「水曜日のシリウス」で好評連載中の「ニンジャスレイヤー殺(キルズ)」は、ニンジャスレイヤー本編とパラレルな世界を舞台に、より少年漫画色が強いアレンジをされているシリーズです。
作画の関根光太郎先生は本作が商業デビューであり、一体何者なのか? インターネット上にその情報はほとんど存在していません。しかし本人的には特に隠すつもりはないとの事で、翻訳チームがこの際いろいろ聞いてきました!
講談社のシリウス編集部へ
我々が訪れたのは講談社ビル。今まで講談社ビルを実際訪れたことはなく、なんかタネローンみたいな概念的存在、もしくはVR(ヴァーチャール・リアーリティ)なのではないかと疑ってかかっていたのですが、実際に行ってみると、護国寺駅地下鉄出口と直結している物理的な存在で間違いありませんでした。
考えを改めて中に入り、シリウス編集部の応接ソファーで関根先生の到着を待ちます。このへんは持ち込みに訪れたニュービー漫画家の原稿を見てやり取りする場所でもあるそうで、緊張感が漂います。そしてこちらがデスクです。こういった場所で生み出されていくのだなあ。
ここから会議室に移動。途中、通常の打ち合わせ室、喫煙可能な打ち合わせ室、カフェテリアなどを通過します。その辺で原稿をしている漫画家さんもいるそうです。カフェテリアは綺麗で、良さがありました。会議室に移動し、いよいよインタビューを開始です!
インタビュー開始:連載開始までのいきさつ
翻訳チーム(以下、翻):ドーモ。本日はありがとうございます。よろしくお願いします。
関根先生(以下、関):ドーモ。よろしくお願いします。
担当編集氏(以下、編):ドーモ。よろしくお願いします。
翻:2014年1月から始まったニンジャスレイヤー殺(以下、キルズ)が初の雑誌連載作品という認識で合っていますか?
関:そうです。
翻:2011年度のシリウス新人賞が25歳の時でしたので、今は29歳?
関:30歳です。新人賞の持ち込みの時は1歳サバをよんでいたので……数え年で出して……本当はその時は26歳でした。年齢低い方が未来があると思われて有利かなと。特に関係なかったですが。
参考リンク:第22回「少年シリウス」新人賞結果発表
翻:なぜシリウスに持ち込もうと思ったんですか?
関:もちろん他にもいろいろ持ち込んでますが、シリウスなら自分の描きたいものが描けるかなと。メカとかサイボーグがこう、バトルするやつですね。
翻:読み切り作品もそのような方向性でしたよね。メカがあって、女の子がいて、バトルがある的な。
関:本当は女の子描くの苦手なんで、あまり描きたくないんですよね。キルズでも、もしかしてメカと男キャラばっかり描けるのでは、と思って楽しみでした。でもそれだけだとダメだって編集さんに言われて、あれ読めこれ読めって色々勉強して、女の子のキャラクターを描くのも最近ようやく慣れてきました。
翻:どういう経緯でニンジャスレイヤーを描くことに?
関:最初の連載作品としてニンジャスレイヤーのコミカライズはどうか、というお話を編集さんからいただいて、それから物理書籍を読み始めました。
翻:それ以前にも、ニンジャスレイヤーの存在自体は知っていました?
関:はい、存在は知っていた、という感じですね。まだ書籍化前で……Pixivをやっている友人がネコネコカワイイを描いていたりしました。確かTwitterで第一部が連載されていた頃に。
翻:となると、ヘッズの間でもイラストがネコネコカワイイやヤモトぐらいしか描かれていない、そうとう初期の頃ですね。
関根:多分そうですね。もともと自分はデジタルで文章を読むのが苦手だったので、その時は内容を読んだことはなく、キャラが「アイエエエエ!」と叫んで失禁するらしい、凄いな、くらいの断片的な知識でした。
翻:その後、連載の話がきて、初めて物理書籍「ネオサイタマ炎上1」でニンジャスレイヤーを読んだ時の感想は?
