ひさし)

高等学校地学教諭、元厚生労働省医療安全対策検討WG委員

1961年生まれ。京都教育大学理学科卒業。高等学校地学教諭。1990年、陣痛促進剤による被害で長女を失い、医療事故や薬害などの市民運動に取り組む。厚生労働省の中央社会保険医療協議会や日本医療機能評価機構の産科医療補償制度再発防止委員会などの委員を歴任。2015年8月より群馬大学附属病院で腹腔鏡等で死亡事故が相次いだ事件の医療事故調査委員に就任。著書に『ぼくの星の王子さまへ』(幻冬舎文庫)、共著書に『どうなる!どうする?医療事故調査制度』(さいろ社)など。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