円、楕円、双曲線、放物線、サイクロイド……
世界は曲線で溢れている!
「自然は曲線を創り人間は直線を創る」
湯川秀樹博士の有名な言葉があるように自然や宇宙を知ろうとするとき、きまって曲線が現れます。
本書のガイドとなってくれるキーワードは「円から楕円へ」です。「太陽系とケプラーの3法則」「ガリレオの円弧振り子からホイヘンスの振り子時計へ」「周長問題から微積分へ」「ピタゴラスの定理からフェルマーの最終定理へ」を中心に、数理の目で見る曲線の秘密に迫ります。
はじめに
曲線について、語ってみたいという気持ちが長いことありましたが、ここにようやく一つの形にすることができました。また、高等学校で微積分を学び始めた人たちへの贈り物として、ちょっとした副読本となるものを書きたいという気持ちも強くあって、温めていたものでもあります。
曲線を題名に掲げてはいますが、曲線を広く解説するような読み物ではありません。自然界に溢れている曲線、生活のなかに多々ある曲線、芸術の世界に現れる曲線などありますが、数学や物理学において現れる、すなわち数理の目で見る曲線について見ていきます。
そのとき、やはり入り口は、曲線の基本である円ということになるでしょう。そして、円をちょっと変形すると楕円となります。この円から楕円にほんのちょっと踏み出すだけで、2000年に亘る宇宙論の変遷を語ることになります。
ところで、円周は直径に円周率を掛けるだけで計算できますが、どんなに変形が小さくても楕円になったとたん、周長は簡単に計算することはできません。楕円積分というものに頼らなくてはならないのです。一方、代数学においてはよく知られているピタゴラスの定理は、円を使ってよく理解することができます。一方、ピタゴラスの定理を一般化した有名なフェルマーの最終定理の証明には、楕円曲線という曲線が登場します。ここでも円から楕円への踏みだしがありますね。
円と楕円の間に、いったいどんなことが潜んでいるんだろうなどと考えてみると、あまり知られていなかった面白いからくりが見えてきます。そんなことから、いろいろな曲線に拡げて考えてみるのではなく、円から楕円へとほんの一歩踏みだしただけの、その一歩の中にどれほどのからくりが詰まっているのかを一緒に覗いてみませんか。気が向いたら、ちょっと鉛筆を動かして確かめることができそうな、例題的な計算も交えてまとめてみた一書です。
円と楕円をキーワードに、数学、物理、天文に亘ってのトピックスをとりあげましたが、その全体の概観を第1章にまとめてみました。
第2章は、各トピックスに入るまでのウォーミングアップという感じで、おさらいというか再確認の気持ちで、まずは円と円周率についてまとめてあります。
第3章では、円を崇高な曲線として構築された古代の宇宙像の歴史の中から、円が基本という観念のままに、いかに太陽が中心にある宇宙像を見いだすことができたのかを振り返ってみましょう。
第4章では、ケプラーに登場してもらって、どのようにして、またどんな苦労の末に、惑星軌道は円ではなく楕円を描くと結論づけることができたのかを考えます。
第5章および6章の話はすっかり変わって、時計作りと等時性と曲線についてのことですが、こんなところに曲線の数学の発展の端緒があったのかと思われるお話です。
最後の第7,8章は、代数学において最もよく知られたピタゴラスの定理は、円を使ってよく理解できるという話で、そのアイデアを踏襲した楕円曲線という曲線の研究から、ピタゴラスの定理の一般化とみなされるフェルマーの最終定理の証明が完結したという、代数学と曲線との深い関係を見ていただいたところで、本書の締めとしたいと思っています。
話題は、天文、等時性を持つ時計作り、曲線の周長問題、それに代数学におけるフェルマーの最終定理など多岐に亘っていますが、「円から楕円へ」というキーワードのガイドの下に、それらの根底に潜む数学を探ってみたといえるのではないでしょうか。
1949年東京生まれ。1974年横浜国立大学工学部卒業。その後、数学を京都大学池田峰夫教授に、理論物理学を横浜国立大学の高野義郎名誉教授に師事。京都大学工学部助教授、滋賀県立大学工学部教授を経て、現在は、滋賀県立大学名誉教授、大阪市立大学数学研究所専任所員。ブルーバックスには『波のしくみ』(共著)がある。
自然に潜む数学の真理
松下泰雄=著
発行年月日: 2016/03/20
ページ数: 248
シリーズ通巻番号: B1961
定価:本体 900円(税別)
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