関:いきなり「これまでのあらすじ」から始まってたので面食らいました。第一印象は、言葉の面白さが売りのギャグ的な作品なのかな? とか、日本語版トランスフォーマーみたいなゆるいノリの作品かな? と思って読み進んでいたんですが、「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」あたりから、「あっこれはもしかして」、と思い始めました。だからキルズ2巻収録の「キックアウト〜」とアゴニィ=サンは自分にとっても凄く思い入れの深いエピソードとキャラですね。そこから主人公であるニンジャスレイヤー(フジキド・ケンジ)の人物像に惹かれ、これが描きたい、と。あと、もともとサイボーグアクションとか、サイバーパンク的なガジェットや都市風景が好きだったので、そっちの方面からも凄く興味を持ちました。自分の好きなものが描けるんじゃないかなと。
翻:キルズといえば、ケレン味たっぷりのメカニカル・ギミックが特徴的ですね。
関:実際、自分の中で「キルズはメカニカル・ギミックでいく!」と方向性を定めたのは、メナス・オブ・ダークニンジャでダークニンジャが鞘カタパルトを用いた辺りだったと思います。トランスフォーマーが昔から好きで、特に変形ギミックにいつも心躍らせていました。あと、90年代ロボットアニメ、勇者シリーズの合体ギミックもですね。その辺りの思い入れを推し進めました。結果として、自分の色が出せたなと思います。
翻:ガジェットや変形ギミックが好きなのはどこから来ているのですか?
関:90年代のロボットアニメのガシガシ変形するやつとかです。あとタカラのホビー玩具的なもの。トランスフォーマーのトイをいじっている時に思いつくこともあります。人体のこの辺が動いたら面白いな、とか、サイバネだと予想外の動きが出せるので楽しいですね。とにかく、サイバネもののバトルが大好きなんですよ。
翻:メカ部分だけでなく、ナラクの巨大肉塊やローカルコトダマ空間の卒塔婆なども独自の解釈が効いていますね。
関:精神的な、オーラのような恐ろしいものって、絵で描くのはなかなか難しいですし、ああいうもっと肉とか血とか骨とかのイメージを強くした方がキルズらしくなるかなと思ってやってみました。
翻:派手なアクションはもちろんですが、キャラの表情も多彩です。アゴニイが現れた時の地上げヤクザのホワイトアウトしかかった表情など、モブキャラやサブキャラの味わい深い表情もいいですよね。
関:すべてシリアスですからね。極限状態に陥った人間が見せる、恐怖とも笑いともつかない、中間的な、混沌とした表情を追求しています。
翻:無表情オイランいいですよね。カンバンとかソウカイヤによく出てくる。
関:昔の映画とかアメコミに出てくる日本人キャラとかあんな感じですよね。衣装とか化粧とかも。全然嬉しくない色気や殺伐とした社会みたいなのを表現したかったので。
翻:ドージョー爆発のキノコも。
関:爆発がキノコにならないように考えぬいて描いたところ、キノコになりましたね。
翻:今読むと1巻の頃とはかなり描き方も変わっていますよね。
関:1巻の頃よりも陰影のメリハリがついていると思います。最初からこういうのをやりたかったんですけど、最初はデビューしたてだった事もあり、技術的に連載の中でやっていくノウハウを掴むまでに時間がかかりました。あと女の子も今の方が可愛く描けてると思います。
翻:ユカノ凄いですよね。最近の「ジ・アフターマス」で、「これは!」と思いました。
関:凄いですよね。
翻:特に好きなエピソードは?
関:「バック・イン・ブラック」が思い入れが強いです。もともとフジキドが好きでキルズを始めたんですが、描いているうちにさらに思い入れが強くなっていきました。変身ヒーローやアメコミヒーローのオリジン話が大好きなんです。「バック・イン・ブラック」を描き上げた時、これは、やりきった! と思いました。
編集:そういえば、関根先生に連絡を入れたきっかけとなった新人賞応募作も、ヒーローのオリジンを描いた話でした。そのときは惜しくも受賞自体は逃したのですが、「これは!」と思い、連絡を取りました。
翻:英語版も現在2巻まで発売されていますね。
関:そうですね、まだ読めてないんですけど。好評なようです。
編集:北米では現在1巻が10,000部くらい売れており、凄いです。北米での翻訳版マンガの売れ行きは、市場規模から換算すると10倍するイメージ、日本における100,000部くらいの強さがあります。メジャー誌の作品でも翻訳版は10,000部くらいだったりするんです。それと同じくらいと考えると、キルズは強さがありますね。3巻はまだか、みたいな問い合わせも増えています。
初期のラフスケッチお蔵出し
