金子洋一(民主党参議院議員)
金融緩和は成功したが、消費税増税が景気に悪影響
私は、政府が予定している消費税再増税反対を主張している。今年1月にはこれを聞きつけた与党議員がわが党に「けしからん!」と怒鳴り込んできたそうだ。私は野党議員だから、読者のみなさんは私が「アベノミクスは終わった!」と金切り声をあげて批判すると思われるかもしれないが、そうではない。エコノミスト出身の議員として、ここは理路整然と、アベノミクスと現下の日本経済の問題点を説こうと思う。
一番強調したいのは、わが国経済の将来を考えれば、消費税再増税はとめる以外の選択肢はないということだ。増税を強行すればアベノミクスは、「生活者の消費」という最大の基盤から崩れ落ちるだろう。
ありがちな『アベノミクス崩壊論』は、最近の個人消費の剥落への消費増税の悪影響については目をつむり、原因を日銀による「異次元の金融緩和」の副作用に押しつけるものだ。たとえば、金融緩和をしても、日本経済の「経済の実力」というべき潜在成長率が上がらないからダメなのだという「量的緩和は偽薬のようなものだ」とするもので、主に財政を切り詰めることしか考えていない霞が関官僚からくる批判だ。私は黒田日銀総裁にはあまり高い評価ができないのだが、彼を含む政策担当者はだれも金融緩和で「成長率の天井」や「経済の実力」を上げようとしていない。だから、実はこの議論はまったくあてはまらない。それゆえ与党にとってもまったく痛くもかゆくもない批判だ。

12月26日に政権発足3年を迎えるにあたり報道陣の取材に応じる安倍晋三首相=2015年12月25日、首相官邸
実態はこうしたありがちな批判とは逆だ。金融緩和は2013年春以来、なんとか機能しているのだが、2014年4月からの消費増税が原因となって国内で深刻な消費不況が起きてしまった。だから来年4月の消費税の再増税などもってのほかだということが事実だ。
まず、私自身の立場をあきらかにしよう。私は民主党内で政権交代直後の2010年3月に「デフレ脱却議員連盟」を事務局長として結成し、そこで「量的緩和と2~3%程度のインフレ目標の実現」を提唱していた。また、党内の消費税論議では「消費増税を慎重に考える会」の事務局長として、景気が悪くなると予想されるときには消費増税を延期できるという「景気条項」を法案の中にいれるために活動をした。もともとは、経済企画庁やOECDなどで景気動向指数作成や、経済対策の取りまとめなどの仕事をしていた霞が関の役人であった。
さて、アベノミクスをどう評価するのか、この間の経済の動きをみてみよう。経済は、金融緩和に伴う円安がもたらした「円安メリット」で回復した。政府が景気動向指数に基づいて世界的に標準化された方法で定める「景気の谷」(最悪期)は2012年11月。これはちょうど円高が終わった月だ。そこを境に景気が回復しつつある。有効求人倍率、失業率などの雇用状況も改善している。株価にしても、日経平均はいまでこそ世界経済の混乱を反映して1万7千円台をきっているが、昨年夏には15年ぶり2万円に乗せた。これはわが国経済のためにまずは喜ばしいことだ。
やはり債券を主に買い入れ、株式を含む実物資産に民間資金をシフトさせる日銀による金融緩和の力は大きかったというのがすなおな評価だろう。少し以前の話だが、主要122社に対して行われたアンケートでは、安倍政権に対する政策評価の中で最高評価を受けた項目は「金融緩和」だった。われわれが民主党デフレ脱却議連として再三提言したとおり、民主党政権でこの政策を実現していれば、わが国経済の回復はより早かった。この間に失われた国富は少なく見積もっても10兆円以上の莫大な損失となるだろう。慚愧に堪えない。
では、国会で今の野党が政府に対して行っている批判は、全部まとはずれなのだろうか。そうとはとても言えないのだから物事は複雑である。
今、景気がいいというのは半分本当で半分ウソなのだ。確かに従来からの景気動向指数で測れば明らかに景気はよい。雇用も堅調。しかしこれは主に製造業中心に生産する側である企業の好不況をとらえた指標だ。サービス業の動きはこうした指標ではとらえきれない。そしてまた製造業は、のちほど述べるが国内で空前の「消費不況」がおきていても、輸出によって大幅な利益を生むことができる。だから企業の生産が順調であることだけ見て、「日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は良好」などと政府がうそぶいている余裕はない。
ここで目を転じて、個人消費を見てみたい。実は2014年4月からこのかた厳しい「消費不況」が続いている。もちろんその原因は、その月から行われた消費税の5%から8%への引き上げである。
消費税は、本来、消費に対するペナルティである。消費税は最終的に消費者が負担するものである以上、その最大の悪影響は消費者がこうむることになる。だから消費税再増税はとめなければならないし、同時に消費へのてこ入れが絶対に必要となるというのが私の結論だ。