初期に提示されたラフでは、割と万遍なく1部の人気エピソードをやる的な感じであり、このようにヤモトのラフもあった。またネームには、コンプ版のように地の文が入っていた。
ヤモトはキルズには登場しない可能性が高いため、今となってはレアなスケッチだ。
フジキドのイメージは最初から確立されていた。連載Verよりも、やや若さがあるか。
ネクロマンティック・フィードバックのスケッチ。描きたいものがストレートに伝わってくる。
ナンシーの初期スケッチ。これはこれでカワイイがある。
関:コミカライズとしては、先発の無印(コンプティーク連載)とグラマラスキラーズ(ビーズログコミック掲載)があったので、コンセプトをどうするかが悩みどころでした。既にコミカライズがある中で、そのまま原作の人気エピソードをダイジェスト的にやったら意味が無い、どうしよう、と。そこから編集さんや翻訳チームと打ち合わせを重ねる中で、もっと得意分野で行こうよ、物語もアレンジしたほうがいいよ、という事になり。結果的に、自分の好きなメカとか特撮的なものをたくさん描ける題材になったし、うまく自分の立ち位置を見つけられて良かったです。第一部のフジキドの物語を再構成し、それを時系列順にやる、というのが決まって、かなりクリアになりました。最初にパイロット的に作ったネームでは、若干滑ったコミカルギャグっぽくなっていて、実際ダメ出しがあったわけですが、思い返すと、あれはやめておいてよかった。
パーソナリティやイメージの源泉に迫る
翻:ご自分をスシネタに例えると何ですか?
関:カッパ巻きですかね。
翻:自画像のイメージと関根先生の物理存在はだいぶ違いますよね。
関:あの自画像は、漫画家になる前に書店で働いていた頃、POP書きをしていた時のキャラです。POPが好きに書けたのでそこは楽しかったですね。
翻:学生時代からマンガを描いていてそのまま漫画家になったわけでは無いのですね。
関:いわゆるマン研的なところに入っていましたが、そんなにたくさん描いていたわけではなく、マンガ家になろうと思ってちゃんと作品として仕上げたのは、就活に失敗してからですね。一通り持ち込みをしてから一旦就職し、それからまた新人賞に応募しました。
翻:映像作品として影響を受けたものは?
関:映画だとブレードランナー。あとは90年代ロボアニメ、特撮、ライダー、メタルヒーロー系です。仮面ライダーブラックRXとかは怖かった。シャドウムーンは凄く怖くて、歩いてるだけで威圧感があって、そういう記憶が敵キャラの描写に役立ってると思います。ライダーの中では、特に仮面ライダーZOが好きです。
翻:特に強い影響を受けているマンガ家や作品は?
関:内藤泰弘先生、皆川亮二先生、山口貴由先生。作品としては特に「トライガン」です。
翻:好きな登場人物は?
関:やっぱりまずフジキドですね。それから、「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」のギンイチです。描いてるうちに感情移入してきて、自分の高校生時代とだぶってくるんですよね。もちろんイチジク=サンはいませんでしたが……。
翻:イチジク=サンはファンタジー存在ですからね。
関:そうですね!
翻:ファンタジーをアゴニィという酷いリアルが壊しに来るという。なんか第一部は若者に厳しい話が多いですね。
関:自分もギンイチ君と同じく音楽のほうに疎く、メタルとパンクの区別もつかないくらいだったので、色々な資料をもらって、何とか「キックアウト〜」を描きました。あれで大丈夫でしたかね?
翻:いや、凄くよかったです。
翻:ちなみに、キルズは第1部のネオサイタマ炎上編なわけですが、第何部かを気にせず、描いてみたいなと思う好きなエピソードを選ぶとしたら?
関:最近物理書籍で読んだ「ヘイル・トゥ・ザ・シェード・オブ・ブッダ・スピード」ですかね。カケルがいいんですよね。あとTwitter連載の方ですが、フジキドとレッドハッグが泥酔する「ザ・ドランクン・アンド・ストレイド」。
翻:敵ニンジャだと、どのあたりが好きですか?
関:レオパルドなんか好きですね。どうしようもない中で生きあがいて、結局どうしようもなかった、みたいな所が好きです。
翻:都市のカンバンや落書きの描きこみも凄いですが、イマジネーションの源泉はどのあたりに?
関:やっぱり映画の「ブレードランナー」とか、昔のプレイステーションの「クーロンズ・ゲート」ですね。九龍城には今も凄い憧れがあります。
翻:翻訳チームにもクーロンズ・ゲートのフリークがいます。キャラクターではハニー・レディが好きだそうです。
関:ぼくが好きなキャラクターは美脚屋ですね。
漫画家の生活ってどんなですか?
翻:やはり忙しいですか?
関:めちゃくちゃ忙しいですね。
翻:基本的なマンガ作成環境などについて、いくつか質問させてください。画材やアナログ、デジタルの使い分けなどは?
関:ペン入れまではアナログで、そこから先がデジタルです。
翻:アシスタントさんはいます?
関:いますが、まだうまく仕事を効率良く任せることができないんですよね……アクションシーンとか決めのコマは、どうしても背景も自分で描きたくなってしまって。
翻:月2回、第2水曜と第4水曜に掲載(水曜日のシリウス)という結構変則的な連載スケジュールですが、1ヶ月のワークスケジュール的なものはどんな感じなんですか?
関:月イチの締め切りを目指して1週間でネーム、2週間で作画…とやれればいいんですが、だいたいどこかが膨らんで破綻して、編集さんに時間かかりすぎだと怒られる感じです。忙しいのですが、無理やり週1日で休みは作っています。
翻:休みの日はどんな事を。
関:思い出せない……寝ていますね……。
翻:ニンジャスレイヤーのコミカライズをしていて大変な事はありますか?
関:どうしても他のメディアミックス作品と比較されてしまうので、そこはプレッシャーではあります。
翻:水面下の準備中に「無印」とグラキラが先に始まった所からスタートでしたね。
関:原作準拠の「無印」の方向性では行けないぞ、となり、さらにグラキラを見て「これは!」と焦りました。
翻:では、ニンジャスレイヤーのコミカライズをしていて楽しいところは?
関:やりたいもの、変なものを描いてもあまり怒られない事ですね。
翻:キルズ読者やニンジャヘッズの中にも、マンガ家志望の人がいるかもしれません。何かご自身の経験をもとに伝えたいことなどありますか?
関:たとえば自分の場合、持ち込みを始める前に「コミティアでスカウト待ち」等していた時期もあります。これは割と典型的な行動なんですが……もちろん声はかかりませんでした。変なプライドやファンタジーは捨てて、自分から持ち込みに行った方がいいと思います。自分の作品は面白いという自信はあった方がいいですが、デビューの手段にはこだわらないほうがいいです!
編集:持ち込みで、持って行った原稿がそのままオールオッケーで「連載決定!」となる可能性は、ほぼありません。持ち込みは現在の自分のレベルがどのくらいかを確認するためのものだと思っていただければと。現在のレベルがわかれば、次のステップが見えてくるので、漫画家志望の方は、持ち込みは恐れないでほしいです。他の人から自分の作品について建設的な意見を得られる環境を作るのが大事です。あと、ちゃんと作品として完成したものを見せて欲しいですね。一発目で新人賞が取れなくても、応募された作品の中から編集者が気になる作品をピックアップしてコンタクトを取ることは多いんです。関根先生はまさにその形です。
最後に
翻:これがデビュー作で、しかもあまりSNS上などで情報発信もされていないため、どんな人物なのかとニンジャヘッズからも警戒されているようですが、何かニンジャヘッズの皆さんにひとことお願いします。
関:大丈夫、肉体があります。こわくないよ。
翻:最後になりますが、好きなスシネタは何ですか?
関:エンガワですね。たまに回転寿司とかで食べます。あと炙りサーモンとか好きです。
未来へ
このようなインタビューを介して、関根=センセイの深いフジキド愛やユカノ愛、そして常にシリアスなスタンスを改めて感じる事ができました。
我々は高度に情報化された社会に暮らしており、今では多くのマンガ作品もインターネット上で配信されています。雑誌への物理的接触もなく、作り手の顔も見えず、あなたはあたかも、この世の全てをボタン押せば自動的に出てくるマッチャサーバー的に誤解してしまっていたと思いますが、実際このように物理的な出版社ビルや社員食堂やマンガ家アジトなどが存在し、そこにいるリアルボディを持った人たちの温かみのある手によって、世に送り出されているわけなのです。あなたはこの記事を通してそれらを悟り、物質文明もまだ捨てたものではないなと、目からウロコだったことと思います。
店舗特典カード用らしきユカノを我々は見逃さなかった。
そんな関根=センセイの最新刊「ニンジャスレイヤー殺 3」は、3月25日発売。店舗限定特典も各種用意されているようなので、続報が入り次第またこのブログでお伝えします! 書籍を買って物質をゲットしよう!
(Tantou)